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海外ドラマに夢中!

多チャンネル時代を迎えて〜米国のテレビ放送事情〜 後編
(by 岸川 靖)

No.58 2005.06.09

前回ご説明したように、米国では、地上波の6大ネットワーク局(ABC、NBC、CBS、FOX、UPN、WB)を中心に、ケーブルTV局とシンジケート(地方局)が各地に数多く点在し、その総数は日本とは比較にならない規模とマーケットを形成しています。

米国では、BS・CS・ケーブル放送局は、ニュース専門局のCNN(ケーブル・ネットワーク・ニュース)や歴史物で定評のあるヒストリーチャンネル、科学番組に力を入れているディスカバリーチャンネル、音楽だけのMTV(これは日本でも有名ですね)、芸能・音楽・映画情報のE!(エンターテインメント)チャンネル、ディズニー作品だけを放送しているディズニー・チャンネル、コメディだけのコメディ・チャンネル、アニメだけを放送しているカートゥーン・ネットワーク(ネットワークといってもケーブル局です)、さらに西部劇だけを放送しているチャンネルに、スペイン語放送のみのチャンネルなど、実にさまざまなチャンネルがあります。非常に専門性の高い局が多いことがおわかりいただけるでしょう。

これらの中には無料放送もありますが、大半は有料で契約制になっています。そのため、これらの各ケーブルは、それぞれその地域の視聴者数(契約者数)によって、配信が始まったり、逆に停止になったりします。
例を挙げると90年代初頭、ロサンゼルス市でSci−Fiチャンネルのケーブル配信が始まりました。同チャンネルはその名前の通り、SF作品のみを放送しているケーブル局です。開局当初のプログラムは50、60、70年代のSFテレビシリーズの再放送と、その種の映画ばかりでした。配信はSci−Fiチャンネルが直接配信するのではなく、ケーブル番組をいくつかまとめて配信する基地局があり、そこから配信されています。さて、Sci−Fiチャンネルはロサンゼルスで華々しくスタートしましたが、数か月に渡る放送の結果、契約率が上がらず、配信をいったんうち切られます(空いたチャンネルにはコメディ・チャンネルが入りました)。SF作品といえば若い人たちに人気があるジャンルなのに、どうして契約者数が少なかったのでしょう? 答えは、若い視聴者がお金を払って観たいと思うほどの魅力的なコンテンツ(新作)が無かったからだと言われています。ちなみに現在では、徐々に自社制作が増え、現在第8シーズンを放送中の『スターゲイト SG−1』やリメイク版『宇宙空母ギャラクティカ』など、多くの人気番組を持つ局となり、ロサンゼルスでも再び配信されています。かなり、シビアな世界であることは確かですね。

さて、一方、公共放送という存在についてはどうなっているのでしょうか? 日本ではTV放送開始以来、NHK(日本放送協会)が公共放送として親しまれてきました。受信料で運営されるため、コマーシャルを挿入せず、そのためスポンサーなどの影響を受けない番組作りという形となっています。そして、そのシステムのお手本の一つとしては、有名な英国のBBCが存在します。
ところが、TV大国である米国では、そうした形式での公共放送がありません。とはいえ、存在していないわけでもないのです。PBS(Public Broadcasting Service=公共放送サービス)と呼称される放送局がそれです。この局の財源は受信料ではなく、連邦、州、地方の各政府からの交付金の他、寄付金や広告などからなる予算で運営されていて、内容は全部で四つのカテゴリー(科学・自然、アート・ドラマ、ニュース・ドキュメンタリー、ライフ・カルチャー)に分類され、ニュースやドキュメンタリー、教育プログラムなどが中心です。もちろんドラマも放送されていますが、英国制作の『ミス・マープル』など、他局の作品の放送だけにとどまっていて、比較的地味な存在であることは否めません。このPBSのプログラムは、ローカル・ニュース以外はほぼ同じで、各州毎に基地局があり、24時間放送されています。

結局、米国ではあくまでも企業が利益のために作った会社としての放送局が中心となっているわけです(原則的に6大ネットワークとシンジケートは無料です)。
では、この環境で、大型のメディアでの公平な報道などが成り立つのでしょうか? もし、特定の放送局がスポンサーや政治的な意図で放送プログラムを組んだ場合、情報操作も可能ですし、また、“ヒットするなら何でもやる”といった内容が増え、子供への影響などが心配されることも想定されます。しかし、そうしたことを監視するため、米国の放送法では幾つかの重要な制限があり、また視聴制限等の自浄システムもあります。
まず、放送法で私が考えるもっとも大事なポイントは“ひとつの企業が、ふたつ以上のネットワークを経営してはならない”です。これは複数のネットワークを使った情報操作に制限をかける物です(ただし、最近はネットワークのUPNの親会社であり巨大コンゴロマリットである、ヴァイアコムが、昔の3大ネットワークのひとつCBSを買収し、この法律に抵触するかどうかが問題になっていました。ヴァイアコム社がどちらかの権利を手放したという話は聞かないので、いまでも両社の筆頭株主のようです)。こうすることによって、メディア各社同士の相互監視を阻害しないようにしようというわけです。

また、視聴制限というのはドラマなどの内容により、レイティング(規制)を番組冒頭に表示するという自主規制などを指します。これは、そのドラマを観る前に、あらかじめ「暴力的なシーンがあります」とか「Hなシーンがあります」とか「汚い言葉が出てきます」というような事を表示するもので、これをもとに、親は子供に見せるかどうかを判断することになります。また、子供が勝手にその種の番組を観てしまうのを防止するため、チャンネル選びに番組のレイティングによって、視聴の可能・不可能を判断するチップを搭載したテレビやビデオ機器も出てきました。
また。単に“MA”と表示してある番組もありますが、これは「Matured Adult(成熟した大人)」という単語の略称で、大人向けの番組であるという表示です。

多少駆け足になってしまいましたが、米国のテレビ界が、(同様に多チャンネル化が進行しているとはいえ)日本のそれとは、ずいぶん異なっているのがお分かりいただけたのではないでしょうか?
ともあれ、アメリカのTVドラマは、こうしたテレビ業界の苛酷(かこく)な競争の中で、その有力なコンテンツの一つとして生まれてきているのです。

※コラムに含まれる番組の放送日時や告知の情報等は掲載時のものです。ご注意ください。



岸川 靖(きしかわ・おさむ) 岸川 靖(きしかわ・おさむ)

1957年、東京生まれ。編集者・ライター。雑誌「幻影城」編集を皮切りに執筆をはじめ、海外ドラマ、特撮映画等の著書多数。
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