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海外ドラマに夢中!

多チャンネル時代を迎えて〜米国のテレビ放送事情〜 前編
(by 岸川 靖)

No.57 2005.06.02

日本では長い間、地上波と呼ばれるVHF放送とUHF放送が中心でした。その後、80年代後半になって衛星(BS/CS)放送やケーブル放送、そして最近ではデジタルハイビジョン放送も始まり、多チャンネル化が一挙に進みました。しかし、米国では既に90年代初頭から、一挙に多チャンネル化が進んでいます。今回はそうした米国のTV局の放送形態についてあれこれご紹介しましょう。

米国のTVの放送形態は、大きく分けて地上波(全国放送であるネットワークと地方放送であるシンジケートの2種)、ケーブル、衛星放送があり、基本的には日本とほぼ同じです(というより、近年、日本が米国の形態に近づいてきたというほうが正しいでしょう)。しかし、その規模がはるかに違います。例えばニューヨークだけでも、視聴可能なすべての局は100を超えるのです。
現在アメリカでは、地上波の6大ネットワーク局(ABC、NBC、CBS、FOX、UPN、WB)を中心に、ケーブルTV局とシンジケート(地方局)が各地に数多く点在し、その総数は日本とは比較にならない規模となります(尚、ネットワークとシンジケートは無料。ケーブルやCSは有料ですが、CSには無料の局もあります。また、どれもCMは入ります)。
放送される番組は、各局が独自に制作したオリジナル作品のほかに、別の局で制作されたものでも、互いにシンジケート契約を結ぶことにより放送されています。ちなみに“シンジケート”という言葉には、“企業組合”や“記事を新聞・雑誌に同時に発表する”という意味も含まれています。
日本の民放のように、在京キー局を中心としたネットワ−クに縛られるのではなく、人気のある作品は各地方局で個別に契約し、同じシリーズを何度も再放送するので、局や時間を選べば同じ番組を何度も見ることが可能です。そのため、日本では考えられないことも起こります。例えば、同じ地域の別の地方局で、同じ番組を放送していることがしばしばあるのです。つまり火曜日のAチャンネルで放送されている番組が、木曜日にはBチャンネルで放送されている。そういった不思議なことがしばしば起こります。
過去の例をあげてみましょう。『アイ・ラブ・ルーシー』(1951〜57)というテレビシリーズがあります。この番組はルシル・ボール演じる主婦ルーシーの、日常で起きるドタバタを描いたシチュエーション・コメディ(シット・コム)です。おそらく米国で、もっとも親しまれ、かつ何度も再放送が行われている番組でしょう。この作品は物語の基本設定や、人物設定が単純で、一度観れば誰でも理解できるようになっています。しかも、1話読み切りで30分枠ですから、いつ観ても楽しめます。従って、再放送作品として何度も繰り返し放送されています。一時期、ロサンゼルスではシンジケート系2局とケーブル、衛星で週に5回も放送されていたというような事もありました。
つまり、人気の高い番組はオンエアの機会が増える可能性も高いのです。当然、制作サイドには視聴者が何度見ても見飽きない、優れた作品が要求される・・・。単純に“初回放送が高視聴率で広告収入が増える”という“一回きり”の考え方では済まない放送界のシステムが、米国ドラマの質の高さを引っ張っているという側面を見て取ることが出来るのです。
例えばパラマウント・テレビジョンの親会社ヴァイアコム社の幹部は、自局で制作放送されている『スタートレック』シリーズを“スタートレック”とは呼びません。“フランチャイズ”と呼ぶのです。この場合の“フランチャイズ”は、日本語で言うそれとは少し意味が異なり、どちらかというと多角的に商売することのできる“特権”という意味になります。作品が成功すれば、再放送の収入だけではなく、さまざまな商品やソフト化で多額の収益につながるからです。ですからドラマ制作には力が入るのです。

さて、地上波で系列局が存在し、全国を網羅している全国ネット局でも、地域によって放送される番組と、そうでない番組があります。例えばドラマではありませんが、ローカルニュースなんかがそうです。
これは、米国も日本と同じで、ネットワーク局でも“ローカル・プログラミング(Local Programming)”という放送時間帯が毎日どこかに必ず設けられており、地域ごとに違う内容が放送されています。そのため、TV番組のガイド雑誌も地域ごとに違う版を出しているのです。アメリカで最も売れている雑誌はTV誌の「TV Guide」ですが、この雑誌はカリフォルニア州だけでもロサンゼルス版、サンフランシスコ版、サンディエゴ版などがあります。それゆえ、同誌はアメリカ国内で、州の数を上回る100近いバージョンが発行されているのです(日本では、各地方ごとの版がある程度です)。

一方、新聞各紙のテレビ欄はどうでしょうか?
新聞のテレビ欄は地域の違いに加え、各世帯でTVの契約内容が異なることもあり、主要チャンネル(ネットワーク局とCNN等の主要ケーブル局)の番組表しか載せていません。さらに、朝刊の配達時間は朝6時前後と日本よりも遅め、(早朝の番組は既に終わった後なので)番組表は午後からしか載っていません。従って、自分の地域でやっているTVの内容を詳しく知りたい場合は、新聞の日曜版についてくる別刷りの週間番組表を見るか、TV雑誌を自分で買うのが普通になっています。「TV Guide」誌が全雑誌の中で最高の売上高を誇っているというのは、そうした理由からかもしれません。
日本では、朝はとりあえず新聞のテレビ欄をチェック、という人も多いかもしれませんが、アメリカでは、簡単にチェックしきれないほど多くのチャンネルがあるということが、こうした面からも実感していただけるのではないでしょうか?

更に、もう一つの放送形態、“ペイ・パー・ビュー(Paid Programming)”というものについても触れておきましょう。これは、その番組分(枠分)のみの料金を支払って観る形態で、番組ごとに料金がカウントされる有料コンテンツです。主にボクシングなどのスポーツやアダルト系コンテンツの他、近年は映画の配信が増えており、“一本いくら”で期間中(多くは1週間)なら、好きな作品が何度でも見られるというシステムです。
このシステムは日本でも最近行われるようになってきましたから、実際に使用されたり、耳にされたりしている方も少なくないでしょう。とはいえ、そこは米国。そのコンテンツの一つとして、既に、現在ロードショー公開中の映画を放送してしまうケース(!)もあるのです。もちろん、その料金は映画館に行くのとほとんど同じですし、スクランブル信号が入っているため、ビデオなどにコピーは出来ない仕組みとなってはいますが、やはり、少なからず驚かされる話ではありました・・・。

次週は、今回の内容を踏まえて、米国ではどのような個性的なチャンネルがあるのかをご紹介します。

※コラムに含まれる番組の放送日時や告知の情報等は掲載時のものです。ご注意ください。



岸川 靖(きしかわ・おさむ) 岸川 靖(きしかわ・おさむ)

1957年、東京生まれ。編集者・ライター。雑誌「幻影城」編集を皮切りに執筆をはじめ、海外ドラマ、特撮映画等の著書多数。
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