しかし、毎週『デスパレートな妻たち』や『ER』(もちろん、他の作品も・・・)をご覧になっている皆さんなら、その他のクレジットの多さも気になっているはず!? そこで今回は物語を作って行く上で大事なストーリーと脚本にまつわるスタッフについて紹介します。
米国ドラマの場合、脚本のクレジットはたいていの場合「Written by〜」という形になっています。文字通り書いている人のことです。ただし、このクレジットにも幾通りの表記があるようで、まずは、そのあたりから始めましょう。
最初に作品自体の物語(ストーリー)のクレジットです。
小説やコミックスなどの原作がある場合、単に「story(ストーリー)」と表記されることが多いようです。ただし、小説が原作の場合は「novel(ノベル)=小説」と表記されることもあります。
また、原作の小説が無い場合で、プロデューサーが基本構成や世界観を考えた場合は、「created(クリエイティド)=創造」もしくは「creator(クリエイター)=創造者」と表記されます。BS2で現在放送されている作品に則して言えば、『デスパレート〜』は“created by Marc Cherry(マーク・チェリー)”とあり、『ER 緊急救命室』のほうは“created by Michael Crichton(マイケル・クライトン)”。M.チェリー、M.クライトンという面々は、番組の最高責任者でもありますが、そもそもがその産みの親なのです。また、そうして作られた作品から、別のスタッフが新たな物語を考案した場合(スピン・オフのような場合)は、「Based on 〜(〜に基づく)」と表記されるのが普通です。この場合は、「Based on the charactor created by〜」と表記される場合が普通です。
そして、脚本です。
脚本の場合は大きく分けて「story=原案」、「teleplay=脚本」、「written=原案・脚本」の三種の表記があります。
この他に「script(スクリプト)=脚本」という表記もありますが、これは「written」とほとんど同じです。
念のため、わかりやすくするために並べてみましょう。
●「story=原案」
●「teleplay=脚本」
●「written=原案・脚本(scriptも同義語)」
具体的に、作品の完成するまでの流れを追って説明しましょう。
原案とは、そのエピソードのアイデアと大まかなあらすじで、『ER 緊急救命室』に例えるなら、「ある日、ERに運び込まれた少年は、ベントンの知り合いで、彼が麻薬に関係した事件に巻き込まれているらしく・・・」といったようにあらすじ(シノプシス=梗概(こうがい=あらすじ))を、メモのように作って脚本家に渡すのです。この段階で、このシノプシスを書いた人は「story」としてクレジットされることになります。
次に脚本家は、そこに書かれている梗概から、各キャラクターの台詞や細かいエピソードなどを作り、それで脚本を仕上げるのです。この場合のクレジットが「teleplay」となるわけです。
上記の作業をひとりで行った人は、原案・脚本として「written」として表記されるのです。
また、「script」と「teleplay」ですが、前者は脚本の中でも準備稿的な意味合いが強く、TVで放送される役者の台詞と必ずしも同じではありません。放送されるのは、一字一句の台詞まで完成した撮影台本で、これが後者となっているようです。
いずれにしても、原案と脚本では、後の印税収入にも比率が大きく変わってくるようなので、各制作プロダクションや放送局では、その表記に気を遣っているのです。
ところで、まれに「ダイアローグ・ライター(Dialog Writer)という表記を見かけますが、これは完成した脚本の台詞を、特定のキャラクターがしゃべっているように修正する役割を担当する人です。若者のキャラクターの場合、流行の言葉をわざと取り入れたり、そのキャラクターの方言、あるいは口癖を取り入れて修正したりする・・・といったものです。
長いシリーズの場合ですと、途中から参加した脚本家よりも、視聴者の方が、そのキャラクターについて知っている情報が多く、違和感や無用な混乱をなくすために設けられているセクションです。この、まれに見られる「ダイアローグ・ライター」ですが、さらに、ごくまれに「co−writer(コ・ライター)」と表記される場合もあります。
ところで、いくつも海外ドラマをご覧になっている皆さんなら、ひとつのエピソードに上記のクレジットが混在している表記もお見かけしていると思います。そうした場合、まず、シナリオの構成会議(プロデューサーや脚本家が出席して行うブレインストーミング)の段階で、数人がアイデアを出してシノプシスにまとめあげ、それを脚本家が脚本にし、その脚本に別の人間が手を入れて完成台本になっているケースが多いようです。
また、初期に考えられたストーリー自体が短かったり、弱かった場合、別のエピソード用に書かれたシノプシスやアイデアや脚本と合体させてしまう場合もあります。
米国ドラマの場合、昔は1人の脚本家が多くのエピソードを書き上げることも珍しくはありませんでした。『ミステリーゾーン』のロッド・サーリングから、近年の『アリー・my・Love』のデヴィッド・E・ケリー、『バビロン5』のJ.マイケル・ストラジンスキーなどはすぐに思い浮かぶ名前です。しかし、それは、すでに過去のこととなったようで、脚本に限らず各パートで分業化が進められるようになり、それぞれのレベルでさまざまな人の手が入るために、権利関係も複雑化しているというのも事実です。
やはり、多くの作品がしのぎを削り、多様化した視聴者の好みに対応していくためにはやむをえない状況ということなのかもしれません。