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木 THURSDAY
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木:海外ドラマに夢中!

「プロデューサーがいっぱい!? 〜なぜ米国TVドラマでは“プロデューサー”という肩書きのスタッフが多いのか?〜 前編」(by 岸川靖)

No.125 2006.10.19

米国製のドラマを見ていると、放送中に画面にクレジットされるスタッフの数の多さに気がつくことがありませんか? 「Directed by〜」は「演出」「監督」、「Music by〜」は「音楽」といったところは誰でもわかりますが、よく出てくるのが「○○Producer」という肩書きです。日本語でも「プロデューサー」という言い方が浸透してはいますが、米国ドラマで見られるその種類の多さは半端ではありません。そこで今回は、『デスパレートな妻たち』のクレジットをベースに、その、やたらたくさんいる「プロデューサー」の仕事についてお話しします。

現在、BS2では第2シーズンが、本国では第3シーズンが始まったばかりの『デスパレートな妻たち』ですが、第2シーズン第1話のクレジット(番組冒頭)で出ているプロデューサーを例にとってみると、以下に書き出したように、実に多彩なのがわかります(登場順で、原則、一人一枚のテロップになっています)。
consulting producer:Charles Pratt,Jr /Julia Sweeney/Elie Herman
producer:Alexander Cunningham/Sabrina Wind/Charles Skouras V
supervising producer:David Grossman /Larry Shaw
co−executive producer:Charis Black/Kevin Murphy/Geroge W.Perkins
co−executive producers:Joey Murphy & John Pardee(ここのみ、2人で1枚のテロップ)
excutive producer:Michael Edelstein/Tom Spezialy/Marc Cherry
この他、NHKの放送では(日本語版の出演者とスタッフのクレジットになっているため)流れないエンドクレジットにはassociate producerというのも存在しています。

この『デスパレート〜』で、「プロデューサー」もしくは「○○プロデューサー」という肩書きがついている人は、現時点(06年9月)で、のべ34人います。シーズンを重ねたときに、別の作品に異動する人や、肩書きが変わる人もいるので、この人数になっているのですが、それにしても、この人数はちょっと多すぎると思いませんか?

で、「なぜそんなにいるのか?」という話の前に、まずは、その「プロデューサー」という仕事は、それぞれどんなことをしているのかをご説明しましょう。

皆さんはプロデューサーというと、どんな仕事をこなしているとイメージします? 冒頭でふれた「演出」や「音楽」の他、キャメラマン(Director of Photography)はTVカメラで撮影する人、スクリプター(Screptor)は記録係、ライター(Written by〜)は脚本家、といったところは、日本語で直すとどんな仕事かは想像がつきます。でもプロデューサーの場合、製作者、もしくは制作者となるようですが、まあ、「作品全体を仕切る」「責任者」ということが漠然とイメージできる程度かもしれません(ちなみに日本の某映画会社の場合、この漢字の使い方も取り決めがあって、「制作者」なら著作権は製作会社に、「製作者」なら、そのプロデューサーにも著作権があると規定されています)。

米国でテレビドラマに関わるプロデューサーには、おおざっぱに分けると、5つの種類があります。
Executive Producer/エグゼクティブ・プロデューサー、
Associate Producer/アソシエイト・プロデューサー、
Producer/プロデューサー、
Co−Producer/共同プロデューサー、
Line Producer/ライン・プロデューサー、の5つです。
そして、近年では、これをベースに、その中間をとったようなプロデューサーなども分化してきているのです。

最も権限があるトップ中のトップは、「エグゼクティブ・プロデューサー」と呼ばれる人たちです。「エグゼクティブ」とは、直訳すれば「(計画などを)実行する」という意味ですが、実際には企画全体の統括を行っている場合が多いようです。業務内容の多くは交渉ごとで、スタッフ人事のまとめ(どんなスタッフを雇い入れるか)、必要機材の準備・承認、法務、クライアントとの交渉など、ビジネス系の“全体の仕切り”を行う立場にあるのです。
さらに、作品の内容に直接口出しする権利も持っています。作品の根幹であるレギュラー俳優や、脚本を決定するのもエグゼクティブ・プロデューサーです。人事、作品内容に干渉できるということで、企画における大ボスと言えるでしょう。また、多くの場合、そのドラマの企画を作り上げた人物として、「Created by〜」というクレジットが別途なされる人物が、このエグゼクティブ・プロデューサーの一人となります。『デスパレート〜』では、産みの親と呼ばれるマーク・チェリーが、それにあたります。

一方、制作、撮影現場での実務をこなすのが、単に「プロデューサー」と呼ばれる人です。彼らは制作、物資調達、予算、技術面に関する責任者として、エグゼクティブ・プロデューサーに報告を上げるのが仕事です。日々の問題解決や、他の多くのスタッフと一緒に現場仕事を行っている人もいます。撮影現場だけを任されている人もいれば、数字合わせや物資・機材の手配だけの人もいるようです。
エグゼクティブ・プロデューサーと、プロデューサーの間では、企画の最初に合意書が交わされます。多様な業務のどれを、どちらが担当するかを明確化したもので、具体的には「事務」と「現場」に分けられています。日本では両方を兼任する場合が多いですが、米国ではきちんと分かれているのです。

さて、この合意書は2〜10ページほどで、報酬(給与)についての記載まで盛り込まれていることが多いそうです。スタッフ雇用と給与、クレジットの入り方、業務内容、制作チームの解散まで触れられています。
これだけでは分かりにくいでしょうから、合意書の大まかな内容を紹介しましょう。ただし、これはあくまでも一例です。

最初は、(1)「プロデューサー自身の雇用形態」についてです。一従業員として働くのか、独立して契約を結ぶのか(制作会社等の社員扱いか、フリー扱いかということです)。それにより、課税(おそらく源泉税の支払方法)、傷害保険、失業保険、補償、年金、作品の著作権が違ってきます。社員扱いであれば、著作権は所属する会社が持ちます。しかし、自らが社長であれば、法的にはその作品の作家、原作者とみなされるのです。
(2)「担当業務の明確化」。プロデューサー業は責任の範囲があいまいなので、そのあたりをきっちりさせておくのも明記されています。脚本業、監督業も兼ねるのか、などです。
(3)「各スタッフの給与金額と、支払方法」。毎週か、隔週か、月に2回か、など。フリー契約なら毎月支払う、総支払額の1/4を初めに払い・・・など金銭的な部分も細かく記載されています。
さらに(4)「著作権の明記」も必須項目です。番組が続いた場合や、放送環境が違ったりした場合はどうするか。例えば、ケーブルTV用の企画でも、プロデューサーがネットワーク局の雇われだったら、特に合意書に記載がない限り、権利はネットワーク局のものになる・・・などが明記されています。
また、(5)「最終編集権の所在」も既定されます。最終的に、作品をどう編集し完成させるかについての権限は誰がもつのか? ということです。米国では映画の場合はプロデューサー個人がこの権利を持つ場合が多いのですが、TVドラマの場合はまれで、だいたい制作会社やTV局が持っている場合が多いようです。ですから、脚本家やプロデューサーが気に入らなくても、TV局が内容を変更する・・・というようなことが起きるのです。
また、忘れてはならないのが(6)「クレジットの表示」。これは特に明確で、文字表記だけでなく、画面での位置も決められる。毎回名前が出るのか、最初に名前が出るのは誰か、1画面に1人で表示か、他の人と一緒の画面に収まるか、などです。

どうです? 米国でプロデューサーが交わす、合意書の内容についておわかりいただけたでしょうか? もっとも、上記の例は、あくまで一例で、多項目に渡る合意書の内容は、番組ごとによって流動性があり、全ての番組が同じ契約内容で動いているとは限らないそうです。

さて、プロデューサーの業務についての説明を続けましょう。
ここまでお話したエグゼクティブ・プロデューサーとプロデューサーの間のポジションで、エグゼクティブ・プロデューサーの補佐役のようなものとして、「シニア・プロデューサー」というものもあります。プロデューサーより少し上の立場ということになります。類似したものに、「スーパーバイジング・プロデューサー」という立場もあります。ただ、米国の場合、「スーパーバイジング〜」というのは監修的立場の場合があります。例えば、昔制作されたドラマがリメイクされるときに、旧作を作ったプロデューサーが「スーパーバイジング・プロデューサー」として雇用され、番組の相談役的な立場を担う場合もあります。必ず存在するものでもありませんが、近年のドラマではよく見かける存在です。

「アソシエイト・プロデューサー」は、番組によって業務範囲はまちまちですが、基本的にはプロデューサーの補佐役です。制作進行管理、他のスタッフの束ね役、およびスタッフ間、部署間の橋渡し役(広報や経理など、二次的な部署との)といえるでしょう。
トークショーなら、ゲスト出演者のブッキング、スタジオでの統轄業務も担当しなければなりません。また、TVシリーズにおいては、プリプロダクション(制作準備)段階で、キャスティング(出演者候補を挙げる)、脚本家との調整、予算とスケジュール管理(予算とスケジュールに関して、現場スタッフとの調整をすることです)なども含まれます。これは音楽、お笑い、情報系(ビデオ投稿番組、ハウツーもの)でも同じ。つまり、便利屋的にさまざまな雑務もこなさなければならない立場です。
ただ、一方で、トーク番組、クイズ番組、バラエティ番組であれば、ある分野に特化して、その割り当て範囲を守っている人(例えば、番組構成の実作業などについての業務だけを任されているというケース)もいます。(ただ、この場合でも、他の業務も兼ねていて“たまにはそういうこともする”ということになる人もいるようですが・・・)。つまり、肩書きは同じでも、ケース・バイ・ケースということになるでしょうか・・・。

「共同プロデューサー」は、英語ではCo−Producerと表記され(「Co−」は、「共同」の意味)。現場での実作業、もしくは、制作管理を担当する役目です。あくまでサポート業務に近く、プロデューサーより責任は低い役職です。一つの企画に複数のプロデューサーが入っているのが普通なので「みんなで共同でプロデューサーやってますよ〜。」ということではありません。

また、「コーディネート・プロデューサー」とは、複数いるプロデューサーたちの橋渡し。いわばスタッフの横のつながりを円滑にする役目が仕事です。
「ライン・プロデューサー」は、物資の手配と、スケジュールや予算に関する直接の責任者です。ただ、現場での業務がメインではなく「事務方」、デスクワークが基本のようです。

どうです。プロデューサーと一口に言っても、気が遠くなるほどにさまざまな仕事内容があることがおわかりいただけたでしょう。
しかし、古くからの海外ドラマファンならば、ここで気がつくことがあるかもしれません? 昔は、こんなに多くの人数のクレジットを見た覚えはないぞ・・・と。そこで次の私の担当回では、なぜプロデューサーが増えたのかという核心にせまります。

参考文献:
「This Business of Television」Howard J. Blumenthal, Oliver R.Goodenough著
Watson-Guptill Publications刊



岸川 靖(きしかわ・おさむ) 岸川 靖(きしかわ・おさむ)

1957年、東京生まれ。編集者・ライター。雑誌「幻影城」編集を皮切りに執筆をはじめ、海外ドラマ、特撮映画等の著書多数。
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