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木 THURSDAY
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木:海外ドラマに夢中!

「『ER』を手がける海外ドラマ翻訳のパイオニア、木原たけしさんの仕事〜前編〜」(by 岸川 靖)

No.101 2006.04.20

放送開始時から多くのファンを生み、アメリカでは第12シーズン、日本では第11シーズンが放送中の『ER 緊急救命室(BS2月曜よる10時)』。その魅力は、現代の米国社会の歪みを鋭く描いた社会派のストーリー、病院という生と死の境目となる場所での波乱に満ちたドラマ、魅力的なキャラクター・・・といくつもあります。そして、そのドラマを、よりわかりやすく、面白くしているのが日本語吹き替え版なのです。

もちろん日本語吹き替え版も、多くのスタッフとキャストによって制作されていますが、その中でも中核となるのが、翻訳台本の制作と録音演出です。『ER〜』の翻訳はTV創生期より翻訳を手がけてらっしゃる木原たけしさん。演出も、同じくTV創生期より録音演出を手がけていらっしゃる佐藤敏夫さんです。おそらく、古くからの海外ドラマファンならば、何度となくこの名前をご覧になったことがあるのではないでしょうか?
そのベテランのお二人が、手がけている『ER〜』日本語吹き替え版は、まさに、第一級の日本語吹き替え版といえるでしょう。とりわけ、木原さんが現在担当するシリーズものの海外ドラマは『ER〜』だけですから、そうした意味からも『ER〜』シリーズの日本語版はぜいたくな作品なのです。
今週と来週は、翻訳を手がけて45年以上になるベテラン・木原たけしさんの仕事について、ご本人から新たに伺ったことなども交え、お話しさせていただきます。

木原さんがかつて担当された米国ドラマの代表作としては、初期のものだけでも『ミステリーゾーン』(原題:The Twilight Zone/59〜64)、『奥様は魔女』(原題:Bewitched/64〜72)、『スパイ大作戦』(原題:MISSION:IMPOSSIBLE/66〜73)、『サンダーバード』(原題:THUNDERBIRDDS/65〜67)、『宇宙大作戦』(原題:STAR TREK/66〜69)等等・・・、誰もが知っている作品が並びます。つまり、「〜ただ一つ違っていたのは、奥様は魔女だったのです。」も「〜例によって、君、もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないからそのつもりで〜」も「宇宙、それは人類に残された最後の開拓地である〜」といった名フレーズの数々は、木原さんの手になるものだったのです。

その木原さんはどんな方なのか? まずは、その生い立ちから翻訳を手がけるようになるまでについて、です。草創期の話ですから、以前、当コラムで紹介されていた、杉田朋子さんのお話(No.88)とは、だいぶ趣が違います・・・。

木原さんは1933(昭和8)年3月27日、関西の福知山生まれ。生後まもなく京都に引っ越したのですが、すぐまた神戸に引っ越し、そこで育ちました。小学校の中学年のときに住んでいた家が空襲で焼失、再び京都に疎開します。その後、終戦を経て高校時代は日光で過ごし、そのとき部活動で演劇部に所属したことがきっかけで、演劇にのめり込んでいったそうです。
演劇に興味を持ったきっかけは映画からです。当時ヒットしていたジョン・ウェイン主演、ジョン・フォード監督の西部劇等は娯楽として楽しみましたが、大きな影響を受けたのは、フランスの多くのヌーベルヴァーグ作品だったそうです。

木原さんの家は代々医者の家系で、当時お兄さんが医学の勉強のため、米国に留学。木原さんも両親から医者になることを勧められたそうです(もちろん偶然に過ぎませんが、後に、『ER〜』などの医療ものの翻訳に関わることになることを考えると、面白いものです)。
ところが、木原さんご本人はすでに演劇に進みたいと思っていたため、そのことを話したところ両親は、当然のことながら(?)大反対。そこで、時間稼ぎのために大学進学を決意したそうです。大学は慶應義塾大学と当時新設されたばかりのICU(※後の国際基督教大学)を受験し、両方に合格します。進学したのはICUの英語学科でした。選んだのは、お兄さんの薦めだったそうです。

「募集枠は60名。授業は全部英語。ヒヤリングの実力をつけるために英語をみっちりやるし、新しいところだから面白いぞと言われたんです。数学より英語のほうが好きだったし。中学までは汽車通学でしたが、車中は英単語をAから全部暗記したり、高校時代はノートを英語で取ったりしていました。その時はもちろん、将来英語が専門の仕事につくとは夢にも思っていませんでしたが・・・」(木原さん)

在学中に木原さんは演劇部を作ります。ちなみに同時期に有名になってきたのが慶應大学の浅利慶太さんが創設した劇団四季です。舞台を観に行った木原さんは、とても新鮮な印象を受けたそうです。

「あれは自分にとっては新鮮でしたね。あの頃の日本の新劇とは、劇から受ける香りが全然違っていた。何か文化の香りがしていましたよ」(木原さん)。

やがて卒業が目前に迫りましたが、木原さんは人から命令されたり、命令したりという会社のような組織でやっていく自信がありませんでした。同級生が専門の英語力を生かして商社や航空会社に就職するのを横目で見ながら、父親に頼んで仕送りをしてもらい、自分の進む道を模索することに決めます。

「家から仕送りはありましたが、実家は決して裕福だったわけではないです。開業医だったのですが、失敗して、その後は勤務医になりましたからね」(木原)

その後、演劇を続けながらテレビにも通行人などのエキストラで出演するようになります。このときはTVコマーシャルのモデルもしており、当時の人気ドラマ『日真名氏飛び出す』にも、生コマーシャルで出演したことがあるそうです。余談ですが『日真名氏〜』の主演俳優は久松保夫さん。久松さんはのちに、木原さんが翻訳を手がける『宇宙大作戦』で、先のとがった耳を持ち「船長。それは非論理的です」などのセリフで知られる人気キャラクター、バルカン人のスポック役を演じています。

定職に就かずに、演劇を続けながら日々を暮らしていた木原さんに転機が訪れたのは、このエキストラ時代でした。
ある日、高校時代の同級生とTV局で偶然再会したのです。その同級生は制作会社に務めていて、当時創生期だった外国TVドラマを担当していました。
当時、外国ドラマを手がける会社は乱立状態で、各社で翻訳できる人間を探していました。同級生は木原さんに、英語を専門に勉強してきたのだから翻訳は出来るだろうと、外国ドラマの翻訳業務を紹介してくれたのです。

最初に翻訳を手がけたのは、子供向け30分ドラマの『ビーバーちゃん』(原題:Leave to Beaver/57)でした。
このとき、木原さんは自分がやってきた演劇と、学んできた英語の両方を生かせる職業が、この台本翻訳だと発見したのだといいます。
つまり、学校で学んだ英語力は翻訳に、そして訳した言葉を日本語としてしゃべりやすく整えるのに、演劇で学んだ事が役立つことを認識したのです。

日本語版の制作会社に所属し、『ビーバーちゃん』を手がけた頃に翻訳を手がけた作品は、刑事もの『ジス・マン・ドーソン』(原題:This Man Dawson/59)や、『名犬リンチンチン』(原題:The Adventure of Rin Tin Tin/54)。その後、独立してフリーの翻訳家になってからは『ハイウェイパトロール』(原題:Highway Patrol/55)、『ハーバーコマンド』(原題:Harber Command/57)『地方検事』(原題:Mr.District Attorney/51)などがありました。

ただ、一方で、翻訳をはじめた当初は、演劇の夢もまだ捨てていなかったので、声優としてもずいぶん出演したそうです。台本も翻訳していて、配役表に自分の名前を書いてしまうことも割とあったとか・・・。

実は、いま、BS2の「懐かし海外ドラマ」で放送中の『コンバット!(月曜深夜0時(火曜午前0時)放送)』にも、セミレギュラー出演していたそうです。ドクという役名でスティーブン・ロジャースが演じた衛生兵が木原さんです。クレジットは河内博となっていますが、実はこちらの名前が本名で、木原たけしがペンネームなのだそうです。
これは翻訳者と出演者が、同じ名前ではまずいので、ペンネームを作ることにしたためだったそうですが、まさに、大らかな時代だったと言えるでしょう。
とにかく、木原さんのお声をお聞きになりたい方は『コンバット!』をご覧下さい。

というところで、今週はここまで。次週はいよいよ『ER 緊急救命室』にまつわる木原さんのお話です。



岸川 靖(きしかわ・おさむ) 岸川 靖(きしかわ・おさむ)

1957年、東京生まれ。編集者・ライター。雑誌「幻影城」編集を皮切りに執筆をはじめ、海外ドラマ、特撮映画等の著書多数。
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