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社説:川辺川ダム 国は建設中止の早期決断を

 蒲島郁夫熊本県知事が同県内の球磨川水系で計画されている川辺川ダムの建設について、「ダムによらない治水対策を求める」として、反対を表明した。

 公共投資改革が叫ばれてきたにもかかわらず、大規模公共事業は当初方針通りに実施、継続される状況は大きく変わっていない。そうした中で、蒲島知事の方針表明の持つ意味は大きい。福田康夫首相は「地元の意向は優先されるべきだ」、谷垣禎一国土交通相は「省として今回の判断を重く受け止めたい」とそれぞれ発言した。

 政府は見直しの方向へ動いたと見ることができる。国交省はダムによらない治水計画を早急に示すべきである。

 蒲島知事は、なぜ反対なのか。「流域住民にとって球磨川そのものが守るべき財産であり宝。そうしたローカルな価値観を尊重したい」ためである。国交省の「ダム至上主義」には同意できないということだ。

 公共事業には、計画策定当時と経済社会状況が変わり必要性が低下している例が少なくない。環境への悪影響が懸念される事業も目に付く。90年代半ば以降、計画策定から長期間経過したが未着手の事業が中止された例もある。しかし小規模事業が中心で、大規模事業は基本的には当初計画に基づき続けられている。

 河川整備に限れば97年の河川法の大改正で、環境に注意を払うことや、住民の意見を整備計画に反映させることなどが盛り込まれた。これを受け、河川行政は洪水時にある程度、水があふれることも想定した治水政策に転換したはずだった。ところが、これまで国交省は川辺川のみならず、淀川水系でもダムこそが治水の切り札という姿勢を崩してこなかった。

 高度成長期に着手されたダム計画では、工業用水や飲料水の確保が上位に置かれていた。ところが、産業構造の転換で工業用水需要は見込みを大幅に下回り、飲料水需要も頭打ちになった。農業用水も新たなダムが必要な状況にはない。

 かんがい、発電、治水の目的で始まった川辺川ダムでも農林水産省は農業用水への利用を断念、発電計画も中止され、残るは治水だけだ。

 国交省は最近になり環境配慮型ということで穴あきダムを選択肢のひとつに提示した。しかし、専門家の間で穴あきダムの評価はまだ定まっていない。「河床掘削や遊水池などハードと、緊急避難システムなどソフトの対策を進めたい」という蒲島知事の提案の方が現実的だ。

 川辺川ダムは計画が始まって42年になる。本体建設予定地では離村で集落がほぼ崩壊している。国が計画を見直す場合は、ダムによらない新しい治水対策を早急に策定するとともに、自治体と連携して地域社会の活性化策や産業振興策も提示しなければならない。

毎日新聞 2008年9月12日 東京朝刊

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