米同時多発テロから7年を迎えた11日、政府はイラクの復興支援活動に派遣している航空自衛隊を年内に撤収する方針を明らかにした。空自の活動は03年12月の先遣隊の活動以来、5年で終結する。陸上自衛隊は06年7月に撤退しており、イラク復興支援特別措置法に基づき同国に派遣された自衛隊の全部隊が撤収することになる。
各国の「対テロ包囲網」はイラクからアフガニスタンに比重が移りつつある。イラクでの空自の活動も、米軍を中心とする多国籍軍の人員・物資輸送が中心となり、当初の人道復興支援から米軍支援に性格が変化していた。毎日新聞はイラク派遣の出口戦略を検討するよう求めてきた。今回の撤収方針は当然である。
撤収の直接の理由は、多国籍軍がイラクに駐留する根拠となっている国連安保理決議が12月末に期限切れになることと、米国の兵力削減方針だ。ブッシュ米大統領は、来年2月にイラク駐留軍を約8000人削減する方針を表明する一方で、「アフガンでの成功が米国と同盟国にとって重要である」と強調している。
また、4月には名古屋高裁で空自のバグダッドへの空輸活動を違憲とする判決が出た。国会では、参院で過半数を占める野党が空自の撤収を求めている。
町村信孝官房長官は「イラク特措法の目的を達成しつつある」と撤収の理由を説明したが、主体的判断というより、米国の動きなどを受けたものと言えよう。
撤収方針により、世界的な「テロとの戦い」にどうかかわるのか、日本政府の対応が改めて問われることになる。林芳正防衛相は「アフガンが一層重要度を増している」と述べ、町村長官も「各国はアフガンへの取り組みを強化している」と語った。アフガンへのシフトを強調したものだ。
しかし、その道筋はまったく見えていない。
政府は現在、インド洋で実施している各国艦船などへの給油・給水活動を継続するため、来年1月15日に期限が切れる新テロ対策特措法を延長する改正案を臨時国会に提出する方針だ。自民党総裁選の5人の立候補者もそろって給油継続の必要性を強調している。
ところが、民主党など野党は給油活動延長に反対し、公明党も衆院での「3分の2」による再可決に反対している。今月末に召集される臨時国会で衆院が解散されれば、自民党が多数を占めたとしても与党勢力が3分の2を下回るのは間違いないと見られ、法案成立の見通しはない。政府方針や5人の候補の主張に現実味はない。
この事態をどう具体的に打開するのか。あるいは給油継続に代わる方策はあるのか。その場合、国連決議や憲法との関係、文民統制の確保はどうするのか。「アフガンシフト」について、総裁選候補者は具体策と実現への道筋を示すべきだ。
毎日新聞 2008年9月12日 東京朝刊