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木 THURSDAY
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木:海外ドラマに夢中!

「懐かし海外ドラマ」に登場 『逃亡者』の魅力〜後編〜 (by 岸川 靖)

No.100 2006.04.13

先週に引き続いて、「懐かし海外ドラマ」で、水曜深夜0時(再放送が木曜朝9時)から放送されている『逃亡者』(原題:The Fugitive/63〜67)の魅力についてお話しさせていただきます。今回は、日本語吹替え版にまつわる裏話に加え、この大ヒット作を作り上げた人物と彼を支えたスタッフなどをご紹介しましょう。

まずはじめは、先週も少しお話しした日本語吹き替え版についての補足です。
実は先日、『逃亡者』でナレーションを担当した矢島正明さんとお話しする機会があり、当時の事をいろいろとお聞きすることが出来たのですが、その中には、いくつか初めて聞く事実もあったのです。
その中から興味深い事柄を、矢島さんの了承を得てご紹介いたします。

「リチャード・キンブル(デビット・ジャンセン)を演じた俳優の睦五郎さん(「睦」を「むつ」さんとお呼びする方もいらっしゃいますが、「むつみ」さんが正しい読み方だそうです)が『逃亡者』がアテレコ初体験だったのはご存じですね。
睦さんは劇作家の三好十郎さんが主宰する劇団戯曲座に所属していた方です。その後、劇団が解散し、テレビなどに出演していたときに『逃亡者』のキンブル役で、テレビ局のプロデューサーから声がかけられたんです。彼が選ばれた理由は、プロデューサーが声優以外の役者を主人公に抜てきしたいと考えていたからです。
当時はアテレコが始まって、まだ10年に満たない頃でしたけど、それでも外画(外国の映画とテレビの総称)の吹き替えの役者さんたちは、大体決まった人たちで行われていました。そういうわけで、良くも悪くも“外画調”と呼ばれる、吹き替えらしい演技や発声方法が定着していたんです。
『逃亡者』放映局のプロデューサーは、この番組をやるにあたって新鮮味が欲しいから、アテレコ経験のない新人でやりたいと提案、睦さんが選ばれたというわけです」(矢島さん)

確かに、睦さんの演じるキンブルの声は、ぼそぼそと聞き取りにくいしゃべり方で、声優さん的な外画調ではない、場合によっては滑舌の悪さから、セリフが聴きとりにくい場合もありました。しかし、それゆえ個性的な魅力が出て、今も新鮮な印象も受けるのも確かでした。

ただし「睦さん以外の役者さんはジェラード警部役の加藤精三さんなど、ベテラン陣で固めています」(矢島さん)
という事実も見逃せません。アテレコ経験のない役者さんをメインにすえて、脇をベテランで固めるという配役手法は、近年ではNHKの海外ドラマでもよく行われているものですが、実は『逃亡者』が元祖だったのです。

また、こんな話も出ました。
「僕が担当したオープニングのナレーションは、毎週毎週、新録音でした。まったく同じナレーションを毎週吹き込むわけです。だから調子の良いときはいいんですけど、風邪をひくなど体調が悪くてうまくいかなかったかなと反省する回もあったんですよ(苦笑)」(矢島さん)

先週触れたように、第2シーズン以降は、毎週のオープニングは同じなので、他の番組と同様に1回アテレコしたやつを使い回しているのかと思いきや、毎週新録音とは驚きでした。矢島さんは、この会話の時にオープニング・ナレーションを生で諳(そら)んじられましたが、やはり毎週アテレコされていただけあって、淀(よど)みなくすらすらでてくるのは驚きでした(生で聞くと、やはりぞくぞくするものがありました)。
ちなみに、同じく矢島さんがオープニング・ナレーションを担当した作品で有名なものに『謎の円盤UFO』(英国作品/原題:UFO/1970〜71)があります(「1980年、すでに人類は地球防衛組織SHADOを結成していた・・・」というアレです)が、こちらは、最初にアテレコしたテープを毎週流用するという形をとっていたといいます。で、こちらについては、矢島さんはほとんど記憶にないそうです・・・。

さて、ここからは本国のスタッフやキャストについてご紹介しましょう。
まず、本シリーズを制作したのはクィン・マーチン・プロダクション。このプロダクションは、その名の通り、クィン・マーチンという人物が設立した製作会社です。

クィン・マーチンはデジルプロで『アンタッチャブル』(原題:The Untouchables/59〜63)の制作・総指揮を務めたプロデューサーで、独立して制作したのが、この『逃亡者』だったのです。
クィン・マーチンは後に、事実を基に脚色した警察ドラマ『アメリカ連邦警 FBI』(原題:The F.B.I./65〜74/当コラムNo.81参照)や、SFサスペンス・ドラマ『インベーダー』(原題:The Invaders/67〜68)、『警部ダン・オーガスト』(原題:Dan August/70〜71)などを制作し、リアルな描写と人間ドラマで注目され、社会派のプロデューサーと呼ばれた実力者です。

また、シリーズの原案はロイ・ハギンズという人物。ハギンズは『サンセット77』(原題:77 Sunset Strip/58〜64)や『ハワイアン・アイ』(原題:Hawaiian Eye/59〜63)の脚本や、『マーベリック』(原題:Maverick/57〜62)のプロデューサーも務めた人物。彼が本シリーズを作る際に、参考にしたのは実際に起きた、えん罪事件だったというのはあまりに有名な話です。
また、一度聞いただけで強烈な印象が残るメイン・テーマ曲は1899年生まれで、1920年代、つまりサイレント時代から劇伴音楽の作曲をしていたバーンハード・カーンによるものです。彼は『ペリー・メイスン』(原題:PERRY MASON/59〜66/当コラムNo.91参照)のメイン・テーマも作曲しています。

また、本シリーズは毎週登場する女優ゲストも話題でした。
アン・フランシス、パメラ・テイフイン、シャリー・ニアト、ジョアンナ・ベチット、パトリシア・クローサー、スザンヌ・プレシェット、バーバラ・ラッシュ、チューズ・ディ・ウェルドなど、映画などにも出演していた当時の人気女優が毎回登場し、キンブルに好意や恋心を寄せるのです。当コラムNo.98で、黒岩さんが、同僚のプロデューサーの方が「寅さんみたい」と言っていた旨、書かれていますが、その理由がおわかりになるかと思います。

『逃亡者』はシーズンを重ねるほど視聴率も良く、ABCの看板ドラマになっていきます。評判も高く、日本はもちろん英国,ドイツでも放送され人気番組になりました。
快調なオンエアを受けて、第2シーズン放送中の66年4月にABCはシリーズの今後の展開として、キンブルの逃亡先が米国本土内だけではなく、メキシコ、プエルトリコ、およびハワイへと広がり、各地でロケーションを行うと発表、この海外逃亡編ともいうべき新展開は、第5シーズンで行われる予定ということでした。
しかし、実際には海外ロケは実現しませんでした。なぜならば、キンブル役のデビッド・ジャンセンが、過酷な撮影スケジュールを理由に降板を表明したからです。ジャンセンと調整中の6月、ABCは記者会見で若い視聴者を獲得するために、第4シーズンにはキンブルの息子を登場させるともアナウンスしていましたが、こちらも実現しませんでした。
結局、第4シーズン開始直前にデビッド・ジャンセンは正式に降板を表明、番組は最終話=完結編に向かって展開していき、当時としては珍しい前・後編で67年8月に幕を閉じたのです。

最後に日本での放送についてもお話しておきます。
日本での本放送は、約1年遅れの1964年5月16日から、毎週土曜午後8時台に開始されました。土曜午後8時という時間帯は、野球中継が入るため休止になりがちという変則的な放送編成でしたが、たちまちのうちに人気番組となります。そして66年には米国の放送に追いついてしまいます。
米国の場合はシーズンとシーズンの間に休止期間(5月から9月の間が多く、その間は再放送が行われることが多いです)があるため、本作の場合1シーズン=30本という放送でした。ところが、日本では正月の特別番組期間を除き、毎週放送されているため、単純計算で向こうの1シーズン分は半年で消化してしまい、すぐに追いついてしまったのです。そこで、『逃亡者』のフイルムがたまるまでのつなぎの作品として66年6月から放送が始まったのが『宇宙家族ロビンソン』(原題:LOST IN SPACE/65〜68)でした。つまり、『宇宙家族ロビンソン』はピンチヒッターとしての登板だったのです。ところが、今度は『〜ロビンソン』が予想に反して大ヒットとなります。その理由は、当時、子供達の間で最大の盛り上がりを見せていた怪獣・特撮ブームにありました。『〜ロビンソン』が放送された66年は、1月から『ウルトラQ』、4月から『サンダーバード』、そして7月からは『ウルトラマン』の放送が始まり、怪獣・特撮ブームのただ中でした。『〜ロビンソン』には宇宙怪獣や異星人が登場するため、たちまちのうちに子供達の話題になったのです。
もっとも、12月になると再び『逃亡者』が始まります。この時、『〜ロビンソン』は第1シーズンを2話残して休止になっています。結局、子供達はがっかりし、大人の『逃亡者』ファンは喝采(かっさい)を叫ぶということになるわけですが、何とも、難しいものです・・・。

その後、『逃亡者』は、もう1回の放送休止(その間には『〜ロビンソン』の続きを放送していました)を経て最終回まで放送され、67年26日と9月2日に前・後編に分けた解決篇「裁きの日」と続き、全120話すべてを終了したのです。

『逃亡者』は、BS2で毎週水曜深夜0時から放送中です。翌日木曜の午前9時からの再放送もあります。次回は4月19日水曜深夜です。第3話「誘惑」をお送りします。詳しくは、番組ホームページをごらんください。


岸川 靖(きしかわ・おさむ) 岸川 靖(きしかわ・おさむ)

1957年、東京生まれ。編集者・ライター。雑誌「幻影城」編集を皮切りに執筆をはじめ、海外ドラマ、特撮映画等の著書多数。
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