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木:海外ドラマに夢中!

「懐かし海外ドラマ」に登場 『逃亡者』の魅力〜前編〜 (by 岸川 靖)

No.99 2006.04.06

海外ドラマのオールドファンにとっては、まさに待望といっていい「懐かし海外ドラマ」が始まりました。昨晩深夜0時(再放送が今朝9時)にオンエアされたのが『逃亡者』(原題:The Fugitive/63〜66)の第1回でした。そこで今回と次回は、この作品の魅力についてお話しさせていただきます。もちろん、概略については、先週の黒岩さんのコラムでも紹介していますので、こちらでは舞台裏や放送当時の状況など、さらに深く掘り下げた世界へとご案内します。

『逃亡者』は、本国では1963年9月17日から66年8月29日にかけて、全4シーズン120話が全米3大ネットワークのABC系で放送されています。オンエアされたのは毎週火曜日の夜10時で、裏番組はバラエティショーにコメディでした。スタート当初はあまり注目されませんでしたが、徐々に人気が出て雑誌などで特集が組まれ、社会的なブームになっていきます。ちなみに『逃亡者』を放送中の火曜日夜10時に裏番組を提供していたCBSとNBCは、毎年、番組を変えています。それだけ『逃亡者』の視聴率が強力だったのです。

一方、日本では約1年遅れて、1964年5月16日から始まっています。放送時間は毎週土曜日の午後8時というゴールデンタイムでした。米国で大人気のドラマということが大々的に宣伝され、主人公のキンブル医師を演じたデビット・ジャンセンの甘いソフトな容姿と毎回、逃亡先の町で知り合う女性達との出会いと別れのドラマは、女性層を中心にブレイク。大人気番組となりました。キンブルのはかなげな感じが女性の母性本能を刺激したと言われています。また、そうした女性層のみならず刑務所に収監されている囚人(!)の間でも大人気となったという余談もあったといいます。
視聴率調査会社ニールセンの記録によると、1967年9月2日の最終回は45.9%という数字をたたきだしているほどです。

この物語の基本設定は、毎回冒頭に流れたオープニング・ナレーションに集約されているので、引用してみましょう(昨晩ご覧になった方には既に確認済みでしょうが・・・)。

“リチャード・キンブル。職業、医師。
目的地、州刑務所の死刑執行室。
リチャード・キンブルはその妻を殺害した罪に問われ、死刑の宣告を受けた。…”でナレーションは始まり、
“…しかしその男はついに発見されなかった。
彼はこの世の名残に外をじっと見つめながら、自らの運命をじっと考えていた。
窓の外も自分の将来も暗黒だった。しかしその暗黒の中に計り知れぬ力が潜んでいた。”で締めくくられます。
(ナレーション/矢島正明)

これを読んで、かつてこのドラマに熱中された方の中には「オヤ? 覚えているのとちょっと違うな」と思った方がいらっしゃるかもしれません。
実はオープニング・ナレーションとして有名なのは、第2シリーズ以降のものなのです。せっかくですからこちらもご紹介いたしましょう。

“リチャード・キンブル。職業、医師。
正しかるべき正義も…”で始まるナレーションは、
“…彼は逃げる。執拗なジェラード警部の追跡をかわしながら。
現在を、今夜を、そして明日を生きるために。”で結ばれます。
(ナレーション/矢島正明)

どうです? 多分多くの方が記憶にあるのは、こちらのほうではないでしょうか? 日本でもこのドラマは徐々に人気が出てきたので、第1話からしっかり観ていたという人は、(実は)意外に多くないかもしれません。特筆すべきは、ドラマの第1話として本来ならば、キンブルの帰宅、片腕の男の目撃、妻の死体発見、警察によるキンブルの逮捕、裁判、判決といった第1話に必要な描写が全くなく、このナレーションで語られているのみが全てという点です。ですから、視聴者はキンブルの主張が真実なのか? 片腕の男は本当にいるのか? など、疑心暗鬼にさせられます。また、バリー・モース(※SFファンには『スペース1999』(英、1975〜77 原題:SPACE1999)で「奇跡じゃ!」の台詞を連発したバーグマン教授役でおなじみでしょう)が演じるジェラード警部も、上司に「なぜ、この事件に君はそんなに執着するんだ」と言われたこともあり、ジェラード真犯人説も吹聴されたりしたのです。
ともかく、このシリーズは、米国ではそれまで日本で放送されてきた海外ドラマの中では、最高の視聴率を記録しており、『逃亡者』放送中の土曜日の夜は風呂屋が空になると言われたほどです(今回の放送は日本で当時制作された吹き替え版で、放送の順序も日本放送順になっています)。

さて、日本語版の魅力は、なんといっても俳優の睦五郎(むつみごろう)さんによる吹き替えです。睦さんは強面(こわもて)の役者として欠かせない役者さんで、映画『ミンボーの女』『仁義なき戦い』『ゴジラ対メカゴジラ』『子連れ狼』(幅広いです)などや、数多くのTVドラマで悪役を演じています。睦さんは昭和9年9月11日兵庫県神戸市生まれ、昭和28年劇団戯曲座に入団し、劇作家三好十郎氏に師事、役者の道を目指します。その後、同劇団解散後はテレビドラマなどに出演し、このキンブル役を射止めたのです。睦さんにとっても『逃亡者』は初めてのアフレコ作品だったそうです。

"そしてもうひとつの魅力が『ナポレオン・ソロ』のソロや、『宇宙大作戦』のカーク船長役でおなじみの矢島正明さんによるナレーションです。
その淡々としながらも情感たっぷりなナレーションで、主人公であるキンブル医師に感情移入した方も多いのではないでしょうか?

ちなみに、昔は多くの海外ドラマに、ナレーションが付いていました『原子力潜水艦シービュー号』の浦野光さん(浦野さんも役者さんで、海外アニメ『ポパイ』のポパイ役の吹き替えとして有名です。また『ウルトラマン』第20話「地上破壊工作」の回より、それまで担当していた石坂浩二さんに代わってナレーションを担当しています)、『ミステリー・ゾーン』の千葉耕市さんなど、幾人もあげることが出来ます。
ところで、このナレーションは、今回まで私は日本で独自に作ったもの(日本オリジナル)だと最近まで思っていました。というのは、前述した『原子力潜水艦シービュー号』のナレーションが、すべて日本の吹き替えスタッフが創作したものだったからです。また、同じく矢島さんがオープニング・ナレーションを担当した別の作品『謎の円盤UFO』なども、本国版ではナレーションは入っておらず、バリー・グレイの音楽のみだったりします。ところが、この『逃亡者』のナレーションは英語版でもナレーションが入っていたのです。これは、今回番組を再見しての発見でした。

少々話が脱線しましたが、最後に、このドラマが制作された時代背景についても少し触れておきましょう。
放送が始まった1963年はキューバ危機からベトナム戦争が始まり、社会不安と不況が米国を覆っていました。そして放送開始直後にケネディ大統領がテキサス州ダラスで暗殺されるという事件が起きました。こうした閉そく感の漂う時代に作られただけあって、本作はそうした当時の不安定な社会状況、揺れうごく人々の様相が見事に描写されています。
追う者と追われる者のサスペンスが強調されがちな本作ですが、そうした社会状況を頭に置いてご覧になると、ひと味違った楽しみ方ができるかもしれません。

というところで、今回は、ここまで。次週はこの大ヒット作をつくりあげた人物と、彼を支えたスタッフ、そして毎週登場する豪華な女性ゲスト陣についてご紹介する予定です。

「逃亡者」の放送は、BS2で毎週木曜午前0時(水曜深夜)、また再放送は同じくBS2で木曜午前9時です。是非ご覧下さい。詳しい内容は海外ドラマホームページへ。
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岸川 靖(きしかわ・おさむ) 岸川 靖(きしかわ・おさむ)

1957年、東京生まれ。編集者・ライター。雑誌「幻影城」編集を皮切りに執筆をはじめ、海外ドラマ、特撮映画等の著書多数。
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