月曜から木曜の深夜にBS2で連日お送りしている「懐かし海外ドラマ」ですが、何といっても反響が大きいのは、昔の放送を見ていたというファンの皆さんからです。ヴィック・モロー、クリント・イーストウッドにルシル・ボール・・・という往年のスターの姿はもちろん、それに加えて、やはり、懐かしさを倍増させるのが当時の“日本語吹き替え版”なのでは・・・? ところが、その放送までの作業は、新作の日本語版を作るのとはまったく別の難しさ(?)が待っていました。今回は、その舞台裏についてお話しさせていただきます。
今回「懐かし海外ドラマ」を放送するにあたって重視したのは、「可能な限り、当時に近い形で放送する」ということ。ところが、『コンバット!』『ローハイド』『逃亡者』『アイ・ラブ・ルーシー』の4作品いずれも、1950年代〜60年代に日本で最初に放送されたものですから、映像も音声も完ぺきに現存しているわけではありません。特に『アイ・ラブ・ルーシー』については51話分の日本語音声が残っていることが判明したものの、映像については日本国内には存在しないことがわかりました。そのことが理由かどうかは定かではありませんが、近年、関係者が記憶する限り『〜ルーシー』は再放送されていません。同じルシル・ボール主演の『ルーシー・ショー』はさまざまな局で放送されているのに・・・です。
とりあえず英語版『〜ルーシー』を取り寄せてみたところ、50年以上も前の作品であるにもかかわらず、まったく古臭くなく、スタッフ一同大笑い! ぜひ放送したいという気持ちが強まりました。映像を本国から取り寄せ、それに残っている日本語音声を合わせていくという作業が必要になるのですが、その手間をかけてでも放送したい作品でした。
そこで、まずこの残っている音声素材が、「そもそも使いものになるような保存状態なのか?」という技術的なチェックが必要となりました。テレビ番組でありながら、音声だけで聴いていかなくてはいけないのです。古い作品なので、ところどころ傷があるのは致し方ないのですが、ある1本については、技術スタッフからの報告書には「修正不可能なひどいひずみがある」とのメモが・・・。確かに音声スタジオで聞いてみると、音楽が途中でヨレヨレとなり壊れたレコード状態。「こんな状態では放送できない」と一同頭をかかえていた時に、前にサンプルとして見ていた英語版のエピソードを思い出しました。第3話「けん怠期は避けられる」をご覧になられた方ならもうお分かりですね? この回では、リッキーにかまってもらえないルーシーが、彼の気をひくために、キューバの音楽に合わせて踊りまくります。せっかく一生懸命に踊っているのに、急にレコードプレイヤーが壊れて、ルーシーの苦労も水の泡、というシーンだったのです! もともと「壊れたレコード」の音だったのですから、音声がヨレヨレでも当然だった・・・というわけです。しかし、映像をまだ見ていない技術スタッフには当然、その展開はわからないことですから、てっきり技術的に問題あり、と慌てたのです。こんな状況ですから、実際に映像を合わせてみても試行錯誤の連続でした。
さらに、映像と音声がそろったところで、更なる難関があらわれました。作品によっては、当時の資料がまったく残っていないのです! 今回のラインナップでは、『ローハイド』と『アイ・ラブ・ルーシー』がその例でした。声優は誰なのか? どんな内容のストーリーなのか? 台本がないので何もわからないのです。例えば、ホームページや、新聞・雑誌用のあらすじ資料ひとつ作るのでも、誰かが中身を見ながら、書いていかなくてはいけません。特に苦労したのが、またまた『〜ルーシー』。久々の日本での放送ということもあって、主役のルーシーの声優が誰なのかさえ、わからない状態でした。フレッド役は、声を聞いただけで、「滝口順平さん」と判明。50年前も今も変わらないお声でした! しかし肝心のルーシーについては「高橋和枝さん」という説と「瀬能礼子さん」という説がネットや本では混在しており、しかもどうやら『アイ・ラブ・ルーシー』の後に制作された『ルーシー・ショー』の情報が錯そうしているもよう。『アイ・ラブ・ルーシー』の初回放送はNHKですから、「NHKに資料が残ってるんじゃないの?」と皆に言われ、局の資料室で1957年の編成表などをひっぱりだし、かたっぱしからめくっていくという地道な作業にとりかかります。しかし、声優情報がまったくでてこない・・・。当時、「NHK新聞」というテレビ情報紙が発行されていたことを知り、それも調べてみたのですが、「ルシル・ボール」の紹介は載っていても、声優名はここにもまったくなし。完全に行き詰まっていたところに、スタッフの1人から「日俳連(日本俳優連合)の力を借りてみては・・・?」というアドバイスをもらいました。
ご承知のように、最近は古い作品のDVD化が増えてきています。その際に権利をクリアする上で必要となる声の出演者の情報が残っていないため、誰の声かを確定する調査を日俳連でお願いできるというのです。すがる思いで、日俳連の池水理事にご連絡してみました。
しばらくたって、池水理事から調査報告の連絡が入りました。主役ルーシーの声は桜京美さん、リッキーは柳澤愼一さん、エセルは林洋子さん、さらに翻訳者が米村晰さん、演出は山田悦司さんということまで判明しました。そしていちばんびっくりしたのが「フジテレビでの放送のために制作された」ということ。1957年〜1960年のNHK放送は字幕版で、後になってからフジテレビで吹き替え版が放送されていたのです。こんな初歩的なことに気づいていなかった私は、NHKの資料室で情報をあさるというまったく無駄な努力を重ねていたのです。思わず笑ってしまいました。
しかしこうした情報がすべてそろうまでは、池水さん曰く「これほど難しかったことはない」というほどのご苦労があったそうです。
通常、このような調査では、ビデオテープを見ながら、ベテランの俳優さんかマネージャーさんに聞いてもらい、2人以上で確認するそうです。アニメーションの場合、通常とは違う声をだしているために、誰の声か判別するのが難しいそうですが、吹き替え版で大体すぐにおわかりになるとか(私にとってはそれすら驚きでしたが・・・)。ところが、この『〜ルーシー』は、そのような方々をもってしても、最初は、やはりフレッド役滝口順平さんしか確定できず、いろいろな方のお力をお借りすることになったといいます。まず、大手日本語版制作会社のベテラン演出家にあたったのですが、『〜ルーシー』が制作されたのはその会社設立の前のことであって情報は得られません(それだけ古い作品なのでした)。そこで、野沢那智さんや村松康雄さんなどのベテランの俳優さん等々、この業界のありとあらゆる方のご協力を得て、皆さんの記憶をパズルのように合わせながら、ようやくすべての情報がそろっていったのです。誰かが「エセルは林さんだった」と記憶していても、当時、活躍されていた女優さんには「林洋子さん」と「林幸子さん」がいらしたことから、事務所にも確認していただいたり、まさに“しらみつぶし”で行なう探偵のような作業です。さらに調査の途中で、ちょうどシリーズの後半のエピソードを試写していた私はまたまた驚愕の事実に遭遇。あきらかに初期エピソードとルーシーの声が違うのです! 慌てて池水さんにまた後半のエピソードのビデオテープをお送りすることになります。それを元にさらなる調査をしていただいたところ、「途中で桜京美さんから瀬能礼子さんに交代していた」ということも判明しました。日俳連の皆様はじめ、ご協力いただいた方々、本当にありがとうございました。
放送の最後に出ている数十秒の出演者テロップの裏にはこんな苦労があったのでした。
しかし『〜ルーシー』については、まだ分からないことがひとつ。なぜ全179話あるうちの、51話分しか日本語版の音声が存在しないのか? 何かの理由で素材が消失してしまったのか・・・? そんな折、スタッフが第20話「やけのヤンパチ」のシネコの箱から「昭和37年2月19日」という当時のメモを発見。その日付を手がかりに、昔の朝日新聞のラテ欄をめくってみたら、1961年〜1962年にかけて、フジテレビでも52話分しか放送されていないことが判明。1話分はおそらくなんらかの理由で消失してしまったのかと推測されますが、なぜ数多くのエピソードの中からこの52本が選ばれたのか? どなたかご存じでしたら教えてくださ〜い!