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木 THURSDAY
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木:海外ドラマに夢中!

「矢島さんが演じるロバート・ヴォーンの声」(by 岸川 靖)

No.116 2006.08.17

BS2で現在放送中の『華麗なるペテン師たち』(原題:Hustle)は、本国=英国で2004年にスタートし、現在も放送が続いている人気ドラマです。このドラマの日本語吹き替え版では、初老の詐欺師アルバート・ストローラー=ロバート・ヴォーンの声を、矢島正明さんが担当しています。往年の名作ドラマ『0011 ナポレオン・ソロ』以来の定番ともいえる組み合わせですが、今回は、あらためてその矢島さんにうかがったお話を中心に、声のはまり役について考えてみたいと思います。

「実は、ぼくはNHKさんのことは、ずっと恨みに思っていたんですよ(笑)」
この番組についてお話をうかがったときに、最初に矢島さんから出た言葉でした。外画(映画と海外ドラマの総称)界の大ベテランから、そういう発言が出たもので、かなりドキドキします。
で、その理由を尋ねると、つぎのように説明してくれました。

「昔、NHKで放送された外画ドラマにロバート・ヴォーンがゲスト出演したことがあったんです」(矢島)

「ヴォーンが出演していてNHKで放送されたドラマというと、『刑事コロンボ』ですね。“歌声の消えた海(原題:Troubled Waters)”の犯人だった中古車ディーラー役と“さらば提督(原題:Last Salute to the Commodore)”の犯人だった造船会社社長役をヴォーンが演じていました。」(岸川)

「どうだったかな。番組名はもうわすれちゃったけど・・・。そのとき、両方とも、ヴォーンの声を西沢利明さんが演じていたでしょ? あのときは悲しかったなぁ。“そうか、ぼくはナポレオン・ソロの人だから、NHKさんはヴォーンの声に呼んでくれなかったんだ・・・。”そう解釈したんです(微笑)」

「西沢さんならやはり『刑事コロンボ』のゲストですね。やはりヴォーンの声を、他の役者さんがあてると寂しいものですか?」(岸川)

「そうだねぇ。『宇宙大作戦/スター・トレック』のカーク船長を演じたウィリアム・シャトナー(こちらも、矢島さんのもう一つの定番ですね)は、もともとぼくと演技プランが違うから、他の人が演じていてもあんまり気にならないけど、ヴォーンは呼吸とか間のタイミングがぼくと近いから、よくわかるんだ。それだけに他の役者さんが演じていると寂しいんだよ。西沢さんもうまい人だと思うけど、ヴォーンの演技とはちがうなぁと思いました。こんなことめったに思わないんだけどね」(矢島)

「なるほど。昔TV雑誌のインタビューで矢島さんは“他の人がヴォーンの声をあてていると心が痛む、だってぼくはヴォーンを愛しちゃっているからね。”とおっしゃっていましたが、本当なんですね」(岸川)

「そんなこと言ったかなぁ(笑)。でもそれに近いニュアンスはよく言っています。やはり、ヴォーンはぼくにとって、他人とは思えないからね」(矢島)

「今回の『華麗なるペテン師たち』のお話があったときはうれしかったですか?」(岸川)

「もちろん。脇役だけど番組の内容も濃くて、演じていて楽しかった。この番組はイギリス作品だけあって、脚本がよく練られている。そしてカット割りが細かくてスピーディー。さらに余計な説明がないから見る者に想像力と理解力を要求するドラマだよね。」(矢島)

「かなり細かい伏線を散りばめていますね。」(岸川)

「そう。だから最後まで見て“ああっ、そうだったのか。それなら最初から演技プランを変えたほうが良かったかな”と思ったこともありました。」(矢島)

「もうアフレコの方は終わったんですか?」(岸川)

「うん。6本だったからね」(矢島)

「英国ではこのシリーズ、04年から始まって現在までに全3シーズン、合計18話が放送済みですから、続きもあるといいですね。」(岸川)

「そうですね。ヴォーンもいい歳のとりかたしていたし、ぼくも演じがいがあります。続きがきたらまたやりたいです。」(矢島)

というわけで、ことのほか、矢島さんはこの番組をお気に入りのようでした。

実際、『華麗なるペテン師たち』は洒落(しゃれ)た60年代風のオープニングから、その内容まで、練りに練って、丁寧に作られているシリーズです。
また、主人公であるリーダー、ミッキー・“ブリックス”・ストーンを演じているエイドリアン・レスターは、本作で注目され、来年公開予定の映画『スパイダーマン3』にも出演が決まっています。新旧の実力派演技陣が競い合う本作。見そびれてきた方は、この機会に是非いかがでしょうか。

ところで、矢島さん=ヴォーンという図式は、私の中では『0011 ナポレオン・ソロ』で定着しました。矢島さんの声はちょっと甘くて、おしゃれで女性を口説く場面が多いソロにピッタリ、一方の野沢那智さんが演じた、相棒のイリヤ・クリアキン(デヴィッド・マッカラム)の声は繊細でナイーヴな感じでした。

昔はどの役者さんにも定番の吹き替え役者さんがいて、この人はこの人が声を吹き替えていなくては違和感があるということがしばしばありました。

クリント・イーストウッドなら山田康夫さん、チャールズ・ブロンソンなら大塚周夫(ちかお)さん、デビット・ニーブンとケーリー・グラントなら中村正さん(『奥様は魔女』のナレーションも良かったです)、オードリー・ヘップバーンの池田昌子さん(『ローマの休日』のアン王女役は絶品でした)など、すぐに何人かが思い浮かびます。また、近年ならアーノルド・シュワルツェネッガーの玄田哲章さん、ニコラス・ケイジの大塚明夫さん、ジョニー・デップの平田広明(カーター君も!)さん、そしてジョージ・クルーニーの小山力也さん(『24』シリーズのジャック・バウアーの声も定番ですね)というところでしょうか。

日本語吹き替え版を制作する側は、予算や、またチャレンジなどから、こうした定番の役者さんたちを使わない場合もあるようですが、外画の吹き替えファンのために、なるべく努力していただけるとうれしいな・・・と、思います。

というわけで、次週はこのあたり、定番の吹き替え役者さんについて、もう少しお話しすることにしましょう。



岸川 靖(きしかわ・おさむ) 岸川 靖(きしかわ・おさむ)

1957年、東京生まれ。編集者・ライター。雑誌「幻影城」編集を皮切りに執筆をはじめ、海外ドラマ、特撮映画等の著書多数。
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