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木 THURSDAY
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木:海外ドラマに夢中!

「日本語版の楽しみ “定番の吹き替え”」(by 岸川 靖)

No.117 2006.08.24

前回は、BS2で現在放送中の『華麗なるペテン師たち』に出演するロバート・ヴォーンの声を、矢島正明さんがあてていることにちなみ、矢島さんからうかがったお話を交え、定番の声の出演についてお話ししました。ヴォーン=矢島という日本語版の組み合わせは、往年の名作ドラマ『0011 ナポレオン・ソロ』に始まる長い歴史があるものですが、海外ドラマのファンならご承知のように、そのような例は他にもたくさんあります。今回は、そうした“定番の吹き替え”について、もう少しお話を続けます。

先週放送された『FBI 失踪者(しっそうしゃ)を追え!』(第2シーズン)・第20話には、名優のマーティン・ランドーがジャックの父親役でゲスト出演していましたが、その吹き替えを担当されていたのが納谷悟朗さんでした。いうまでもなく、ランドーが往年の名作ドラマ『スパイ大作戦』に出演していた際、日本語をあてていたのは納谷さんです。やはり、ファンとしては、こうした組み合わせはうれしくなってしまいます。

ところで個人的には納谷さんといえば、『スパイ大作戦』より少し前の『宇宙家族ロビンソン』のナレーションで初めて声を認識した方です。ところで、この『宇宙家族〜』、ゲストの声の出演を見ると、納谷悟朗さんと小林清志さん(『ルパン三世』の次元大介の声でおなじみですね)のお2人が多く、制作のかたにうかがったところ、“番レギ”と言われる番組レギュラーとして、毎週、いろいろな小さな脇役などの声をあてるために待機していた役割が、このお2人だったそうです。当時はまだ売り出し中だったのですが、今から考えるととんでもなくゴージャスな“番レギ”といえるでしょう。

余談はさておき、このように、この俳優ならば、この役者さんが声を吹き替えているのが自然という、いわゆる声の定番は60年代初期には定着していたようです。

初期の例として有名なのが、アルフレッド・ヒッチコックがプロデュースしていた『ヒッチコック劇場』。この番組はアンソロジーのスリラー・ドラマでしたが、毎回ホストでヒッチコック自身が出演していました。その監督の声を吹き替えたのが熊倉一雄さん(NHKの人形劇『ひょっこりひょうたん島』のトラヒゲ役もおなじみですね)でした。その後、どこの局でもヒッチコックが登場すると、熊倉さんが吹き替えていました。熊倉さんのヒッチコックは、とぼけたような調子で絶品でした。

一方で、ホストと言えば、アンソロジー・ファンタジー・ドラマ『ミステリーゾーン』のロッド・サーリング(プロデューサー、脚本、ナレーションまで担当)も有名です。この番組では第1シーズンをのぞいて、毎回、冒頭にロッド・サーリングがホストとして登場していました(第1シーズンではナレーションのみでの出演です)。
しかし、『ヒッチコック劇場』と違い、そのホストのサーリングの声は、4人が交代で吹き替えしていました。まず『未知の世界』という日本語タイトルで初放送された第1シーズンは鈴木昭生さん、次に放送局が変わり、『ミステリーゾーン』と改題された邦題で放送された第2シーズンからは久米明さん、第2シーズンの後半から明石一さん、第4シーズン以降は千葉耕市さんという顔ぶれです。私自身の記憶にあるのはやはり、第4シーズンで千葉耕市さんに定着してからです。ですからサーリングというと、あの独特のイントネーションと低音でしゃべる千葉さんのイメージが強いのです。ただ、こうした場合、ひょっとしたら世代によって、あるいは初めて見たときの印象などによって、サーリングの声のイメージは異なるのかもしれませんね。

そうそう、TVドラマで定番の声といったら、忘れちゃいけないのが「うちのかみさんがね」、「あと、もう一つだけ質問なンですがね」という名セリフでおなじみの『刑事コロンボ』です。このドラマの主人公コロンボ(ピーター・フォーク)の声を演じた小池朝雄さんの口調は絶品でした。『刑事コロンボ』は翻訳者である故・額田やえ子さんの名訳と相まって、ピーター・フォーク=小池朝雄さんという図式を定着させたと思います。ちなみに、先ほどもご紹介した定番の名セリフ「うちのかみさんがね」も、最初の頃は「うちの家内(もしくは“女房”)がね」でしたが、回を重ねるうちに「かみさん」が定着、現在のDVDソフトなどでは、過去、「かみさん」ではなかった部分が、全部「かみさん」に吹き替えられています。もっとも、小池さんは1985年に50代半ばで亡くなられたため、その後の『刑事コロンボ』では石田太郎さんが演じています。石田さんは、交代当初は、小池さんのコロンボに似せるようにあてていましたが、その後、回を重ねるごとに、徐々に独自の個性を発揮し、無理なくフォークを演じているように感じます。
この小池さん、石田さんのような定番声優さんの死に伴う交代といえば、『ルパン三世』のルパンを演じていた山田康夫さんが急逝され、栗田貫一さんになったのも有名です。

少々話題がそれますが、昔は“吹き替え版”というと、アニメーションでも実写ものでも、子供向きの作品に限られていました。しかし、現在は、昔と比べて、映画でも吹き替え版の上映が増えてきました。これは、ビデオソフトや2か国語放送の普及にともない、吹き替えになじむ人がずっと増え、その良さが浸透した(字幕を追い続ける必要がなく画面を楽しめる、情報量が多いといった理由が考えられます)からだといわれています。
ビデオソフトの会社によると、DVDソフトも日本語字幕版だけよりも日本語吹き替えが収録されているものの方が、売り上げが良いそうです(この点、字幕版と日本語版の両方をリリースするしか方法がなかったビデオソフトと違い、両者を1枚に収録し選択が可能となったDVDの普及は好都合でした)。

そもそも海外では、ロードショー作品の場合、自国語への吹き替えが当たり前で、日本のように字幕中心の国は少ないようです。テレビドラマでは吹き替えが当たり前なのに、映画はなかなか吹き替え版にならなかったのは不思議ですね。

では、こうした定番の声はどうやって決められるのでしょう?
もちろん、一度決まると、この俳優さんの声はこの人と定着する場合もあるし、そうでないこともあります。この分かれ目のポイントはどこにあるのか?
昔、ある演出家の方にキャスティングについて尋ねたときに教えてもらったのが、“決め手は骨格”というものでした。つまり、同じような骨格だと自然とオリジナルの俳優さんと声が似ているのだそうです。確かに、実際に吹き替えを担当された方で、画面に映る向こうの役者さんとどこか似ている人が結構いらっしゃるような気がしますが・・・。

吹き替えの定番というお話については、実は話し出すときりがありません。テレビドラマに限った話でも、ファンの方それぞれに思い入れが強い組み合わせがあるようで、何を取り上げても話し足りないことになってしまうのです。しかも、近年の多チャンネル化を受けて、放送される海外ドラマが(単純な本数だけでなく、国の数も)増加。吹き替えを担当する俳優さんも新しい顔が続々登場していることとあいまって、新しい定番(先週触れたG.クルーニー=小山力也さんなど)もうまれています。こうした、近年の吹き替え事情についても、回をあらためて、いずれお話ししたいと考えています。

さて、最後に私事を一つ。
自分自身にとっての定番の声とは、吹き替えの役者さんの声だけ聞いて、頭の中に画面に出ている俳優さんの顔が浮かぶ人・・・です。
例えば、先週ご登場いただいた矢島正明さんと電話でお話ししているときは、頭の中にロバート・ヴォーンの映像が浮かびます。矢島さんとは何度かお会いし、お顔も覚えているのに、これは失礼なのでしょうか・・・?



岸川 靖(きしかわ・おさむ) 岸川 靖(きしかわ・おさむ)

1957年、東京生まれ。編集者・ライター。雑誌「幻影城」編集を皮切りに執筆をはじめ、海外ドラマ、特撮映画等の著書多数。
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