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木 THURSDAY
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木:海外ドラマに夢中!

「“謎を残して終わる”米国ドラマが多いわけ・・・?“クリフハンガー”という手法」(by 岸川 靖)

No.120 2006.09.14

前々回の当コラム(No.118)、『デスパレートな妻たち』第2シーズンの紹介にあたって、黒岩さんが、第1シーズンのラストが“中途半端なところで終わったこと”について、視聴者の方から“怒り(?)”の反響が多く寄せられたと語っていました。まあ、最新の米国ドラマが続々と見られるようになったとはいっても、一方で、本国での視聴環境やドラマ制作上のさまざまな手法等、少し込み入った事情については、まだまだ人口に膾炙(かいしゃ)しているとはいい難いのも事実のようです・・・。実は、このような手法は、本国では“クリフハンガー”という名称もついており、視聴者をつなぎとめておくための常套手段として多用されているものなのです。
というわけで、今週は、『デスパレートな妻たち』に限らず、多くの米国製ドラマ等で見られる、ファンにとっては“楽しみでもあり苦痛でもある”この手法についてとりあげることにしましょう。

海外ドラマを観(み)ていると、シーズンの最終回で話がきれいに終わらず、主人公などが危機的状況に追い込まれたところで終わってしまう状況に遭遇することがあります。次シーズンまで間が空く(放送であれば早くて半年程度、DVDでも、発売やレンタル開始までかなりの時間が空くことが普通です)ため、見てきた側としてはスッキリせず、やきもき、イライラすることになってしまいます・・・。それが“クリフハンガー”と呼ばれる制作形態です。

クリフハンガー(“cliffhanger”もしくは“cliffhanger ending”)とは、直訳すると「絶壁にぶらさがる人」という意味です。ただ、米国ではそのまま打ちきりになる場合もある(!)ため、一般的には「最終回」という意味もあるそうです。

この言葉の語源は、元々は映画用語から来ています。1930年代に盛んだった連続活劇映画は、1〜2週間おきに2巻(約30分〜60分)ものの短い話を連続で上映するという形式でした。TVで毎週続きものを観るのと同じ感覚で、同じ映画を1週間やって、その続きを翌週末から上映するといったものです。こうした映画は、そのラストは主人公が崖(がけ)からぶら下がったり、絶体絶命のシーンで終わっていました。主人公が崖から落ちそうになっているシーンで「次回、こうご期待!」などと終わったりしているうちに、“クリフハンガー(=崖からぶら下がる)”という表現が定着したのです。
ちなみに、この当時のクリフハンガー映画の連続アクション形式を大幅に取り入れ、主人公が“一難去ってまた一難”という要素で固め、ヒットしたのが80年代の人気アクション映画『インディ・ジョーンズ』シリーズです。この、展開また展開という形式は、以前紹介したプロデューサー、ブラッカイマーの一連の作品に受け継がれているといっても良いでしょう。

こうした手法は、初期のテレビドラマにも一部、用いられていました。私の場合、真っ先に思いつくのは、60年代に子供向きTVシリーズとして放送された『バットマン』です。このシリーズは1話30分。事件が解決して最後のCMが入った後に、次回のイントロダクションが始まり、主人公が危機的状況に陥って次回に続くという形式でした。それは、バットマンが線路にしばりつけられたり、密室で水攻めにあったり、あらゆる危機に陥るというもので、身を乗り出して、その危機的状況を観ていると、画面が一時停止のように停まり、同番組のナレーターであったロイ・ジェームス(1929〜82/彼は、ロシア人とのハーフで、50年代前半から日本でタレントとして活動。ラジオのDJや、司会者としてスポーツ番組などにも出演していた人物です。成瀬巳喜男監督の映画『浮雲』<55>にもチョイ役=米兵役で出演していたりします。)の声で「このピンチをバットマンはどう脱するのか? この続きはまた来週、ご覧のバットチャンネル、バットタイムで!」というあおるナレーションで終わっていました。
毎回、こうした感じですから連載漫画を読んでいる気分(実際、原作はコミックでしたが、このドラマはコミック以上にユーモアとナンセンスを前面に出した漫画的なもの)でした。

さて、現代米国のテレビドラマでは、最終回が終わると次のシーズンまで半年ていど待たなければいけないのが通例です。従って、次のシーズンが始まるまで視聴者の興味をひきつけておくことが重要となります。そこで、最終回では次のシーズンに話が続くような引きをもった最終回にすることが多いのです。週刊誌に連載されているマンガと同じようなものだとお考え下さい。したがってドラマによっては、しばしば、あるシーズンの最終回が前編、次シーズンの初回が後編となっている場合が多いのです。

で、こうした大人向け作品で、現在のドラマで多く見られる“シーズンにまたがって、話が続く”というクリフハンガー手法を最初に用いたテレビドラマとなると、『ダラス』(78〜91)です。
この作品は、テキサスの大富豪=ユーイング家の物語。主人公は、石油で莫大な財産を築き上げた父親から、石油会社の経営を継いだ長男・J.R.(ジェイ・アール)。彼は汚い手を使ってでも金と権力を握ろうとする悪役として描かれていきます。このシリーズは最初の頃は家族や、その周辺で起きるどろどろとした愛憎劇を1話完結に近い形式で描いていましたが、徐々に大河ドラマ的に物語が続くようになっていきます。しかも悪役のJ.R.に人気が出て番組は高視聴率を獲得していくのです。

そんな中、第2シーズン最終回(1980)。J.R.が何者かによって銃撃され、犯人不明のまま、続きは第3シーズンで、ということになったため、全米で大騒ぎとなったのです。番組再開までの期間、米国内では犯人予想の話が飛び交いました(その他、コメディ番組のネタになるのはもちろん、「誰がJ.R.を撃ったか?」などという文字がプリントされたTシャツまで登場するなど、一種の社会現象になりました。番組終了後の90年代になっても、アニメ番組『ザ・シンプソンズ』等でパロディ作品が登場するなど、米国ドラマ界の伝説といってもいい扱いになっているのです)。
そして、期待のうちに始まった第3シーズンの第4話で、ついに犯人が明らかになります。その回の視聴率は53.3%で、米国のTVドラマ史上最高の数字をたたき出しました。この成功例により、以降はクリフハンガーを取り入れる作品が増えたのです。

こうした、シーズン最終回と次シーズン初回を前後編に分けて、1本の話として制作・放送することには、次シーズンに興味をつなげるという以外にも、大きなメリットがあります。例えば、2時間で1話とするので、普段より少しスケールの大きな話が作ることが出来ます。ゲストキャラクターも多くできるし、サブストーリーもふくらませることが可能です。また、特別追加予算など、予算枠も広げて豪華にできる(セットを豪華にする、海外ロケを行う、あるいは大物ゲストを呼ぶ・・・など、通常の制作枠では出来ないことをやる場合が多いようです)ので、最終回&初回を飾るにはうってつけというわけです。

さて、『ダラス』での大成功を受けた“クリフハンガー”形式は、以後、多くのドラマで使われていくことになるのですが、そうした事情については“また、次回!!”。



岸川 靖(きしかわ・おさむ) 岸川 靖(きしかわ・おさむ)

1957年、東京生まれ。編集者・ライター。雑誌「幻影城」編集を皮切りに執筆をはじめ、海外ドラマ、特撮映画等の著書多数。
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