前回は、米国ドラマのシーズン・フィナーレ(最終回)が“中途半端なところで終わる”という手法=“クリフハンガー”の登場についてお話ししました。それは、次のシーズンまで視聴者をつなぎとめておくために始まったものでした。その大成功は『ダラス』という作品を社会現象の域にまでもっていくことになり、当然のように、それ以後、多くの米国ドラマで使われるようになります。
とはいえ、その全てが“ヒットを狙う”という目的だけのためのものではなかったのです。今回は、制作事情により、やむなくクリフハンガーに“せざるをえなかった”作品を紹介しましょう。
「制作側の諸事情によって、クリフハンガーとなる場合」というのはどんなことなのでしょうか?
そもそも、TV局と制作会社、俳優、スタッフとは、シーズンごとに制作契約を結んでいるため、場合によっては、次のシーズンに、スタッフ、俳優の契約更新が出来ない場合もあります。
例えば『ER:緊急救命室』では、ロス先生役のジョージ・クルーニーは人気が出て映画に進出、成功をおさめたためにギャラが高額になり、やむなく降板させざるをえなかったということがありました。こうした例は、ひとつのドラマがヒットし、人気俳優が誕生するような場合にはよくあることです。
87年から『スタートレック/宇宙大作戦』の続編として18年ぶりに始まった『新スタートレック』(87〜94)第3シーズン最終回の「浮遊機械都市ボーグ(前編)」(90年6月放送)は、同シリーズ初のクリフハンガーとなりました。このエピソードは、主役の、エンタープライズ号のピカード艦長が、敵である機械生命体ボーグに体を改造され、敵として登場するところで最終回となりました。当時は、番組の視聴率が上向いてきたときで、このクリフハンガーは大きな話題になりました。当然、人気をさらに高めるための手法と考えられたのですが、しかしこれは、視聴者に気を持たせるというよりも、制作側の事情によるものだったのです。実はピカード艦長役のパトリック・スチュワート(最近は映画『X−メン』シリーズのプロフェッサーX役で有名)の出演契約が第3シーズンいっぱいまでで、この第3シーズン最終回を制作していたときは、契約が更新されるのかどうかはっきりしていませんでした。そのため、次のシーズンでピカードが死亡したとしてもおかしくはないエンディングにせざるをえなかった・・・というわけです。更にいえば、必然的に、この第3シーズン最終話を作っている時点では、後編の展開は何も考えていなかった(!)のです。
もっとも、その後、オフシーズンの間にパトリック・スチュワートは第7シーズンまでの出演継続契約を結んだので、第4シーズン第1話「浮遊機械都市ボーグ(後編)」(90年9月放送)で、ピカード艦長は晴れて生還することができました。
このエピソードは、そうした微妙な事情のわりに、話としては奇跡的にうまく成功をおさめ、ファンの間でも名編とされる1本として定評があります。やむをえない事情でクリフハンガーになったとはいえ、上手くまとめてしまうスタッフの手腕も見事だったといえるでしょう。
しかも、第3と第4シーズンの放送休止期間には、その結末についてファンのみならず、多くの視聴者の注目を集めることになり、番組の人気は決定的なものとなり、『ダラス』以来の成功をおさめたといえます(また、米国は当時、パソコンのネット通信が急速に浸透していった時期にあたり、その中で多くの推測や未確認情報が飛び交い、人気の後押しとなりました。このエピソードは、現在のような、“ネットが番組の人気に影響を与える”という現象のはしりともいえるでしょう)。クリフハンガーの効果があらためて確認されることとなったのです。
90年代を代表する米国ドラマの1本である『X−ファイル』(93〜02)も、出演者の契約がネックとなって、第4シーズンのラストではクリフハンガー的なものになりました(なお、クリフハンガー方式がこのドラマで初めて登場するのは第3シーズン最終回)。主人公のモルダー捜査官を演じたデビッド・ドゥカブニーとの契約更新に問題が出たのです。もともと、この作品はカナダのバンクーバーで撮影されていましたが、自宅をカリフォルニアに持つドゥカブニーが、結婚したため、週末にしか帰宅できないという理由で、撮影場所をロサンゼルスのスタジオにするよう要求したのです。番組人気の絶頂期でもあり大事な主役の申し出とあって、スタジオ側はロサンゼルスの撮影スタジオに移動することになりました。ところが、問題が起きました。それはドゥカブニー演じるモルダー捜査官の部屋が、あまりにも個性的(ご記憶の方も多いと思いますが、とにかく、物が多くてごちゃごちゃした“きたない部屋”でした)で再現が難しいということが判明したのです。そこでシーズン最終話では、その部屋が何者かに放火されてしまうという思い切った展開になり、新シーズンでは新しい部屋が用意されたのです。ただし、そこまでやったにもかかわらず、ドゥカブニーはその後もさまざまな理由で毎週の出演を拒んだため、スタジオ側では第8シーズンからドゲット捜査官(ロバート・パトリック/映画『ターミネーター2』に出てきた液体金属T−1000役で有名)を登場させ、主役を交代させたのです。
ちなみに、この『X−ファイル』は、本国のみならず、日本でも大人気の作品となりました(現在の“海外ドラマ人気”を導いた代表作のひとつと言えます)。ですから、ケーブルTVやビデオでご覧になっていた方は、この番組で、(呼び名は知らなくとも)クリフハンガー方式と出会い、“エ〜ッ! これで終わり???”となった方も多いのではないでしょうか?(地上波での放送は関東地区では第1シーズンのみ、しかも未放送エピソードが多かったのでこの点については話題になりませんでしたが・・・)
『バフィー 恋する十字架』(97〜03)という作品では、もう少し政治的で大人の事情が絡んできます。女子高生(後半では大学生)でバンパイヤ・スレイヤー(吸血鬼退治の専門家)のバフィーの活躍を描くというこのシリーズは、アクション・ホラーの骨格に学園青春ものの要素を加えた快作で、ティーンエイジャーを中心に人気がありました。ところが、第4シーズンが終了した段階で、制作元のFOXと放送局のWBとの間がこじれ、他局に異動することが第5シーズン中に決まったのです。そこでWBはなんと主人公のバフィーが死亡してしまう(!)という最終話を制作させました。この後、バフィーの放送はUPNに移動して再開しますが、主人公が生き返るという第5シーズンの第1話は、かなり無理のある展開となってしまいました(米国での放送は第1〜5シーズンまでがWB、第6〜7シーズンはUPNとなります)。
問題の原因となった放送局の異動の事情は以下のようなものです。当時は、FOXの自社作品にヒット作が少なかったためにWBへの放送権料をつり上げて、WBが放送を断念したら自局で放送しようというのが思惑だったようです。しかし、そうなると独禁法に引っ掛かるおそれがあるため、自局でも放送できないことになり、結局、当時ドル箱ドラマを持っていなかったUPNが多額の放送権料を出すと申し出て、そちらに行くことになったと当時のマスコミは報道しています。ドラマを楽しみたいだけの視聴者からすると、あまりにも“政治的”なお話でした・・・。
なお、この『バフィー〜』に興味を持った方、これからご覧になりたいという方のためにひとつ注意を・・・。この作品は、日本では最初、ビデオで『ナイト・フォール』という意味の分かりにくいタイトルでリリースされました。その後、CS・ケーブル局での放送では『バフィー 恋する十字架』というタイトルとなり、さらに地上波(テレビ東京)に放送が移った際には『吸血キラー 聖少女バフィー』にタイトルが変更になったのです。いずれも、同じ作品なので、ご注意ください。日本で、米国程この作品が余り人気が出なかったのは、このタイトル変更が繰り返されたことも一因ではないか? と筆者は考えています。
話がいささか脱線しましたが、以上のようなことからも、単にクリフハンガーといってもさまざまな理由と事情があることがおわかりいただけたかと思います。しかし、このクリフハンガー、まだまだ奥が深いのです。
私の次の担当回では“制作側が意図しないのにクリフハンガーになってしまった例”についてお話しします。