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木 THURSDAY
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木:海外ドラマに夢中!

「“謎を残して終わる”米国ドラマが多いわけ・・・?“クリフハンガー”という手法 〜その3〜」(by 岸川 靖)

No.123 2006.10.05

No.120121の2回にわたってお話ししてきた“クリフハンガー”という手法、この話題もいよいよ完結編となります。最後にふさわしく(?)、今回はいろいろな意味で、続きの話があるのに打ち切り&未放送となってしまった、あるいは結果としてクリフハンガーが最終回になってしまった(つまり、話が宙ぶらりんのまま終わってしまった)番組をご紹介しましょう。いわば“悲惨な例”というわけです。

制作側は次のシーズンもあると考え、“次回に続く”という形でシーズン最終話を作り終えたものの、視聴率不振などで打ち切りが決まってしまう場合も、米国TVドラマ界にはよくあることです(日本では、まず考えられないことですが、それだけ、米国のTV業界は厳しいということでもあります)。一方で、制作現場で内容を複雑にし過ぎてしまい、どうにも収拾がつけられず、破たんしたまま終わった作品というのもあります。どのようなことなのか? 以下に実例をあげながら見ていただきましょう。

先ず、“制作そのものに問題があった”というケース。

『ツイン・ピークス』
この代表格となる作品としては、日本でも人気の出た『ツイン・ピークス』がそれにあたります。このドラマは、放送開始当初は、計算し尽くされたプロットが評判となり人気が出ました。その人気に気を良くした放送局であるABCは、第1シーズンにはわずか8本だったエピソードの本数を、第2シーズンは一気に22本に増やすという攻勢に出ました。
しかし、話が進むにつれて登場人物は増え、プロットも複雑になっていくという事態となったのです。制作のデビッド・リンチは、「謎は謎のままで」と考えていたようですが、ABC側は第2シーズンで犯人を明かさないと、視聴者も焦(じ)れ、飽きてしまうのではないかと主張。両者は対立しました。また、ABCも新しい脚本家や監督を雇い入れ、番組制作に介入してきたのです。それにより、リンチの番組に対する興味も薄れていったのです。そして、「誰がローラ・パーマーを殺したか」という犯人の正体が、第2シーズンの途中で明らかになると、視聴者離れが進み、視聴率は急落。ABCは第2シーズンでの打ち切りを決めざるをえませんでした。結局、このシリーズ、最終回は不明瞭な終わり方になっているのは、そうした事情によるのです。
ただ、デビッド・リンチ作品は、いつもそういう調子で整合性のない物が多く、特別なことではないといってしまえばそれまでなのですが・・・。

『宇宙家族ロビンソン』
今度は、かなり古い例です。家族で見られるファミリーSFシリーズとして、60年代に人気の出た『宇宙家族ロビンソン』は、第3シーズンまで放送したものの、話が終わらないまま打ち切りになっています。
『〜ロビンソン』は、地球以外で人類が居住可能な惑星を目指して、宇宙へと旅だったロビンソン一家の冒険を描くシリーズです。宇宙空間でのバトルや、サスペンス色といったSFに見られる要素は少なめなので、いま見ると、全体的にのんびりした印象ですが、ベトナム戦争など社会情勢が不安定だった60年代には、家族で見られる冒険ドラマと言われ、第1、2シーズンともに人気がありました。
ところが、第3シーズンに入ると、内容があまりにも子ども向けになりすぎて視聴率が落ちていきます。制作のアーウィン・アレンは続けるつもりでいたのですが、結局打ち切りとなってしまったのでした。
このシリーズは、前々回に紹介した『バットマン』のように、各エピソードの最後の10分程度が、次の話の冒頭になるスタイルを採用していました。そのため、第3シーズン最終回は、第4シーズン初回の話を始めたところで終わっているのです。結局、その話の続きはまぼろし・・・ということになってしまいました(ちなみに、この『宇宙家族ロビンソン』、日本では第2シーズンまでしか放送されませんでした。『逃亡者』の穴埋めに始まり、おりからの怪獣ブームで人気になった作品でしたが、放送局が編成の方向性を変えたために、打ち切りになったのです。日本では、本国とは別の意味で尻切れとんぼとなってしまったことになります)。

『コロネットブルーの謎』
重傷を負って救出された金髪の青年。彼は記憶喪失で「コロネットブルー」という言葉だけを覚えていた・・・という出だしで始まる、近年の映画『ボーン・アイデンティティー』などと同じ、主人公記憶喪失パターンドラマの元祖です。
この作品も第1シーズンだけで終了。最終回も主人公の正体は分からずじまいです。
しかし、『コロネットブルーの謎』はキャンセルされたため打ち切りになったのでは無かったのです。もともと、この作品のパイロット版が制作された後、1クール分の制作を許可されたものの、局の判断でお蔵になっていたのが、たまたまシーズンオフの5月から9月まで、再放送枠で放送され、視聴率も良かったので続きを作ろうということになったという事情がありました。しかし、そのときには、主演俳優が別の作品に入っていてスケジュールが合わず見送られたのです。また、ラストは原作(小説です)通りの予定で考えていたとプロデューサーは語っており、ちゃんと制作されていればと残念でたまりません。

次は、“日本の放送が変則的だった”、というケース。これは、日本での放送状況によって起きた事態です。

『シークエストDSV』
この作品は米国では第3シーズンまで放送された作品で、第2シーズン最終話はクリフハンガーになっています。他の惑星に連れて行かれたシークエスト(最新鋭の潜水艦)が、その水の惑星で政府軍と戦い、体当たり攻撃をかけたところで続きになっていて、(このような形式はあまり知られていませんでしたから)当時、見ていた人の間で大騒ぎになりました。しかも、日本での放送はここまで。第3シーズンの放送はありませんでした。
続きが放送されなかったのは、このTVドラマの制作がスティーブン・スピルバーグの会社であるアンブリンで、放送権料が高かった上、日本での視聴率も悪かったためでした。現在にいたるまで、日本で第3シーズンの紹介はされておらず、国内で見ることは簡単にはかなわないようです。

『マイアミバイス』
最近、日本でも映画版が公開された『マイアミバイス』。米国ではNBCで84〜90年初めまで放送されたヒットドラマです。内容は2人組の刑事が活躍するアクションドラマで、スーパーカー&ブランドもののスーツ&お洒落な音楽の3点セットで、後の刑事ドラマに与えた影響も大きい作品です。
この作品、第5シーズンまで制作されたのですが、日本では第4シーズンで放送が追いついてしまい終了。本国でその後制作された第5シーズンは放送されずじまいでした。これまた、日本での視聴率が今ひとつだったのも大きな原因のとなったようです。
このように、本国では人気があったとしても、日本では人気が出ず、打ち切りになるケースも少なくないのです。基本的に、放送の契約はシーズン単位で行われるものですから、打ち切りとなってしまえば、クリフハンガーだろうが何だろうがそこで終わってしまいます。残念ながら、内容が優れていても、視聴率的に厳しくファンの反響も薄ければ、こうした事態はいつでも起こりうることなのです。

そして、もう一つ、“打ち切りになってしまっても、復活する”という稀(まれ)なケースもあります。

『犯罪捜査官ネイビーファイル(原題:JAG)』は、第1シーズンは 95年9月〜96年5月までNBC系で放送されていたものの、あえなく打ち切りになった作品でした。しかもシーズン最終話は、主人公(海軍内部の犯罪を調査する捜査官)=ハーモン・ラブ中佐が殺人の犯人としてつかまってしまうというところで終わる、典型的なクリフハンガーです。全くもって“悲惨な最期”となるかと思われたのですが、スタッフの売り込みが功を奏したのか翌97年、番組はネットワークを変えCBS系で復活! 第2シーズンが放送されることになりました。しかし、その第1話では、主人公は何事もなかったかのように別の事件に関わることになり、問題のお話の続きは全く触れられません。“無かったこと”とされたのかとも思われたのですが・・・! 未見の方の楽しみを考えると楽しみを奪うので詳しくは書きませんが、その後のシーズンで(やや唐突に)、とにもかくにもこのエピソードの決着はつけられることになりました。番組自体は、視聴率的にも上昇し(結局05年まで続きました)、見事ヒットドラマになったおかげといえますが、まさに、稀な例となった次第です。

というわけで、クリフハンガーの謎、おわかりになりましたでしょうか?
近年は、これまで紹介してきた典型的なクリフハンガーだけではなく、大河ドラマ的に物語が進むものや、多くの謎を散りばめ、一部は解決し、一部は次のシーズンにつなげていくといったさまざまなケースが見受けられます。例えば、昨晩第2シーズンの放送が始まった『デスパレートな妻たち』も、ザックに銃で狙われたマイクがどうなるか? という点は(あっさりと)決着しましたが、更なる謎があれこれと語られ始めています。
今後、どんな新しい手法が登場するのか? 期待したいと思います。

それにしても、最近『LOST』とか『エイリアス』とか、きちんと結末が考えてあるのか不安な(?)作品が続きます。作品が面白いだけに、『LOST』の島の謎は解明されるのか? 『エイリアス』のランバルディの謎は解ける日が来るのか? 期待と不安でいっぱい・・・でもあります。


岸川 靖(きしかわ・おさむ) 岸川 靖(きしかわ・おさむ)

1957年、東京生まれ。編集者・ライター。雑誌「幻影城」編集を皮切りに執筆をはじめ、海外ドラマ、特撮映画等の著書多数。
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