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木 THURSDAY
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木:海外ドラマに夢中!

「最新デジタル技術でよみがえる往年の名作ドラマ」(by 岸川靖)

No.124 2006.10.12

現在BS2「懐かし海外ドラマ」で放送中の『奥さまは魔女』は、第1話から、全編カラーでの放送となっています。しかし、当コラムNo.122でも触れられていることですが、この作品の第1〜2シーズンはもともとは白黒で放送されたものでした。それを可能にしたのは、皆さんおなじみの“デジタル技術”。しかも、その技術は、過去の作品を違和感なくカラー化し、時間がたって褪色してしまったオリジナルフィルムを鮮やかによみがえらせるだけではありません。現在、米本国では、60年代のSF作品『宇宙大作戦 スタートレック』が、大幅にリニューアルされて放送されているのです。

先週放送されたカラー版『奥さまは魔女』をご覧になって、(初放送時に見ていたという方を含めて)その画面に違和感をもった方は少なかったのではないでしょうか? 現在のデジタル技術によって1コマ1コマ着色された映像は、カラー放送に変わった第3シーズン以降の画面と比べても見劣りしないものでした。

こうした過去の白黒作品をカラー化するというやり方は、1990年代初頭、『キングコング』(33)、『カサブランカ』、(42)、『史上最大の作戦』(62)といったモノクロの名作映画を、デジタルでカラー化するということから始まったと記憶しています。米国の観客(特に若い人)が、白黒であるがゆえに過去の作品を見ない、という傾向が強いことへの対応が理由です。もちろん、他者が製作・監督した作品に、勝手に後世の人間が手を入れることへの反発・批判(オリジナルの重視ということです)もありましたが、それ以上に問題だったのがカラーゼーション技術の未熟さでした。出来上がったカラー版は平面的でいかにも“色を塗りました”という程度のものでした。結局、あまり評判になることもなかったようです。
テレビドラマでも、スティーブ・マックィーンの出世作である『拳銃無宿』などがカラー化作品として日本でも見ることが出来ますが、正直、出来がいいとはいえないものでした。

その後、デジタル技術は、過去のカラー作品のリマスター等で力を発揮します。これは、製作から時間がたち、褪色や傷が激しいオリジナルフィルムをコンピュータに取り込み1コマ1コマブラッシュアップするものです。これによって、何十年も前の名作が、当時の発色と変わらない美しさで再現されていきました。現在、昔の映画やTVドラマで“デジタルリマスター”とうたっているものは、こうした作業を経ています。
そして、その技術の進歩は、白黒作品のカラライズにも力を発揮するようになり、立体的で違和感のない、カラー版『奥さまは魔女』(第1・2シーズン)の登場となるわけです。

さて、そうしたデジタル技術を使って過去の作品をリニューアルするという試みの、最も新しい例が、『宇宙大作戦/スタートレック』のCGリマスター版です。

1966年9月8日から、米国の3大ネットワーク(当時)のひとつであるNBCで放送が始まった『宇宙大作戦/スタートレック』は、今年で生誕40周年を迎えました。その40周年記念事業の一環で、新たなお色直しが行われたCGリマスター版(通称・リニューアル版)の放送が9月16日から始まっているのです。

このリニューアル版、物語は昔のままですが、デジタル・リマスタリングを施した鮮明な画面と、特撮シーンを最新のCGI(コンピュータ・ジェネレイテッド・イメージ)技術を駆使したものに差し替えられているのが最大の特徴です。CGIで差し替えられているのは、オープニングタイトル、そして本編中の宇宙空間での場面(主として宇宙船エンタープライズ号のシーンです)、惑星、そして惑星表面の都市や工場などの風景(いわゆるマットアート。ガラス板に背景画を描いて、それをセット画面に合成していたもの)です。また、ドラマ部分に合成された光線銃などの光跡を表現した光学合成もデジタル化され、より自然(?)な感じになっています。基本的には役者が演じる本編(ドラマ部分)は、デジタルを使ったきれいな発色と、クリアな画面にブラッシュアップしただけになっています(もちろん、役者さんが変わっているとかということはありません)。

このリニューアル版、例えて言うなら1997年にリニューアル版が公開された映画『スター・ウォーズ/特別編』に近い感じといえばわかっていただけるのではないでしょうか? とはいえ、『スター・ウォーズ』の場合は、昔の映像のアラ(合成マスクのフチや、移動マスクの枠)をデジタルで補正して目立たなくし、さらにデススターという宇宙基地の爆発シーンに、デジタルで光の輪を加えるといった“追加加工”が主でした。ところが、今回の『宇宙大作戦〜』は、そうした宇宙空間のシーンはゼロから全てを作り直しているのです。

で、実際に観(み)てみましたが、新たにCGIで作り直された特撮映像と宇宙船(エンタープライズ号)のクリアな画面には驚かされます。また、過去の作品ではなかったキャメラが主役メカのエンタープライズをフォローするカット(左奥から飛んできて目の前を通り過ぎ、キャメラが右に追いかけていくと遠ざかる)まであって、サービス満点。さらに光子魚雷やフェイザー砲の発射シーンもすべて新作で、発射した光線の照り返しが船体に反射した光の映り込みなどまで表現されています。つまり、かなり、気合の入ったリニューアル版でした。66年に制作されたオリジナル版でのミニチュアを使用した特撮もきれいでした(今見るとチャチでも、当時は最先端の技術です)が、やはり、初めて見る人にはリマスター版のほうが入りやすいのではないでしょうか?

また、オープニングで流れる音楽もステレオで新録音されています。ただ、ナレーションは旧マスターの音をそのまま使っているため、その音声レベルが低いのは気になりました。これは旧オープニングの音楽(いまだに、かつての某クイズ番組のテーマソングと思っている人がいる、あの曲です)と、ナレーションの「宇宙、それは人類に残された最後の開拓地である・・・」が一緒の録音テープに入っており、完全に音声だけを取り出すのが難しかったからではないかと思われます。

これらのリニューアル版を制作しているのはCBSパラマウント・ドメスティック・テレビジョン。同社はCBSテレビ傘下の制作会社で、今年春に設立されました。同社では『宇宙大作戦 スタートレック』全79話のうち半分を今年中に、残りを来年中にはリニューアルすると発表しています。さらに、制作元では、さらにこのリニューアル版をワイドスクリーン化してソフト化しようという動きもあるようです。

現在は多チャンネル化の時代であり、各局とも放送コンテンツが不足しているといわれますが、このリニューアル版が成功すれば、過去の作品(とりわけSFものなど)の特撮部分をリニューアルしたり、モノクロ作品をカラー作品やステレオ作品に変えたりという試みが続いていく可能性は充分あります。

とはいえ、このリニューアル版の放送時間は真夜中の3時過ぎ(ニューヨークエリア)なので、意外に放送局は期待していないのかもしれないという見方もあります(何といっても、旧作ですし・・・)。予算や手間ひまに見合った結果が得られるのかどうか・・・、注目していきたいところです。

最後に、細かなことですが、私が気になった点について一つ。
それは、今回放送を行っている局が、現在『宇宙大作戦 スタートレック』の権利を所有しているCBS系列でなく、60年代に本放送を行ったNBC系列(米国NBC系傘下のシンジケート枠、200局以上での放送)だということです。昔と比べて、放送局と番組の結びつきというのは希薄になっているのですが、やはり、往年の名作ですから、こうしたことになったのではないでしょうか? エンディングクレジットも、最後に当時の制作プロダクションであったデジルプロ(『アイ・ラブ・ルシールー』や『アンタッチャブル』を製作した会社です)のクレジットもオリジナルのままの放送だというところも、うれしい配慮でした。




岸川 靖(きしかわ・おさむ) 岸川 靖(きしかわ・おさむ)

1957年、東京生まれ。編集者・ライター。雑誌「幻影城」編集を皮切りに執筆をはじめ、海外ドラマ、特撮映画等の著書多数。
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