◎珠洲沖マグロ畜養 「海洋牧場」に大きな可能性
クロマグロを大きく育てて出荷する畜養事業が来春から珠洲市沖合で始まる。世界的な
日本食ブームを背景に、日本が得意とする「育てる漁業」がビジネスとして成立するようになっている。豊かな能登の海を「海洋牧場」として活用する試みは、曲がり角に立つ漁業の新たな方向性を示すだけでなく、能登にこれまでなかった食文化を生み出す期待も膨らむ。
クロマグロは、世界的に乱獲が問題になっており、国際機関で漁獲量を制限する動きが
広がっている。取引価格も右肩上がりといわれるだけに、畜養ビジネスを能登に定着させ、一大産業に育てたい。
クロマグロは本マグロとも呼ばれ、脂ののったトロは最高級の食材である。マグロ類は
全世界で年間約二百万トンの水揚げがあり、日本はその一割強の約二十二・五万トンを水揚げしているが、それだけでは国内需要をまかない切れず、約三十万トンを輸入している。
しかし、マグロの乱獲が国際的に問題視されるようになり、大西洋まぐろ類保存国際委
員会(ICCAT)は西大西洋での漁獲量を段階的に減らす漁獲削減を決めているほか、欧米や中国での需要が大幅に伸びているために、マグロの取引価格が高騰している。
珠洲市沖でマグロの畜養に取り組む北海道の水産会社は、マルタ島やメキシコ湾などで
、マグロの畜養事業を行っている。マルタ島などでは、漁船で捕獲したクロマグロを生きたまま直径五十メートルのいけすに移し、四カ月畜養する方法を取っている。こうすることで、鮮度が抜群に良く、品質にもばらつきのないクロマグロがいつでも出荷できるのだという。
珠洲沖では四基のいけすで二千五百匹のクロマグロを育てる計画である。富山湾では古
くから定期網が盛んだが、モロッコ沿岸でもクロマグロを待ちかまえて網に入れる定置網漁が紀元前から行われている。魚を囲い込む漁に適した地形なのだろう。富山湾の定置網漁のノウハウは、マグロ畜養にも生かせるのではないか。事業を軌道に乗せ、天然のブリばかりでなく、クロマグロを北陸の味覚として、売り出すことも考えたい。
◎空自がイラク撤収へ 復興支援切り替えの潮時
政府がイラク復興支援活動を行う航空自衛隊の部隊を年内に撤収させる方針を決めたの
は、妥当な判断であろう。空自が参加する多国籍軍は、年末の国連決議期限切れによってイラク駐留の根拠を失ってしまう。このところの治安情勢の改善と主権意識の高まりから、イラクは多国籍軍駐留の国連決議の延長を望んでおらず、日本としては民生中心の復興支援へ完全に切り替えを図る「潮時」と言える。
二〇〇六年に撤収した陸上自衛隊を含め、国際的なイラク復興支援活動で自衛隊は実行
可能な役割を十分果たした。それでも、今後のイラクの国家再建を考えれば、従来の人道支援から本格的な経済復興支援へ、日本の役割はむしろこれから増える。イラクの安定は中東にエネルギー資源の供給を頼る日本にとって、まさに死活的に重要であり、中長期的な戦略をもって再建を支援していきたい。
また、イラクからの自衛隊完全撤収は、「テロとの戦い」の終わりではなく、対テロ支
援の給油活動でなお自衛隊の果たすべき役割はあると思われる。
イラクの治安は着実に改善されており、その象徴的な出来事が今月あった。国際テロ組
織アルカイダ系武装組織の拠点とされ、最も治安が悪かった中西部アンバル州の情勢が改善したとして、駐留米軍は同州の治安維持権限をイラク部隊に移譲したのである。イスラム教スンニ派が多数を占める州では初めてで、全十八州のうち十一州で権限移譲が実現した。
むろん安定にはまだまだ米軍の存在が不可欠であり、国連決議の期限切れ後も駐留を認
めるための地位協定交渉が、米国とイラクの間で進められている。先ごろ二〇一一年末までに駐留を終了させることで基本合意した。しかし、協定の締結は予定より大幅に遅れている。その背景にはイラクの主権尊重と占領状態からの早期脱却を願うイラク国民の声がある。
日本政府は今後も政府開発援助(ODA)などを活用した支援を続ける考えであるが、
活動の根底にイラクの主権尊重を置いて取り組んでもらいたい。