退陣を表明した福田康夫首相(自民党総裁)の後継を決める総裁選が告示された。石原伸晃元政調会長、小池百合子元防衛相、麻生太郎幹事長、石破茂前防衛相、与謝野馨経済財政担当相の五氏が立候補した。
原油をはじめとする資源高や食料高による物価高騰と景気減速で、日本は今、多難な状況にある。社会に閉塞(へいそく)感が漂い始めた中で安倍晋三前首相に続く突然の政権投げ出しだった。
「緊急」と名の付く経済対策が行われようとしていた矢先、政治の空白は許されない時だっただけに、誰もが驚いた。福田首相のいう「華々しい」総裁選によって一気に国民の注目を集め、余勢をかって次期衆院選で民主党に勝利したいという狙いはあからさまだった。
事前に七人が総裁選に立候補の意向を示し、実際に五氏が立った。立候補に一定数の推薦人集めが義務付けられた一九七一年以降の総裁選で最も多く、初めて女性議員も出馬した。一見確かに華々しくはなったが、党利党略の色濃い選挙であることは変わらない。
そうした総裁選であるからこそ、各候補にはこれから徹底的な政策論戦を展開する責務がある。耳ざわりのよい政策だけを並べる姿勢やパフォーマンスは許されない。
経済対策以外にも問題は山積している。景気刺激と財政規律の兼ね合いをどうするか。社会保険庁に絡む年金不信の解消と信頼ある年金制度の構築にどう取り組むのか。また、労働現場や都市と地方の間にある格差の問題も大きい。
届け出後、共同会見が行われた。石原氏は経験を生かして心の通う改革路線を進めるとし、小池氏は改革を継続し女性やシニアの力を活用するとした。麻生氏は実績をアピールするとともに特別会計の剰余金活用を言い、石破氏は得意とする安全保障問題に重点を置いていた。与謝野氏は社会保障の安心を訴え消費税引き上げに言及した。
それぞれの考え方や政策の一部がうかがえたが、次の総裁、首相に誰がふさわしいかを判断するにはもちろん足りない。各候補は今後、目指すべき国家像から政策実現のための課題、対処法などを率直、かつ丁寧に語ってもらいたい。政権投げ出しの経緯を考えれば、誠実さは次の首相として必要な資質でもある。
今回選ばれる人の政策は、そのまま自民党の衆院選マニフェスト(政権公約)になる。選挙に直接かかわる自民党議員や党員らだけでなく、一般の有権者も衆院選をにらみ真剣に耳を傾けなければならない。
世界を震撼(しんかん)させた米中枢同時テロから十一日で七年になる。旅客機が突っ込み、ニューヨークの世界貿易センタービルが崩れ落ちる映像がいまだに目に焼き付いている。
あの日から米国は「テロとの戦い」を宣言し、アフガニスタン攻撃やイラク戦争に突き進んだ。しかし、軍事力の行使で世界は安定に向かっただろうか。
米国内ではテロの発生は抑えられたものの、欧州やパキスタン、インドなどで一般市民を巻き込む無差別テロが相次いだ。むしろ脅威を世界へ拡散させ、混迷を深めているのが実情だ。
戦争開始から五年目を迎えたイラクでは、三万人規模の米軍増派が成果を挙げ、首都バグダッドなどの治安は改善された。しかし、数は減ったものの、テロは依然として後を絶たない。犠牲者が増え続けていることを忘れてはなるまい。
民主化への歩みを始めていたアフガンでは、反政府武装勢力タリバンが盛り返し、急速に治安が悪化している。農業支援活動を行っていた邦人が殺害される事件も起きた。
ブッシュ米大統領は、来年二月までにイラク駐留米軍を約八千人削減し、一月までにアフガンに四千五百人規模の部隊を増派する方針を決めた。テロとの戦いは、再びタリバン掃討が焦点となってきた。
同時テロからの七年間で明らかになったのは、軍事力だけでテロを封じ込める難しさだ。ブッシュ流では、テロとの戦いに出口は見つかるまい。かえって反米感情を広め、暴力と流血の連鎖を生むだけだ。
テロを克服するには、貧困や差別を解消するとともに、相手の宗教や文化、歴史を理解することも必要だろう。テロは決して許さないという国際社会の協調体制も重要である。
(2008年9月11日掲載)