機能不全を来たした心臓に電気ショックを与えて治療する埋め込み型除細動器(ICD)は、生存期間を延長させるだけではなく、生活の質(QOL)も損なわないことが明らかになった。この研究は、ICDが死亡率を低下させるかどうかを調べると同時に、使用者のQOLについても検討したもので、研究結果は米医学誌「New England Journal of Medicine」9月4日号に掲載された。
米デューク大学(ノースカロライナ州)メディカルセンター教授のDaniel B. Mark博士らは、心不全患者2,521人を対象とした30カ月の研究の結果をレビュー。被験者全員が標準的な薬物療法を受けており、3分の1はICDを埋め込み、3分の1は抗不整脈薬アミオダロンを併用、3分の1はプラセボ(偽薬)を服用した。研究開始時の心理的健康状態のテストでは、どの被験者も同程度のスコアであったが、その後の面接では3カ月目と12カ月目にICD使用群のスコアがやや高くなり、30カ月目には差がみられなかったという。
しかし、この種の研究では「二重盲検(患者にも医師にも、誰がどの治療を受けるのかを知らせない方法)」を行うのが望ましいが、この研究では(装置を埋め込むので)それができなかった。ICD使用者の初期の結果が良好であったのは、ICD群に選ばれたことが正のフィードバックをもたらしている可能性もあるとMark氏は述べている。また、研究に参加する際に被験者は、自分が突然死に直面していたという深刻な内容の説明を受けている点も考慮する必要がある。「ICDの電気ショックによる不快感が、ショックそのものによるものなのか、ショックを必要とした心臓の状態のせいなのかは、実際のところはわからない」と同氏はいう。
米レノックス・ヒルLenox Hill病院(ニューヨーク)のMarie-Noelle Langan博士によると、約20年前にICDが始めて導入されたときには、使用者の心理面への影響が非常に懸念された。しかし技術が進み、機器の性能が大幅に向上したことにより、この懸念は解消されてきているという。
同じ号に掲載された別の研究では、ICDによる電気ショックを受けたかどうかが心配の根拠となることが示された。ICDを埋め込んだ患者829人を45.5カ月間追跡したところ、269人が少なくとも1回の電気ショックを受けていた。このうち128人のショックは医学的に適切なものであったが、87人は「不適切」であり、54人はその両方を受けていた。
適切なショックは心臓に重大な障害があったことのサインであり、電気ショックを受けなかった人に比べてその後の死亡リスクが5倍であったが、不適切なショックでも死亡リスクは約2倍であった。また、適切なショックの後24時間生存した人でも、研究期間中の死亡リスクは約3倍であった。研究者は、これらの結果から、心不全による死亡リスクの高い患者群を明確にすることができるようになったとしている。
原文
[2008年9月3日/HealthDay News]
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