事故調シンポ「患者と医療者が手をつなぐには」(4)
「医療の良心を守る市民の会」が開いた、医療者や医療事故被害者の遺族、国会議員などを交えてのシンポジウム。「中立公正な医療事故調査機関」についてのディスカッションの中盤を紹介する。(熊田梨恵)
【今回のシンポジウム】
事故調シンポ「患者と医療者が手をつなぐには」(1)
事故調シンポ(2)
事故調シンポ(3)
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司会 医療事故調査機関について、最終的に「こう仕上げるべき」という提案を。
■二者択一の時期は過ぎた
国立がんセンターがん対策情報センターがん情報・統計部、渡邊清高室長 厚生労働省案と民主党案のどちらが良いとか、個別に取り上げる時期は過ぎていると思う。第三者機関をつくるということにはある程度コンセンサスは得られているので、どういったものをつくりたいか、つくるべきかという議論をしていくべき。例えば、死因について医学的に細かく調査しても、遺族から「そんなことを調べてほしいのではない」と言われたとする。その際に何が食い違ったかということを明らかにし、患者・家族の納得につなげて再発防止に結び付ける。次の医療を良くしていくために、一つの悲惨な出来事から学ぶことを生かしていける仕組みにすべき。
■事故調査は再発防止と切り離せない
永井裕之・医療の良心を守る市民の会代表 (厚労省案、民主党案などの)最低の共通案でもいいから早く立法化してほしい。法制化しても施行まで3、4年はかかる。その間に医療界は自浄作用の発揮に自らの病院でチャレンジしてほしい。そこが良くならなければ、医療事故調をいくらつくっても医療は良くならない。民主党案で、(患者・家族が院内事故調の説明に)納得したら、(第三者機関に)届けなくていいとあるのは、この目的には合わないと思う。医療事故を起こしたところがしっかり調査をし、再発防止にどう取り組むか。事故調査と再発防止を切り分けるのはまずい。
■第三者機関が院内事故調のレビューを
木下正一郎弁護士 医療事故調査を真相究明につなげ、それに基づいて再発防止をしていくことが目標として掲げられなければならない。事故原因分析に基づいた説明がなされなければ、表面的に「亡くなった」という説明では、誰も納得がいかない。なぜ亡くなったかを確実に知りたいと誰もが考えている。再発防止については、大綱案の内容より広くできた方がいいと思うが、運用を考えれば制約を設けないといけないこともある。届け出範囲を広くし、医療者を中心にして専門性を重視し、自律的に行う制度設計が必要。院内事故調査がうまく行われる病院には徹底的に行ってもらい、第三者機関の医療事故調が結果をレビューするという形に持っていければ理想的だと思う。
■信頼得るため、客観的医療記録を
安福謙二弁護士 どのような制度であれ、インフラが整備されていなければ、お題目だけで終わる。もしくはとんでもない機能を間違った方向に進めてしまう危険がある。裁判の場では法律論争をしていると思われているかもしれないが、民事では判断枠組み、刑事では公訴事実など、「事実は何だったのか」という事実認定について議論している。このため、判決は事実認定が先に生まれる。医療事故調でも、結局どういう事実があったかを押さえることが先決。現在の医療事故調議論はそういう意味でのコンセプトがどこにあるか分からない。例えば、事故調査というときに何を調べるのか。手術に直接関与した執刀医、助手、麻酔科医、その下にいる看護師などにヒアリングするのは大切だが、刻々と変わる緊張感の強い場面について、記憶に頼って事実を明らかにするのはむちゃな話だ。だから、客観的な証拠を集めることが何よりも大事になる。カルテの記載と事実が違った場合、うそとみるか正しいとみるか、そこから始まる。カルテが改ざんされ、正しいことが書かれていないと患者側が思った瞬間から、事故調査をやっても議論が進まなくなる。それが、医療者が信頼されていないということについての一つの理由。それを解決する方法は、客観的な医療記録を残す工夫をすることだ。そのインフラをつくるため、カルテの電子化は急務だ。カルテの記録を現状よりもっと効率的にするシステムを開発し、ビデオ記録と一体化させることも可能だろう。また、医療者同士のピアチェックを現場でやらせる良い方法は、患者にカルテを持たせ、カルテをポータブル化することだ。医療機関は常に患者にカルテのデータを渡すようにし、どこかを受診すれば、その医療機関もデータを見ることができる。そうすれば嫌でもピアチェックは進む。
■病理医、法医、監察医制度のインフラも
あと3、4年の期間で医療事故調が実現するとしたら、その間にインフラ整備はできるはず。病理医、法医、監察医制度もそうだ。秋田県の「豪憲(ごうけん)君事件」(2006年に秋田県藤里町で、畠山彩香さん(当時9歳)と米山豪憲君(同7歳)が殺害された事件)を思い出してほしい。きちんと検証されていれば、女の子が橋から突き落とされたのか、川で転んでおぼれたのかの区別が付かないわけがない。法医学の鑑定の結果、誤ったことが出ているなら、日本の法医学は悲惨な状態だ。また、多くの病理の先生は定刻に帰るが、患者が亡くなって病理科学をしたくてもできない状況。病理の先生も専門はさまざまであり、法医の先生は死体の専門家ではあっても臨床の専門家ではない。こういうインフラ整備をどうしていくのかという問題意識が必要。
また、「福島県立大野病院事件」が見事に示しているが、医療事故調の議論は限られた人たちだけで大丈夫か。広く皆の意見を聞くため、刑事・民事裁判は公開されている。実況生中継をして、専門家から批判を受けるべきだ。インフラをつくり、事実認定に間違いが起こらない制度をつくってほしい。
司会 超党派の議員立法で調整するというシナリオはあるのか。
古川俊治・自民党参院議員 当然ある。内閣提出による立法と議員立法によるものがあり、後者の方が制度を普遍的なものとする観点から望ましい。
鈴木寛・民主党参院議員 そのためにこの1年間、(超党派の「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」の幹事長として)努力してきた。舛添要一厚労相からも「議員立法で検討し、解決を」と承っている。それに向けて最大限の努力を、国会議員のネットワークづくりからさせていただいている。
司会 法制化までの時間は、最短距離の過程をとったとしてどうか。
古川氏 小さくつくって大きく育てるということでご理解いただけるなら、比較的早期に枠組みを何とかしたい。今、皆で理想についての声を上げ、議論を尽くすべきという意見もあるが、そうするとあと20年たったとしても新制度はできないだろう。
鈴木氏 臨時国会で舛添厚労相が留任しているという前提で言う。医療事故調をつくることや、患者や家族がいつでも使える機関にすること、院内事故調を設置すること、医療者と患者の対話を促進すること、というあたりのコンセンサスは得られていると思う。警察への届け出や通知、範囲、業務上過失致死の定義などの問題は議論が分かれ、やればやるほど難しいので、アイデア段階ではあるが、付帯決議でそこをきちっと盛り込み、法学や政策学の関係者の協力を得て議論の枠組みを設置し、残された課題を引き続き議論していく。この形なら、この臨時国会での成立も可能ではなかったかと思う。8月31日までは厚労相とそれを目指し、わたしはその下働きをしてきた。しかし、こういう状況なので、臨時国会についてどうなるかは不透明。しかし、国会が正常化した暁には、速やかにこれらのことを再開できるようにしていくというのが、われわれ議連150人の意思だ。
古川氏 木下氏から、厚労省案と民主党案で制度目的が違うという指摘があった。医療事故調の目的が原因究明か再発防止かという話では、新制度の重点を再発防止に置くのはおかしい。自民党でもここを理解していない議員は多い。民主党からはそういう案が出ているので、歩み寄る余地はある。再発防止については、院内事故調査を徹底してやり、日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業をもっと充実させていく方が合理的だ。
事故調シンポ「患者と医療者が手をつなぐには」(1)
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更新:2008/09/11 20:28 キャリアブレイン
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