社 説

供託金見直し/次期内閣で慎重に議論せよ

 福田康夫首相に代わる新首相が24日、選出される。福田内閣で方針が決まった道路特定財源の一般財源化、消費者庁設置などの実現は次の内閣の仕事になる。同内閣時代に与党が検討した案件のうち、衆院選における供託金制度の見直しも次期内閣に引き継がれるが、事は選挙結果を左右する微妙な問題であり、慎重な論議が望まれる。
 公選法は、売名目的の出馬や候補乱立を防ぐため、衆院小選挙区に立候補する際は法務局に300万円を供託しなければならないと定めている。得票が有効投票総数の10分の1に達しない場合、供託金は没収される。

 前回衆院選で共産党は300区のうち275区で候補を立てたが当選者はゼロで、計6億円以上の供託金が没収された。この負担に音を上げた同党は次期衆院選では約140区でしか候補を立てない。残る約160区は原則として自主投票。各区に数千から2万程度ある共産党票は反自民の立場から民主党など野党に流れるとみられる。
 自民党が最近検討を始めた供託金制度の改正点は、没収となる基準の緩和、具体的には10分の1ラインをもっと低くすることだ。狙いは、共産党候補が小選挙区で立候補しやすくすること。その結果、反自民票を分散させ、民主党の議席増を阻みたいという思惑がある。

 だが、衆院議員の任期満了まで1年となった時点で検討を始めたことには問題がある。自民党は「供託金制度が自由な立候補の『壁』になっている」と主張しているが、このタイミングでの公選法改正には当然、「党利党略」という批判が起きた。
 思った通りに勝てないから勝てるようにルールそのものを変えてしまえ―。要はこういうことだろう。こんな乱暴な論理展開が許されていいはずがない。

 問題提起という性格もある話に大人げなく目くじらを立てているのではない。今回の供託金問題と同様の身勝手なルール変更論議が自民党内で続いていることが気になるのだ。
 参院で否決された議案を衆院の3分の2で再可決する規定をめぐり、「過半数でいい」とハードルを下げる意見が出たのも記憶に新しい。最近は、参院を廃止して衆院に統合することを目指した「一院制議員連盟」が発足した。いずれも、野党が多数を占める参院の反対により与党主導の政権運営ができない不満が背景にある。

 言うまでもないことだが、民主主義はプロセスが大事である。選挙制度のような民主主義の根幹にかかわる問題は、選挙前に慌ただしく論議するのでなく、与野党がじっくり時間をかけて合意点を見いださなければならない。新内閣はこのことを肝に銘じ、発足直後から真剣な検討を始めてほしい。
2008年09月08日月曜日