「カビが産生する毒:マイコトキシン」
   梅雨時が近づき、食品に生えるカビが気になる季節となりました。カビは一体どんな毒を作るのでしょうか。カビが生えた食品は食べても大丈夫なのでしょうか。

 マイコトキシンとはカビが産生する「カビ毒」でヒトや動物に対して低濃度で毒性を示す化学物質の総称です。ギリシャ語でカビを意味する「マイコ」と矢尻の毒を意味する「トキシン」を組み合わせて、マイコトキシンと呼ばれています。マイコトキシンに汚染された食品の摂取により起こる食中毒は真菌中毒症といい、日本では食料不足の時代に赤かび病に感染した小麦で作ったうどんやパンを食べ、急性胃腸炎の症状を引き起こした集団事例があります。しかし、その後少なくともここ数十年間、日本においては、カビによる急性食中毒の発生は報告されていません。その理由は、もちろん、カビが生えた食物を強いて食べなくてもよくなったという食糧事情にあると考えられます。

 マイコトキシンにはこのような急性毒性とは別に、微量を長期間摂取することにより発生する慢性毒性があります。肝、腎、肺、神経系、内分泌系、免疫系を標的器官として、発癌性、変異原性、催奇性、エストロゲン様作用などの毒性を示します。マイコトキシンは低分子量で加熱に強いものが多いため、食品の加工調理過程で分解しにくく、食品衛生学上、大きな問題となっています。マイコトキシンとして報告されているものは100種類以上ありますが、特に重要なものを下の表に示しました。

 産生菌にはアスペルギルス、ペニシリウム、フザリウムなどがあります。これらのカビは通常、畑地土壌に生息しており、収穫前あるいは収穫後に農作物に侵入し、農場、貯蔵、輸送のいろいろな段階でマイコトキシンを産生します。干ばつや冷夏などの天候不順は農作物へのカビの侵害を助長し、マイコトキシン汚染を増大させることがわかっています。しかし、これらのカビを土壌から根絶することは不可能です。そのため、食品のカビ汚染あるいはマイコトキシン汚染をゼロにすることも極めて困難です。世界の食糧の少なくとも25%がマイコトキシン汚染を受けていると試算されている現状においては、極微量に汚染された食糧まですべて廃棄してしまうことはできません。

 したがって、常に汚染状況をモニタリングし、健康に影響がない量であるかを監視する必要があります。当研究所食品化学課では大阪府食品衛生監視指導計画に基づき、毎年検査を実施しています。現在日本で量的な規制が行われているのは、3種類のマイコトキシンですが、専門家によるリスク評価の作業が進行するにつれ、現行規制値の再評価を含め、他のマイコトキシンについても新しい規制値の制定が検討されていくと考えられます。


代表的なマイコトキシン


アフラトキシンB1,B2,G1,G2を産生するアスペルギルス・パラジティカス

(企画調整課 久米田裕子)