やっと問題になりだしたHCV(C型肝炎ウイルス)感染問題


C型肝炎はその患者は日本全国に100万人、HCVウイルス(C型肝炎ウイルス)感染者(いわゆるHCVキャリア。肝炎を発病していないひと)も含めると200万人といわれる。また、日本のC型肝炎はその7割が、治療薬であるインターフェロンが効きにくいタイプであるとされる。HCVウイルスの唯一といってよい感染媒介は血液であり、HIVと違って性感染はほぼないといわれている。つまり、医療行為による感染が極めて大きな比率を持つと考えられる。

さて、国民病とまでいわれるC型肝炎だが、やっと血液製剤によるHCVウイルス感染が問題とされはじめた。

2001年2月23日の読売新聞大阪本社版朝刊第1面にこんな記事が載っている。

40万人が肝炎感染の恐れ

血友病以外の治療で使われた非加熱血液製剤による肝炎問題で、厚生労働省は二十二日、出産時の止血剤などとして四十万人以上に使われた「フィブリノゲン」の投与でC型肝炎ウイルスに感染する恐れがあることを明らかにした。この日の肝炎対策有識者会議(座長・杉村隆国立がんセンター名誉総長)で説明した。

フィブリノゲンは出産時の異常な出血などで使用された血液製剤。血友病の治療に用いられた他の血液製剤とは異なり、非血友病の患者に対して幅広く使用された。一九六六年から二十年間だけでも約四十万人に使われたと推定されている。

八七年に安全性を高めた加熱製剤に切り替えられたものの、ウイルスを完全には除去できず、その後も十四人の産婦への肝炎感染が確認されているという。

同省はすでに、非加熱血液製剤を投与した全国約七百病院を通じ、約千人を対象に肝炎感染の実態調査を行なうことにしている。しかし、フィブリノゲンは投与された人が極めて多く、「病院を通じての調査は効果的ではない」として、このまま調査対象には加えない考え。同省では「九四年以降の製剤は改良されて絶対に安全だが、それ以前、特に八七年以前に婦人科で大量出血をした人などは早急に検査を受けてほしい」と呼びかけている。

同じことを朝日新聞はどう伝えたか。2001年02月24日東京本社版朝刊3面から。

40万人投与の血液凝固製剤、C型肝炎の感染源か 検査は自己負担

止血目的で使われる血液凝固製剤「フィブリノゲン」が、加熱処理を始める一九八七年までに、計四十万人に投与され、C型肝炎ウイルスの感染源になった恐れがあるとして、坂口力厚生労働相は二十三日、対策に着手する方針を明らかにした。

ただ、「人数が多く、病院にも資料が残っていない」として、輸血を受けた患者らと同じく自己負担で肝炎検査を受けるよう呼びかける方向で検討しているという。同じ非加熱製剤でも、第八、第九因子製剤を使った患者については、検査費を公費で負担することを決めており、不公平感が残る対策となった。

フィブリノゲンを治療に使う第一因子が欠乏する患者は全国で数十人とされ、非加熱だった同剤を投与された約四十万人のほとんどは、手術や出産、外傷などで止血目的に使われた人とみられる。納入先は六千六百病院にのぼるという。

これらの病院すべてに、投与患者をさかのぼって調査するよう要望するのは事実上無理で、投与患者も膨大になるとして、検査費の公費負担を当面、見送る方針だ。

C型肝炎ウイルスが特定されたのは八八年で、それまでは、献血などの血液にウイルスが混入していたとしても、排除することはできなかった。輸血用の血液も、非加熱血液製剤も等しく感染の危険性をはらんでいたことになる。

にもかかわらず、第八、第九因子製剤についてのみ、研究事業として検査費を公費負担するのは「五年前の薬害エイズのときに調査した納入病院のリストがある」ためだという。

感染の事実があるのは違いないが、フィブリノゲンの投与患者が多すぎて、対策のしょうがない。検査は呼びかけるが、公費負担はできないというのである。今になってこんなことをして、いったいどうするつもりなのか。

薬害エイズ以前に輸血血液や血液製剤を介しての肝炎感染は広く知られていた。C型肝炎は当時「非A非B肝炎」といわれ、その存在は明らかではなかったが、何らかのものがあることはわかっていた。また、B型肝炎は昔からその存在は知られていて、血液で感染することもわかっていた。にもかかわらず、その対策はなされなかった。唯一の対策というのが、ライシャワー事件による買血から献血への転換であった。時のライシャワー米国駐日大使が日本の輸血血液によってB型肝炎に感染したため、日本で買血が禁止となり、ほぼ100%献血に転換されたというものである。国民が肝炎にいくら感染しようとも国は対策に動かないが、アメリカの要人ひとりが肝炎に感染すれば国は動く。日本は外圧でしか動かないという例がここにもある。

しかし、献血に転換しても輸血血液や血液製剤に対する肝炎対策自体は何もされなかった。危険はありますよというアナウンスだけしておいて、対策はしていなかった。そこに薬害エイズが出てきて、慌てることになったのである。B型かC型(非A非B)かということはこの際関係ない。問題が厳然とあったにも関らず、血液を媒介とする感染症への認識そのものが、当時はその程度だったというのが問題なのである。アメリカ合衆国の大統領あたりが日本の血液製剤で肝炎に感染したら、その認識も少しは変わったかもしれないが。

フィブリノゲンというのは、このページのいたるところで述べているとおり、私が今も使っている凝固第1因子製剤である。このくすりは当時の読売新聞で報道されたように薬害エイズ問題が世間を賑していた1987年、青森の三沢で8人の産婦を立て続けに急性肝炎に感染させたせいで回収され、その後は一般向けにはほぼ使われなくなったといういわく付きのしろものである。本来ならその時点で問題にされてもおかしくないくすりだったのである。何を今さらという感じがする。

少しさかのぼるとこんな記事もある。2001年2月20日の読売新聞大阪本社版朝刊第1面。先の記事で紹介のあった、薬害エイズ問題でいう第4ルートによるHCV感染を国が問題にしだしたという記事である。

非加熱製剤での肝炎感染、保健所で無料相談へ

血友病以外の治療で使われた非加熱血液製剤によるC型肝炎ウイルス感染問題で、厚生労働省は十九日、感染の不安を抱いていたり、匿名の検査を希望したりする人のための検査・相談窓口を全国の保健所に設けることを決めた。検査費用は国が全額負担、各保健所には共通の相談マニュアルを配布する。早ければ四月中にも相談窓口をスタートさせる予定だ。

非加熱血液製剤による肝炎問題では、すでに坂口厚生労働相が「感染の恐れがある非加熱血液製剤を使用した七百病院を公表して、病院で検査を実施してもらう」とし、他の肝炎の総合対策に先がけて対応することを決めている。

しかし、投与から二十年近く経過し、カルテ保存期限(五年)が過ぎていたり、廃院になったりしている施設も少なくない。また、七百病院は製薬会社からの非加熱血液製剤の納入リストをもとに割り出したが、リスト自体が不完全なケースもあるため、同省では保健所での対応に踏み切ることにした。

相談窓口を設ける保健所の選択は各都道府県に任せることにしているが、相談のための共通マニュアルは、同省と、同省が近く設置する専門医師による研究班が協力して作る。

同省では、感染が判明してもパニックに陥らないように、〈1〉感染者全員が肝がんになるのではないこと〈2〉発症まで二、三十年もかかり、その間にきちんと治療することで症状が好転するケースも多いこと〈3〉世界的にも治療法が飛躍的に進みつつあること――などをマニュアルに盛り込む予定。

同じく朝日新聞の記事。2001年02月23日東京本社版朝刊3面。

ウイルス検査、公費で 非加熱製剤の肝炎対策で厚労省

厚生労働省の肝炎対策有識者会議は二十二日、一九八八年までに非加熱血液製剤を投与された可能性のある人らの肝炎ウイルス検査を公費で負担することなどを決めた。製剤を納入した約七百病院の名前を公表し、追跡調査する。一方、まとめられた報告書骨子では、九二年以前に輸血を受けた人らに対して重点的に情報提供することを盛り込んだにとどまった。感染の有無を確認するための検査料を公費負担するかについては触れておらず、非加熱製剤対策とは一線を画した格好で論議を呼びそうだ。

非加熱製剤については、国の研究事業として位置づけ、血友病以外で非加熱製剤を使ったとみられるケースを調べる。調査対象は、千人以上にのぼるとみられる。七二年から八八年までに、非加熱製剤を納入した病院で、出産や手術などで大量に出血した人らを対象に、受診を呼びかける。国の研究事業なので、検査料は国が負担する。

非加熱製剤は、本人が投与されていたことを知らないケースが多いため、厚生労働省は調査を早期に始める必要があると判断した。

輸血によって感染した可能性のある人の数はけた違いに多いため、広く一般に呼びかけて検査を促す方法にとどまった。約一万円の検査費は自己負担を求める方向で検討している。

感染原因を問わずに治療費は医療保険で対応することを考えている。ウイルスが検出された後に、肝機能の悪化を定期的にみる超音波検査などの費用については、この日の会議で「保険適用の可否」が指摘されたものの結論は出なかった。

C型肝炎ウイルスは八八年に発見され、献血血液に検査が導入されたのは八九年。それ以前は輸血を受けた人でも一六−九%、六〇年代半ばまでは五−三割が肝炎を発症したと推定されている。

この記事でいう「非加熱血液製剤」が結局第8、第9因子製剤だけであったというのが明らかになってしまったが、それでも、最近になって、やっと厚生労働省が血液製剤によるHCV感染問題をまともに取り上げはじめた。これが公明党の人気取り政策でないことを切に願いたいものである。まともに取り上げはじめたといっても、その対策をどうするのかが問われるところで、ではその対策はというと、かなりおぼつかないものにちがいないと思うのだけれど。さて、「まともに」とことさらに書くのは、ごく最近でも次のような噴飯物の発表がなされていたからである。今度は朝日新聞の記事。2000年02月27日東京本社版朝刊3面から。

C型肝炎ウイルスまん延は、50年代の「ヒロポン」原因

国内に約200万人の感染者がいるとされるC型肝炎で、ウイルスが全国にまん延したきっかけは1950年代の「ヒロポン」と呼ばれた覚せい剤の注射とする説を、広島大医学部の吉澤浩司教授(衛生学)が26日、東京で開かれた厚生省肝炎研究連絡協議会の報告会で発表した。ウイルスの感染経路として過去の輸血や不適切な医療行為などが指摘されているが、全国に急速に広まった理由がよく分かっていなかった。現在の覚せい剤常用者にもC型肝炎ウイルス感染者が多いとみられ、覚せい剤対策が肝炎予防からも重要になる。

国内の患者からとったウイルスの個人差を遺伝子レベルで調べると、45年ごろに枝分かれして全国に広まったことが、名古屋市立大などの研究で分かっている。吉澤教授は終戦直後、血液を通してまん延した要因を、「ヒロポン」として知られた覚せい剤注射と考えた。

51年に法律で禁止されたころの常用者は約100万人ともいわれる。当時の20歳前後の若者に覚せい剤が広がり、この世代の一部に感染が起きた。50年代以降、輸血や消毒不十分な注射針という医療行為などで拡大した結果、現在、60歳以上で高い感染率を示していると分析した。

C型肝炎は米国でも約400万人の感染者がいると予想される。40代前後に多く、ベトナム戦争期以降の薬物乱用が影響しているとみられる。吉澤教授らがウクライナのキエフで調べたところ、ピークが30代前後にあり近年の若者の薬物乱用を反映していた。

また、西日本で現在の覚せい剤常用者を調べた結果では、約8割がウイルス抗体検査で陽性になり、現在も感染の危険をかかえていることを示していた。

C型肝炎は肝硬変を経て、感染後何十年もたってから肝がんになる。ウイルスを含んだ血液を通して他人に感染する。現在は輸血用血液は検査が実施されていて、新たな感染はほとんどない。

朝日の記事で発表された吉澤氏を一応弁護するなら、ヒロポン注射によるHCVウイルス感染の可能性はもちろんあるとは思う。しかし、感染経路の比率としてはどうか。普通の感覚で考えてもらいたいものだが、輸血や医療行為としての薬物注射と、ヒロポン注射とどちらが多かったのか。どう考えても前者ではないかと思うのだが、いかがだろうか。私は戦後の昭和40年生まれゆえよくわからないが、戦後すぐの時代、そんなに猫も杓子もヒロポンを、それもみんながまわしうちで注射していたのだろうか。この記事の問題は、ヒロポン注射による感染が前面に出され、輸血その他医療行為(医療行政が関与している)による感染が陰に隠れてしまっていることである。これは役所リークによる大本営発表的な垂れ流し記事の典型である。

ヒロポンはともかくとして、輸血や血液製剤投与による肝炎感染は国が認めた。しかし、いまだ国が認めず、マスコミも報道しない、非常に大きな感染経路がある。それは予KI@\

私くらいの年代の方は見たことがあるだろうし、実際それで注射されたこともあるだろう。正式な名前を何というのかは知らないが、腕に当てるとバシュッという音とともに針が出て、瞬時に注射される、非常に効率的な、あの機械である。予防接種マシンとでもいうのだろうか。そんな機械まで使って、わが国は恐ろしいほど薬のまわしうちをしていたのである。これはヒロポンのまわしうちどころの騒ぎではないし、いくらそれが皮下注射であろうと、血ぐらい出るのは当たり前である。予防注射は個人の意志に関らず、否応なしにされてしまう。国はそうしてC型肝炎のまん延に手を貸していたのである。この経路によるC型肝炎感染の事実を国はたぶん認めないだろうし、もし認めてもかなり遠い将来に違いない。また、認めたとしても、「当時は予見できなかった」というだろうし、裁こうとしても「現在の認識で当時のことを裁くのは間違っている」などと、あの郡司氏のように言い出すに決まっている。

それと、無料で検査を実施して、感染者を割り出したり、相談にのるのはいいが、いちばん大事な治療はどうするつもりなのか。これも無料でやるつもりなのであろうか。高価でなおかつ治療効率の悪い(ウイルスが消えるのは、たったの3割である)インターフェロンをバンバン使ったら、保険医療どころか国庫が破綻してしまうような気がするのだが。

さて、朝日の記事に文句を付けたので、最後に読売の記事にも文句を付けておこう。これも読売の記者の名誉のために一応書いておくが、悪いのは情報発信者の厚生労働省の担当官であって、無知な読売の記者ではない(朝日の記事もそうだが)。記者は伝達役を果たしただけである。

C型肝炎が「世界的にも治療法が飛躍的に進みつつある」というのは話半分に聞くべきである。C型肝炎の根治薬となる抗ウイルス剤はまだ開発されていないはずである。また「世界的にも治療法が飛躍的に進みつつある」かもしれないが、「日本の国内的に治療法が飛躍的に進みつつある」わけではない。リパビリンとインターフェロンの併用療法は国内ではまだまだ始まったばかりだし、インターフェロンの投与期間も、保険医療を守るため、日本では欧米諸国に比べ短く制限されている。インターフェロンの複数回投与も健康保険適用は厳しく制限されている。私もインターフェロンを1回投与したが、2回目は難しいと医師に言われている。最近、C型肝炎の治療法に関する明るめの報道が、厚生労働省の肝炎対策の動きもあって、頻繁にあるが、現実はそんなに明るいものではない。惑わされてはいけない。

それと、これは怒りを込めて書きたいが、フィブリノゲンが「九四年以降の製剤は改良されて絶対に安全」というのは真っ赤な嘘である。以前より感染の恐れは減ったことは事実だが、「絶対に安全」とはメーカーもいっていない。それが証拠に、私の使っているフィブリノゲン製剤は、C型肝炎などウイルス混入は否定できないので、使用については充分注意する旨の記述が使用説明書にいまだ掲載されている。私がインターフェロン投与をしたときに、C型肝炎の治療をしているのに、少しでも再感染の恐れがあるものを使用するのはおかしいと、インターフェロンの注射痕から、出血がなかなか止まらないにもかかわらず、医師はぎりぎりまでフィブリノゲンを投与しなかった。この薬はすでに一般には使用されておらず、4、50人程度の患者しか使わないからと、少しくらい危険でも製薬会社はそのまま放置しているのが現状なのだ。まったく、バカも休み休み言ってもらいたいものである。