「環境中 PCB の発癌リスク評価」
Assessing the Cancer Risk from Environmental PCBs
Cogliano VJ
(米国環境保全庁環境評価センター,Washington, DC, USA)
Environmental Health Perspectives 106 : 317-323 (1998)
Key Words : ポリ塩化ビフェニル/癌/生物濃縮/環境中分配/残留性/リスク評価
ポリ塩化ビフェニル(PCB)類は,製造中止から20年が経過したが,環境問題の中でいまだに懸念の対象である.これまで主として発癌性に基づいて規制されてきたが,1996年以前までに適切に発癌性が試験されたものは塩素含有率が60%の市販 PCB 混合物(Aroclor 1260)のみであった.他の PCB 混合物については様々な仮説があり,すべての PCB 混合物に発癌性があるとか,塩素含有率の高い PCB 混合物だけに発癌性があるとかと唱えられた.
〔PCB の発癌性の証拠〕 4種の市販 PCB 混合物,Aroclor 1016,1242,1254,1260 の発癌性試験がラットを用いて実施されている.これらの PCB 混合物の全てで雌ラットに肝腫瘍が誘発されたが,Aroclor 1260では雄でも肝腫瘍が誘発された.誘発された腫瘍には,対照群のラットではほとんど見られない肝胆管腫 (hepatocholangiomas) があった.別の研究では,塩素含有率が60%の市販 PCB 混合物を生涯にわたって摂取させると,3系統のラットで肝腫瘍の誘発がみられた.誘発腫瘍の多くは良性であったが,最終的には悪性に移行することが時系列的な形態学的検討によって明らかにされた.また,塩素含有率が54%の市販 PCB 混合物では,胃・消化管腫瘍の誘発がみられ,塩素含有率が42−60%の市販 PCB 混合物では肝臓に前癌状態とされる変性が誘発された.
疫学的な研究では同様な部位の腫瘍が報告された.塩素含有率が41−54%の一連の市販 PCB 混合物に曝露されたコンデンサー製造作業員では,肝臓,胆嚢,胆道の癌,胃・消化管の癌あるいは悪性黒色腫による死亡率が高かった.Aroclor 1254 や他の化学薬品に曝露された石油精製作業員では,悪性黒色腫による死亡率は有意に高かった.また,PCB に曝露された電気工事作業員の間で悪性黒色腫と脳腫瘍による死亡率が有意に高かった.さらに,最近の症例対照研究では,非ホジキンリンパ腫について,脂肪組織内の PCB 濃度および血清中 PCB 濃度との間に強い相関があることが明らかにされた.PCB や塩化ジベンゾフラン汚染米糠油による油症では,摂取と肝臓癌および肺癌の死亡率の有意な増加との間に関連性が認められた.
PCB の遺伝毒性についての試験結果は一般的に陰性である.
〔環境中 PCB のリスク評価〕 環境中では,PCB は市販物とは異なる組成で存在する. これは, 環境中での分配,化学変化,生物濃縮を介して組成が変化するためである.環境中にある PCB をAroclor と同じとして評価するのは誤りであると考えられ,環境中 PCB のリスク評価には, PCB の組成が変化することを考慮すべきである.
分配の過程では,堆積物や土壌に吸着した PCB 混合物の分画は塩素含有率が高い傾向があり,さらに,代謝も排除もされにくいので残留性も毒性も高くなる傾向がある.一方,水中に溶け込んだり,空気中に蒸発したりする PCB 混合物の分画は,塩素含有率が低く,残留性も低い傾向がある.従って,汚染された堆積物やダストではなく,水や大気経由で摂取することから生じるリスクは低いものと考えられる.
食物連鎖では各生物種が代謝や排泄を受けにくい残留性の高い PCB 類縁体を保持するため, 優先的に生物濃縮された PCB は,Aroclor より毒性が強く,体内残留性も高い.食物連鎖を経由して曝露された PCB のリスクは,実験動物での Aroclor の試験に基づいて推定されたものよりも高い可能性がある.
そこで米国環境保全庁では,分配と生物濃縮が各曝露経路や状況でどのような影響を示すかを考慮した段階的なリスク評価の方法を考慮している.
妊娠期や授乳期に高度な曝露を受ける可能性や周産期には感受性が増大する可能性があり,幼年期の曝露による影響は,特別の関心をもって取り扱う必要がある.ヒト乳児では代謝能が十分発達していない.乳児は母乳に含まれるステロイドを母乳とともに摂取するが,ステロイドはグルクロン酸転位酵素の活性を低下させ,その結果,PCB の代謝と排泄を低下させる.動物では,幼若期にAroclor 1260 への曝露を始めた場合,肝腫瘍の発生率が高くなった.周産期にポリ臭素化ビフェニルに曝露すると,雌ラットでは肝腫瘍の発症率が高くなった.
〔展望と研究の必要性〕 高度な PCB 曝露を受け,さらに生物濃縮された PCB の曝露を受ける集団は2つある.1つは乳児であり,その全 PCB 平均摂取量は 1.5-2.7 μg/kg/day(ATSDR, USA, 1997), 3-11 μg/kg/day(IPCS, WHO, 1993), 2.1 μg/kg/day(Crit Rev Tox, 1995)と推定されている.なお,これらの報告では,大人の摂取量推定値は 0.2 μg/kg/day とされる.高度に曝露を受けたもう1つの集団は,偶発的に汚染された地域からその食物の多くを得ている人々,例えば,汚染された資源から得た魚をよく食べている漁師やその家族などである.食物を介した摂取量は非常に様々である.
いま,最も必要とされる研究の一つは,市販の PCB 混合物と生物濃縮された PCB 混合物の発癌性を比較する研究である.EPA は,汚染食物を介する曝露のリスクが過小評価されている可能性を指摘し, 警告しているが,どの程度の過小評価であるのかは明らかにされてはいない.また,生涯の一時期に残留性の化合物に対する曝露が起こった場合のリスクを,生涯曝露による研究結果を用いて評価する方法が必要である.
さらに,環境から得られた試料の分析方法を改良する必要もある.今後は構造類縁体や同族体の分離分析が望まれる. それは, 環境中にある PCB 混合物のダイオキシン毒性への換算値を推定したり,水中や大気中で検出された PCB の塩素含有率を確認できるからである.PCB-126 (3,3',4,4',5-六塩化ビフェニル)はダイオキシン毒性換算値の最も高い PCB であるが,最近,牛の背脂の分析で,この化合物が63試料の全てから検出されている(米国,1996).
「乳癌リスクと環境因子の再考察」
Rethinking Breast Cancer Risk and the Environment: The Case for the Precautionary Principle
Davis DL1,2, Axelrod D3, Bailey L4, Gaynor M2, Sasco AJ5
(1 世界資源研究所,健康・環境・開発計画, Washington, DC; 2 Cornell 医科大学 Strang 癌予防センター, New York; 3 Beth Israel 医療センター, New York, NY; 4 米国対癌協会, Oakland, CA, USA; 5 国際癌研究機構,疫学・癌予防部門, 国立健康医学研究所, Lyon, France)
Environmental Health Perspectives 106 : 523-529 (1998)
Key Words : 乳癌/環境の影響/ホルモン/癌の予防/リスク因子
WHO の最近の報告では,乳癌は女性において世界中で最も好発する癌となった.この世界的な傾向の原因はよくわかっていない.米国やカナダの一部の州ではマンモグラフィーを用いた検診が日常的に行われ,発見率の上昇が乳癌罹患率を一部押し上げてはいる.しかし,既知のリスク因子,診断技術あるいは老化などでこの乳癌罹患率と死亡率の変化を説明することはできない.年齢による影響を訂正した死亡率は,先進国でも発展途上国でも増加している.
乳癌のリスク因子として確立されているものは,腫瘍抑制遺伝子の欠損(これは全乳癌の10%以下)のほか,12歳未満での初潮,55歳を超えての閉経,高年齢での出産,妊娠経験や授乳経験のないこと,若年期のまたは頻回の放射線曝露,長期間ホルモン補充療法,乳房密度の増加,社会経済上の地位が高いこと,閉経後の肥満などがある.これらのリスク因子の大部分にはエストロゲン生涯曝露量の増加との関係があり,その他のホルモンおよび若年期の高度の曝露とも関連している可能性がある.
放射能と乳癌の関係では,曝露時期の方が曝露総量よりも重要な意味をもっている.乳房細胞が形成される出生前の一時期あるいは思春期初期における放射能曝露による発癌性は,これら以外の時期に受ける曝露に比べてはるかに強い.思春前期の乳房細胞のように急速な増殖をしている細胞は影響を受けやすい.
飲酒,運動不足,食物繊維不足,ビタミンD不足は,生体利用可能エストラジオールの総量増加の要因である.また,殺虫剤,溶剤,医薬品に対する曝露も要因となる.体内利用可能エストラジオールとは,性ホルモン結合グロブリン(SHBG)またはアルブミンと結合して,容易には排出されない形となったエストラジオールの分画である.
初潮の低年齢化の1つの原因として食事カロリー摂取量の増加があり,またそれに正比例した少女たちの体脂肪増加がある.若年期には,脂肪はエストロゲンの源泉といえる.体重が重い少女の方が,より低年齢で初潮を経験し,乳房が発達し始める.さらに,外来性のエストロゲン様物質(食肉製品の残留ホルモン,有機塩素系殺虫剤などの内分泌影響物質)の影響も考慮すべきである.
最近報告された残留有機塩素化合物に関する3つの症例対照比較研究では,最初の診断時点でのこれらの化合物の体内濃度が,乳癌の女性では,乳癌でない女性に比較すると低かったことが報告されている.これらの研究からは,若年期の重要な時期における曝露の役割についての検討はできないが,少なくとも乳癌が確認された後に残存していた残留物の測定は行われた.2つの研究は米国以外で実施されたものであるが,これらの患者においては,脂質代謝が変わってしまったため,有機塩素化合物の濃度が低かったと考えることもできる.血中濃度の分析は癌の進行がすでに10年以上経過した時点で実施されたものであるので,これらの症例でみられた低い濃度は,癌によってもたらされた結果であるか否かについては明確ではない.
癌患者における殺虫剤代謝物の濃度に関する研究は,「そこに光があるからという理由だけで,最も近い街灯の下で失った鍵を探す」ことに譬えられてきた.
米国の様々な地方,マサチューセッツ州のコッド岬,イリノイ州の中央部などでは乳癌罹患率が高いがその理由はよく分かっていない.乳癌死亡率の地域差は既知のリスク因子では半分しか説明できない.米国の乳癌発生率はアジア諸国に比べて4倍以上高い.アジアから欧米に移住した女性では,乳癌のリスクは高くなる.アジア系アメリカ人でも,アメリカ生まれの祖父母を持つ女性では,アジア生まれの祖父母を持つ女性に比べると,乳癌のリスクは60%高い.欧米に住んで10年以上経過した移住者では,それ未満移住者に比べると,乳癌のリスクは80%高い.また,白人系やアフリカ系アメリカ人では有機塩素のレベルが高いと乳癌のリスクは2〜3倍増加するが,アジア系アメリカ人女性では有機塩素のレベルが高くても乳癌のリスクは全く増加しない.アジア人には何かの予防的特性があるのかも知れない.
〔基礎研究の課題〕 背が高く体重も重い少女では乳癌のリスクがなぜ高まるのか.鳥肉,卵,および乳・肉製品に含まれる成長ホルモンは,カロリー量の増加の他に,乳癌の発症に寄与しているのか.授乳経験のある女性では,閉経前の乳癌のリスクはなぜ低いのか.ほとんどが脂肪組織である乳房の組織に存在する潜在的に有害で発癌性の親油性薬物を体外へ排除することができるか.飲酒習慣のある女性では,乳癌のリスクはなぜそれ程高いのか.アルコールが血中のホルモン循環に劇的に関与するのはなぜか.運動習慣のある女性に乳癌が少ないのはなぜか.ゲニステインおよびω-3-脂肪酸類等に富んだ食品は,アジアの女性における乳癌の予防になっているのか.これらの成分に富んだ補助食品や食品で乳癌は予防できるのか.電磁場への曝露は,天然の乳癌細胞成長抑制剤であるメラトニンのレベルを低下させるのか.化石燃料の燃焼副生成物や医療用プラスチック製品の廃棄物を管理せずに焼却したときに生成する物質は,都会環境における乳癌の罹患率が高いことに何か役割を果たしているのか,などの問題がある.
「フタル酸エステルの胎盤通過性」
Assessment of the Developmental Toxicity, Metabolism, and Placental Transfer of Di- -butyl Phthalate Administered to Pregnant Rats
Saillenfait AM, Payan JP, Fabry JP, Beydon D, Langonne I, Gallissot F, Sabate JP
(国立防衛研究所, Vandoeuvre, France)
Toxicological Sciences 45 : 212-224 (1998)
Key Words : フタル酸エステル/胎盤通過/代謝/発生毒性/ラット
樹脂類の可塑剤として用いられている Di- -butyl phthalate (DBP)は,最も一般的に使われているフタル酸エステルの一つであり,主として高分子物質のポリマー,印刷インクや樹脂の溶剤,潤滑油等に用いられている.雄ラットへの投与では,精子細胞の脱落,セルトリー細胞の空胞化,精巣萎縮を特徴とする精巣障害が認められ,妊娠ラットへの投与では吸収胚の増加,胎児死亡あるいは発達障害,催奇形性等が報告されている.その後の研究で,DBP により誘発された生殖発生毒性のほとんどは,器官形成期に最も感受性が高いことが示唆されているほか,少なくとも生殖発生毒性の一部には DBP の主な代謝産物である mono- -butyl phthalate (MBP) が原因物質として関与していることが報告されている.本研究は,ラットの性分化の過程で DBP に対する感受性が最も高いと考えられている胎齢14日における DBP の胎盤通過性を明らかにするために行った.
発生毒性学的検討では,Sprague-Dawley 系ラットを交配し,妊娠第14日に非標識 DBP を 0,0.5, 1,1.5 および 2 g/kg を単回経口投与して妊娠第21日に剖検し,母体重,生存児数,死亡児数および胎児奇形を調べた.胎盤通過性の検討では,妊娠第14日に 14C 標識した DBP 0.5 あるいは 1.5 g/kg を単回経口投与した.投与 0.5, 1,2,4,6,8,24 および48時間後に麻酔下で採血し,血漿を採取した.母体からは,腎臓,肝臓,卵巣,胃,腸管および子宮を採取し,さらに子宮から胎児および羊水を採取した.また,投与24および48時間後の排泄物を代謝ケージにより採取した.各器官はホモジナイズしたのちシンチレーションカウンターで放射能レベルを測定し,HPLC により DBP,MBP およびそのグルクロン酸抱合体を分析した.
その結果,胎児体重の減少および吸収胚が 1.5 および 2 g/kg 投与で増加し,1 g/kg 以上の投与量では,骨格異常の発生率が高かったが,0.5 g/kg 投与では胎児毒性あるいは催奇形性に影響を及ぼさなかった.胎盤通過性の検討において,胚組織中の薬物量は投与量の0.12〜0.15%未満であった.胎盤および胎児中の放射能レベルは,母体血漿中の3分の1あるいはそれ以下であり,また,母体および胎児組織に放射能の蓄積は認められなかった.HPLC 分析から,未変化体 DBP,代謝産物である MBP およびそのグルクロン酸抱合体が迅速に胚組織へ移行したが,これらは母体血漿レベルより常に低かった.一方,母体血漿,胎盤および胎児中の放射能のほとんどを MBP が占め,未変化体 DBP は少量であった.
以上の結果から,DBP による胎児毒性には,その代謝産物で強力な催奇形性物質として知られている MBP が寄与するという結果を裏付けた.
「動物実験施設における浮遊アレルゲン対策」
Control strategies for aeroallergens in an animal facility
Reeb-Whitaker CK, Harrison DJ, Jones RB, Kacergis JB, Myers DD, Paigen B
(The Jackson Laboratory, Bar Harbor, Maine, USA)
Journal of Allergy and Clinical Immunolgy 103 : 139-146 (1999)
Key Words : 実験動物アレルギー/フィルターキャップ/換気装置付ケージ/移動式ケージ交換用換気装置/室内換気回数
実験動物アレルギー (LAA) は, 実験動物取扱者の職業病の一つとして知られている. 発生率は, 19の施設の調査結果(11〜46%)では全体の平均で21%との報告がある. LAA は, 発症者の生産性等の減少, 健康保険料率および給付の上昇といった経済的問題も惹起している. げっ歯類のアレルゲンは種々のサイズの浮遊粉塵に認められ, 曝露ルートは, 吸入が主であり, 浮遊粉塵の大きい方から鼻咽頭部, 気管, 気管支, 肺胞と順に沈着し, 鼻炎, 喘息等の呼吸器症状の原因となる. 飼育室内のアレルゲンは, 飼育室内湿度, 飼育密度, ケージ交換, 清掃, 動物の取り扱い等の要因によって増減する.
今回, 著者らは, アレルゲンを減少させる方策として, ケージの上に被せるフィルターキャップ, 室内換気回数の増加, 陰圧式換気装置付ケージ, 移動式ケージ交換用換気装置の効果を, 室内および作業者の頭部周辺の空気を採取し, マウス由来の浮遊アレルゲンである Mus m 1, 粉塵, 炭酸ガス濃度等を測定することにより調べた.
2種類のフィルターキャップを試した結果, 室内の浮遊アレルゲン量は1/3〜1/6に減少した. 被せた時の密閉性が劣る種類でも相当減少したことから, 経済的な方策と考えられた.
換気装置付ケージでは, ケージ内を陽圧と陰圧にした場合の両方を調べた. 通常のケージと比較して, 室内浮遊アレルゲン量は陽圧の場合1/5〜1/6に減少し, 陰圧の場合1/17(10 μm 以下の粉塵由来の Mus m 1 は検出限界以下)に減少した.
浮遊アレルゲンは, ケージ交換中に増加することが知られているので, 移動式ケージ交換用換気装置を試した. 今回用いた機種は室内の空気を吸入し, HEPA(超高性能)フィルターを通した空気が作業空間から装置外へ送り出される陽圧式であったが, 浮遊アレルゲン減少効果は認められた. しかし, 作業空間を陰圧にする機種の方がより効果的であろう. また, 陰圧式ケージ交換用換気装置と陰圧式換気装置付ケージを併用することにより作業者のアレルギー対策と動物飼育環境の清浄度維持の両方に期待ができよう.
今回調査に用いた飼育室の換気形式は通常の乱流方式であった. この場合, 室内換気を6から20回に増加すると炭酸ガス濃度の減少には効果があったが, 浮遊粉塵数および浮遊アレルゲン量の減少には効果がなかった. 最近開発された One-way airflow system(一方向気流システム), Central soffit system(なげし排気システム), Displacement system(床給気天井排気システム)に期待がかかる.
どの程度の浮遊アレルゲンまで減少させれば患者の発生がゼロになるのかは, 現在のところ明確ではないが, 資料によれば患者発生率の高い施設のアレルゲンレベル(2.0 ng/m3) の1/10のレベルの施設では有意に患者発生率が低いので, 減少目標となろう.
「飲料水媒介病原菌のリスク評価検討」
Assessing the risk associated with exposure to waterborne pathogens:
an expert panel's report on risk assessment
Neumann DA, Foran JA
(国際生命科学協会 (ILSI) リスク科学研究所,Washington DC, USA)
Journal of Food Protection 60 : 1426-1431(1997)
Key Words : リスク評価/飲料水媒介疾病/飲料水媒介病原菌
本論文は, 1996年6月31日から7月3日の4日間, ワシントン州シアトルで開催された第83回国際乳食環境衛生学協会 (IAMFES) 年会で, ILSI がスポンサーとなり開いた「微生物細菌汚染リスク評価の構成」のシンポジウムで報告されたものである. 論文記載内容は, ILSI リスク科学研究所病原菌リスク評価専門家ワーキンググループの目的と討論が主体であり, このワーキンググループは USEPA を始め, FDA, 全米水道協会(AWWA), 各大学や ILSI リクス科学研究所等からの28名の委員により構成された.
飲料水媒介病原菌の発生源は, 元来開発途上国の独特な状態や, 公衆衛生上好ましくない環境からと考えられて来たが, 近来先進国での問題もあることが指摘され, そのリクス評価が問題になってきた. 従来, リスク評価の方法としては, 化学物質については有害性確認・用量反応関係評価・曝露評価・リスク判定の4段階での検討が行なわれてきたが, 飲料水媒介病原菌のリスク評価手法については, 原水の分布・環境変化・感染経路等が評価対象として取り上げられてきた.
飲料水媒介病原菌リスク評価についての基礎検討で, 飲料水汚染の各種の可能性を考慮し, 個々のヒトまたは集団が置かれている様々の環境条件下で健康障害リスクの評価を定量的に行なう必要性が強調された. 病原菌との接触による各種のシナリオ(飲用,エアロゾル吸入)を考慮し,個々の病原菌(リステリア,大腸菌,クリプトスポリジウム)について多種多様な環境下での飲料水原水や排水, 再生水中での実態を確認することがリスク予知には必要であることが認められた.
リスク評価法の図式として3段階の手順が掲示された. 最初の「課題提示」では,リスク評価の目的, 何が重要な問題点か, 関係者たちの関心に応えているか,の3点の確認, 次に, 「調査」で病原菌への曝露とその健康への影響を明らかにし,塩素処理など飲料水処理の効果を解析する.最後に「リスク判定」を検討した.
上記の問題提起と調査が注意深く行われた上でリスク判定が行われる.これは曝露を受ける集団に生じ得る影響を表現することである.リスク評価には影響の定性的な記載とともに,その評価の前提となる条件設定,と固有の不確定性が定量的に述べられることになっている.リスク判定では,いくつかの(条件における)リスクを算定する.それは,上記の定性的,定量的データ,専門家の意見,その他の情報をとり入れた記述的な表現に加え,適切な定量的あるいは統計学的支援資料が付される.
「新しい機能性食品としての植物ステロールエステル類の安全性評価・・90日経口投与による亜慢性毒性の評価」
Safety Evaluation of Phytosterol Esters. Part 2. Subchronic 90-Day Oral Toxicity
Study on Phytosterol Esters − A Novel Functional Food
Hepburn PA1, Horner SA1, Smith M2
(1安全・環境評価センター, Unilever 研究所, 2Zeneca 中央毒性研究所, UK)
Food and Chemical Toxicology 37 : 521-532 (1999)
Key Words : Phytosterols/植物ステロール/新開発食品/Sitosterol/13-週飼養実験/亜慢性毒性
Phytosterol 類, すなわち植物ステロール類は, 食物中の天然成分であり, 化学構造式としてはコレステロールの関連化合物である. これらは植物油の他マーガリンのような植物油に由来する食品中に微量存在する. 通常存在する phytosterol 類は, β-sitosterol, campesterol, stigmasterol などであり, 遊離体あるいは脂肪酸, 糖及びフェノール酸とのエステル体として存在している. また, phytosterol 類は, 小腸でのコレステロールの吸収阻害により血漿コレステロールを低減すると言われており, 血漿中コレステロールの低減機能を有する物質として, 主としてマーガリンや塗り食品などの新開発食品の成分として使用が考えられている. Phytosterol エステル類のヒトにおける一日平均消費量(北欧)は 200 mg であり, このレベルの消費量では血漿中コレステロールを低減させるのには十分でない. そこで phytosterol エステル類をマーガリンや塗り食品へ添加することにより, これら食品の通常摂取量レベルでも phytosterol エステル類の摂取量を約10倍まで増加させることができるとされる. 既に phytosterol エステル類を含むマーガリンの摂食による血漿中コレステロールの低減は報告がある.
Phytosterol エステル類の安全性評価試験については, 反復投与試験の十分な報告がないので, ラットによる広範な実験計画の亜慢性毒性試験がなされた. 雌雄の Alpk:APfSD (Wistar 系)ラットそれぞれ, 一群20匹に対して, phytosterol エステル類を0, 0.16, 1.6, 3.2及び8.1%(W/W) (phytosterol換算で0, 1.0, 2.0及び5.0%の濃度) になるよう調製した飼料を90日間与えた. 試験期間中の体重, 食餌と飲料水消費量を測定するとともに, 試験の終了時に, ラットを剖検し, 臨床病理検査のための心臓血液の採取, 臓器重量の秤量, 組織学的検査のために組織の標本を作製した.
その結果, 試験期間中の臨床的所見や生存性に phytosterol エステル類投与による影響は見られず, 体重変化ならびに食餌と飲料水消費量の変化も見られなかった. また, 投与群において僅かに血小板減少が見られる群, 血液凝固時間に変化がみられた群もあったが, 血液及び臨床化学的データに, 毒性学的有意性のある変化は認められなかった. その他, 臓器重量の変化, 組織病理学的所見も見られなかった. ただ, 僅かに微石症の増加が雌の高濃度投与群の腎皮質にみられたが, 試験に使用したラット特有の所見であり, phytosterol エステル類投与に関連がないと判断された. 従って, 食餌中 phytosterol エステル類の名目上の濃度8.1%が90日間ラット経口投与試験に対する無毒性量と考えられた. これは 6.6g/kg 体重量/日 phytosterol エステル類または 4.1g/kg 体重量/日 phytosterol に相当した.
「緑茶と癌の予防物質」
Green tea in chemoprevention of cancer
Mukhtar H, Ahmad N
(Case Western Reserve 大学, Cleveland 大学病院皮膚科,Cleveland, OH, USA)
Toxicological Sciences 52 (Supple) : 111-117 (1999)
Key Words : 緑茶ポリフェノール類/カテキン類/抗酸化作用
発癌の頻度を減らし,死亡率,罹患率を低下させる化学物質による癌予防が現実のものとなりつつある.実験室段階では現在少なくとも30種の癌防止物質群が知られており,そのうちには疫学的研究でも期待できるものもある.その1つがポリフェノール類であり,カテキン類もそれに属する.喫茶効果の疫学調査は未了であるが,緑茶の飲用習慣と癌の低リスクとに相関がある.癌予防と茶の関係についての種々の研究はほとんどが緑茶について行われており,それ以外のものは少ない.
癌を防止すると考えられる茶のポリフェノール類抗酸化物質としては (-)epicatechin (EC), (-)-epigallocatechin (EGC), (-)-epicatechin-3-gallate (ECG), (-)-epigallocatechin-3-gallate (EGCG)があげられ,EGCGが最も強力なものと目されている.
実験動物を用いた発癌実験が多数行われている.茶に含まれる抗酸化性ポリフェノールが癌のイニシェーションを抑制する,あるいは成長を抑制するという実験的データが示されている.紫外線誘発マウス皮膚癌モデルにおいて,緑茶またはポリフェノール成分の経口または局所適用が発癌の防止効果が示された.他の多数の実験で,緑茶のポリフェノール単離分画が,実験動物の肺,肝,食道,前胃,十二指腸,膵,大腸,乳腺の癌に予防効果があることが示されている.
茶の腫瘍抑制の主要な有効成分は,実験結果などから, EGCG と考えられている.緑茶一杯には最高 400 mg のポリフェノールが含まれ,その半分が EGCG である.最近,飲料,アイスクリーム,健康食品,化粧品等に緑茶成分が添加されているものが多数ある.
緑茶飲用後の活性ポリフェノール成分の生体利用度 (bioavailability) については,ヒトでも実験動物でもまだ十分に明らかにされていない.18人の志願者にカフェイン抜き緑茶 1.5, 3.0,4.5 gを 500 mL の水溶液として飲用させたとき EGCG, EGC, EC の血中濃度は 1.4〜2.4 hr 後に最大値に達し,それぞれ 326, 550, 190 ng/mLであった.EGC と EC は尿中に 8 hr 以内に 90%排泄されたが,EGCG は尿中に排泄されなかった.
緑茶の生物効果の機序については,(1) 化学物質の変異原性の防止,(2) 異物代謝酵素に対する影響,(3) 活性発癌代謝物の結合除去,(4) 抗酸化作用またはラジカル処理機構を活性化する作用,などに研究の焦点が当てられている.
実験的には,緑茶ポリフェノールが発癌物質の生物活性化を行う代謝酵素活性を抑制することが示されている.第2相代謝酵素が関与するとする成績もある.緑茶が癌細胞のアポトーシスを誘発し,細胞回転を停止させるという研究もある.たとえば EGCG はヒト類上皮癌由来培養細胞 (A431) にアポトーシスを誘発し細胞回転を停止させる.正常のヒト角質細胞に対してはそのような影響はない.また,EGCG は酸化窒素 (NO) 合成酵素の誘導を抑制する.NO は炎症や発癌において重要な役割があることが最近認められている.
癌予防化学物質として理想的なものは,毒性が(少)なくて,効果が高く,経口的に摂取できて,作用機序が知られており,低価格で,社会的に受容されやすいものである.茶は人類の飲料としては水に次いで多量に用いられている.緑茶は世界中で広く用いられている飲料で,比較的廉価で,毒性も低い.実験的研究とともに,疫学的研究でも緑茶の使用と癌の抑制には肯定的な成績が続いて報告されている.計画的前向き調査の結果が出るまでには少し時間がかかるが,今,研究すべきことは作用機序の解明である.Sloan-Kettering 記念癌センターで,進行固形癌患者における緑茶摂取の効果を調べる第一相臨床試験が行われている.これらの研究成果に期待が寄せられる.
「食餌中発癌物質と栄養過剰」
Carcinogens in the diet vs. overnutrition Individual dietary habits, malnutrition, and genetic susceptibility modify carcinogenic potency and cancer risk
Lutz WK(Wurzburg 大学, 毒性部,Wurzburg, Germany)
Mutation Research 443 : 251-258 (1999)
Key Words : 食餌性発癌/アフラトキシン B1/アルコール/発癌リスク評価
米国の癌死亡は実行可能な食餌の改良によって35%は減少できると言われており,工業国における癌死亡は4人中1人であるが,うち12分の1は食餌に関係した因子によるものとされ,すなわち,100万人中8万人に食餌関連因子による癌が発生するとされる.この関係が他の国でも成立するかどうかをスイスの資料に基づいて試みた.
食餌経由で摂取される発癌物質による発癌のリスクは,一日摂取量を TD50 (齧歯類2年投与癌原性試験での半数発癌用量) で割って計算し,住人 100万人中の発癌誘発予想数で表すと,全癌頻度は 80,000(範囲: 25,000-175,000)人であり,このうちカフェイン酸が原因となるものは1,000以下,サッカリン100以下,カドミウム80以下,HCAA (複素環芳香族アミン類) 50,PCAH (多環状芳香族炭化水素) 30,ニトロソ化合物8,アフラトキシン B1 6,2,3,7,8-TCDD (ダイオキシン) は10以下と計算された.一方,アルコールの発癌に対する影響は,疫学データを基にして8,000人と見積もられた.
なお,発癌試験データからの推計は,実験用量(非常な高用量)から実際の摂取量レベルまで直線的に変化するとの仮定で外挿しており,過大評価となった可能性がある.また,ジエチルヘキシルフタレートの発癌リスクは1以下と算定されたが,この物質によるラットの肝発癌は作用機序の点からヒトには適用できないものである.
食餌制限による発癌の抑制は,実験的に繰り返し確認されている.最近では "BIOSURE" 研究 (Roe ら 1995)で1200匹のラットを用いた研究が行われ,80%の制限給餌を行うと,雄で23%,雌で18%の腫瘍発生頻度低下があった.この差は,雄で 3.2 g/day,雌で 2.9 g/day の餌の過剰摂取が腫瘍発生頻度を上げる原因であることを示唆し, 過食の TD50〔発癌頻度を基礎頻度の1.5倍に高める過剰食餌量〕は 16 g/kg/day と計算される.
スイスにおける栄養過剰の実態は 5.5 kcal/kg/day である.これはラットで 1.9 g/kg/day の餌の過剰摂取に相当する.上で求めた TD50 値から計算すると,栄養過剰による発癌は60,000人となって,全発癌 (80,000人) の原因がほぼ説明される.〔10,500人分が未決であるが.〕
以上のように,発癌物質のリスクは,有名な発癌物質であるアフラトキシン B1,PCAH,HCAA,ニトロソ化合物を合計しても100万中100に満たない.それに対して,栄養過剰に原因を帰せられるものは60,000人と計算された.しかし, この結論には問題もある.まず,発癌の用量反応曲線が非直線的(上に凹)であれば,発癌因子の影響を過剰評価すること, 食餌以外の発癌因子とくに喫煙の影響(他の発癌因子を増強する可能性)が考慮されていないことや, 栄養欠乏の状態では(発癌防止因子:食物線維等の不足により)かえって発癌因子の影響を増強する可能性を考慮することも必要である.
「水溶性ダイオキシン, ヒトα−フェトプロテイン結合物・・性状, ***での毒性および*** での抗腫瘍作用」
Water-soluble 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo- -dioxin complex with human α-fetoprotein: properties, toxicity and antitumor activity
Sotnichenko AI1, Severin SE1, Posypanova GA1, Feldman NB1,
Grigor'ev MI2, Severin ES2, Petrov RV2
(1医学生態学 Moscow 研究所, 2医学・生物学センター, 生態学研究所, Moscow, Russia)
FEBS Letters 450 : 49-51 (1999)
Key Words : ダイオキシン/TCDD/α−フェトプロテイン (AFP)/TCDD-AFP 結合物/胎児毒性
本研究は,2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ- -ジオキシン (TCDD) と胎児性輸送タンパクのα-フェトプロテイン (AFP) との係わりと, C57BL/6 マウスならびにヒト腫瘍細胞 (CEM (T 細胞リンパ腫), MCF-7 (乳癌細胞), HeP G2 (肝癌細胞)) に対する TCDD-AFP 結合物の性状について調べている.
TCDD と AFP の結合を調べた結果,AFP に対して TCDD を 2〜10モル過剰に加えると種々の割合で TCDD と AFP が結合すること,また,AFP 分子上には2か所 TCDD の結合部位があり,TCDD:AFP (2 : 1)の安定な結合物ができることが明らかとなった.結合物の水への溶解性は TCDD に比し105倍増大した.
TCDD-AFP 結合物を調製して C57BL/6 マウスに静脈内投与すると,LD50 値に雌雄差がみられた (雌:0.33±0.08 mg/kg 雄:1.10±0.17 mg/kg). また,結合物の毒性は,白色マウスに経口投与した時,遊離のダイオキシンを懸濁液として投与した時よりずっと強い毒性 (LD50:雌 1.18 mg/kg, 雄 1.62 mg/kg) を示したが,ダイオキシンを植物油に溶かして白色マウスに投与した時よりは毒性 (0.046 mg/kg) は低かった.McConnell らの報告によると C57BL/6 マウスでは,同様に油にダイオキシンを溶かした場合の LD50 は,雌で 114 μg/kg,雄で 283 μg/kg である.いずれの結果からもダイオキシンに対して雌の方が LD50 値は低く,反応性は高かった.
ヒト組織から得られた癌細胞2種,CEM(高感度性) と HepG2 (低感度性) に対する遊離ダイオキシンと結合型の細胞毒性を調べたところ,両細胞に対するダイオキシンの IC50 にはおよそ10倍の違いがみられたが,結合物では 100倍の違いがみられた.また,ダイオキシンが AFP と結合すると非結合ダイオキシンと比べてその溶解性は 105 位上昇するため,結合型は非結合型ダイオキシンに比べて種々のヒト癌細胞においてもそれぞれ特異的な作用強化効果を示すと考えられる.
ダイオキシンと AFP との結合物の水溶性の増加実験結果から,体内において AFP がダイオキシンの標的輸送担体となりうることが示され,このような結合物の性質が, ダイオキシンの胎児毒性が特に高い理由を解明する手掛かりになると考えられ,さらに,ダイオキシンは AFP 以外の胎児特異性タンパクとの親和性も高いと推測されることから,このようにダイオキシンが胎児性タンパクと結合し易いことが胎児毒性や催奇形性と結びつくのかも知れない.
「日本人の若い女性の血中ダイオキシンレベル」
WPolychlorinated dibenzo- -dioxins and related compounds: The blood levels of young Japanese women
Iida T1, Hirakawa H1, Matsueda T1, Takenaka S2, Nagayama J2
(1福岡県立公衆衛生研究所, 太宰府; 九州大学, 健康科学科, 2公衆衛生学研究室, 福岡)
Chemosphere 38 : 3497-3502 (1999)
Key Words : ダイオキシン/PCDD/PCDF/PCB/血液/免疫機能
年齢がおよそ20歳の出産経験のない女性50名から血液 (50〜80 g) を採取し, 高分解能 GC/MSを用いてダイオキシンおよび類縁化合物の血中レベルを調べた.
全血での総ダイオキシンレベル(TEQ 換算 2,3,7,8-TCDD 相当量) は0.063 pg/gであり, 脂肪当たりでは 21 pg/g であった. これらの値は油症患者 (215 pg/g 脂肪) の 1/10 程度のレベルである. 結果は示していないが, 同年齢の男子の血中レベルも同程度であった. PCDDs (polychlorinated dibenzo- -dioxins), PCDFs (polychlorinated dibenzofurans) およびコプラナー PCB (polychlorinated biphenyl) の各 TEQ は, それぞれ全血では43, 34および23%, 脂肪では44, 34および23%を占める.
著者らは先に, 36人の婦人とその子供について, 出産後3か月間の母乳中のおよび出生後1年以内の新生児の血液中の PCDDs とその類縁化合物レベルをそれぞれ測定し, 新生児の免疫機能との関連について調べた. その結果, PCDDs および類縁化合物の TEQ レベルとリンパ球の CD4+/CD8+細胞や T4 レベルとに負の相関関係があることを明らかにしている. この結果と, 上述の実験結果を併せて考察し, PCDDs およびその類縁化合物の母乳から新生児への移行と新生児の免疫疾患, 特にアトピー性皮膚炎発癌との関係について, 今後, さらに綿密な調査が必要であることを強調している.