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【第133回】 2008年06月03日

消費者庁創設の背後に見え隠れする「弁護士利権」

 「弁護士の食い扶持にしかならないのではないか」

 政府関係者からは早くも懸念の声が上がっている。この4月に新設が決まった「消費者庁」のことだ。あまり知られていないことだが、消費者庁創設に関しては、日本弁護士連合会(日弁連)に代表される弁護士勢力の意向が強く働いているのだという。

 事実、消費者庁構想を推進してきた自民党・消費者問題調査会の事務局次長は、弁護士の森雅子参院議員。消費者保護という「錦の御旗」の下に、貸金業法、割賦販売法、宅建業法など20以上の法律を各省庁から消費者庁に移管しようと奔走している。

  縦割り行政に浸かり切ってきた霞が関にしてみれば、面白いはずがない。「消費者庁が創設されても、ロクな人材を送るつもりはない」(中央省庁幹部)といずれもそっぽを向いている。この間隙を縫って、消費者庁本体に弁護士を送り込むというのが、日弁連の思惑。5月19日、福田康夫首相を訪れた宮崎誠・日弁連会長は「消費者問題に詳しい弁護士を政府に派遣することもできる」と水を向けた。

 目下、日弁連は弁護士過剰問題に悩んでいる。2001年の司法制度改革で司法試験合格者を増やすこととなり、合格者数はこの6年で2倍に増えた。ところが肝心の採用は増えず、年収300万円以下の極貧弁護士が続々誕生。日弁連は対応策に汲々としている。消費者庁に大量の弁護士を送り込むことができれば、願ったりかなったりだ。

 日弁連にとってのメリットはそれだけではない。消費者庁には地方のオンブズマン組織や消費者支援団体の協力を得るという構想もある。こうした組織には弁護士が多数かかわっており、たとえば消費者金融への過払い金返還請求のような「需要創出」にもつながる。

 全国的な過払い金返還請求ラッシュによって、それを取り扱う弁護士事務所の懐は大いに潤った。消費者庁創設によって、第2、第3の過払い問題が起きれば、冒頭の政府関係者の懸念のように、弁護士の「食い扶持」はさらに増える。消費者庁創設には、中央も地方も弁護士で固めて消費者行政を仕切りたい日弁連の意図が見え隠れしている。

 思い出されるのは、弁護士の中坊公平氏が社長を務めた整理回収機構(RCC)だ。弁護士の牙城となったRCCでは、違法な債権回収行為が発覚し、中坊氏はその責任を取って辞任する羽目になった。
 
 消費者保護はもちろん必要な施策だが、安易な議論で消費者庁に強大な権限を持たせれば、いびつな権力集中が起こりかねない。真に消費者のためか、はたまた弁護士のためか。「消費者庁」の存在意義が問われている。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 津本朋子  )

関連キーワード:行政改革 コンプライアンス 組織・人事

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