離職者や中小企業で働く人たちへの職業訓練や、相談などを業務とする独立行政法人。離職者向け訓練などをする「職業能力開発促進センター」を全国に62カ所抱えるほか、訓練指導員を養成する「職業能力開発総合大学校」や、職業体験施設「私のしごと館」なども持つ。今年4月1日時点の職員数は3850人で、本部は横浜市。政府は年内に機構の存廃などについて方針を示す。
(2008年9月10日掲載)
独立行政法人改革の焦点である雇用・能力開発機構の存廃問題で、茂木敏充行政改革担当相の「解体論」に労使が不安を募らせている。職業訓練から国が手を引けば、「雇用の安全網」を誰が責任を持って担うのかがはっきりしないからだ。
▽連合が意見書提出
「初めてやるので不安もあったが、丁寧に教えてもらえるので助かる。6カ月で技術を身に付けたい」。横浜市旭区の同機構の関東職業能力開発促進センターで溶接技術を学ぶ、横浜市の元レストラン店長の男性(40)は、再就職への意欲を語る。
都市部を除き、製造業の離職者訓練を同機構に委ねている都道府県は多い。連合は1日、「機構の解体・廃止は、職業能力開発に対する国の役割・責任の放棄」とする意見書を舛添要一厚生労働相に提出。全国中小企業団体中央会も「国が機構を通じて行う職業訓練は中小企業に必要不可欠」との要望書を提出した。同中央会の幹部は「地方の自治体の財政状況は厳しく、(地方移管を)お願いしてもうまくいかない気がする」と懸念を示す。
同機構は、企業が払う雇用保険料を使って事業を展開。特別会計のためチェック機能が働きにくく、無駄な事業につながった。職業体験施設「私のしごと館」は巨額赤字などで批判を浴びた。
茂木行政改革担当相は福田康夫首相の行政経費「無駄ゼロ」の取り組みの一環として解体する必要性を強調している。
▽就職率は81.6%
しかし製造業の訓練は機械購入など多額の経費が必要で、民間では手掛けにくいのが実情。同機構は全国で、ものづくり分野を中心に離職者や中小企業で働く人に職業訓練を実施。2006年度は全国の施設で離職者約3万3000人が無料訓練を受け、訓練後の就職率は81.6%に達した。
同機構を解体する方針で一致した政府の「行政減量・効率化有識者会議」は都道府県への移管検討を主張、上田清司埼玉県知事も移管は可能との考えだ。これに対し西日本のある自治体の担当者は「県も行革を進めており、単に押しつけられても困る」と困惑気味だ。
厚労省の機構のあり方検討会委員で、リクルートのワークス研究所の大久保幸夫所長は「自治体の多くは財政事情が厳しい。指導員のレベルアップも難しく、地方に移せば(質、量ともに)現在の訓練水準は維持できないだろう」と指摘する。