(CIAリポート)
2002年10月
イラクは、国連の決議と制限を無視して、大量破壊兵器計画を継続している。イラクはまた、化学・生物兵器や射程距離が国連の制限を超えるミサイルを保有している。このまま放置すれば、おそらくイラクは、今後10年のうちに核兵器を所有することになるであろう。
イラクは、大量破壊兵器開発の多くを隠匿している。湾岸戦争後、イラクの広範な隠ぺい工作が明らかになった。
イラクは、1998年に査察が中止されて以降も化学兵器開発を継続し、ミサイル計画を促進し、生物兵器開発に大規模な投資をしている。多くの専門家は、イラクが核兵器計画を再構築していると分析している。
- イラクは、より多くの原油を不正に販売することにより、大量破壊兵器計画への調達資金を拡大している。現金および財による年間収益は、4倍以上に増加した。
- イラクは、「砂漠のキツネ作戦」で破壊されたミサイル・生物兵器施設の大半を再建し、民需品の生産を隠れみのにして化学・生物兵器施設を拡大している。
- イラクの弾道ミサイルの射程距離は、国連で定められた150キロメートルの制限を超えている。イラクはまた、無人飛行機(UAV)の開発にも取り組んでおり、UAVが生物兵器、そして可能性は低いものの化学兵器を運搬すれば、殺傷能力の高い兵器となりうる。
- サダム・フセインはおそらく、いまだ核兵器あるいはその製造に十分な物質を入手してはいないが、引き続きそれらの取得に意欲を見せている。
イラクが最初の核兵器を入手する時期は、兵器に使用するのに十分なレベルの核分裂性物質をいつ入手できるかにかかっている。
- イラクが兵器製造に十分なレベルの核分裂性物質を外国から調達すれば、1年以内に核兵器を製造することができるであろう。
- 外国からの調達がなければ、イラクが今後5年以内に核兵器を製造することは、おそらくできないであろう。
- −−イラクが、禁止されている硬化アルミニウム管を懸命に入手しようとしていることは、重大な懸念である。全ての情報専門家が、イラクは核兵器を求めており、硬化アルミニウム管が遠心分離濃縮計画に使用される可能性があると見ている。大半の専門家は、遠心分離が管の利用目的であると推測しているが、中には、通常兵器のためであろうと考えている者もいる。
- −−イラクが調達しようとしている管のサイズを考えると、数万の遠心分離器があれば、年間数個の核兵器製造に必要な高濃縮ウランを生産できるであろう。
イラクは、化学兵器の生産を再開した。おそらくそれらには、マスタードガス、サリン、サイクロサリン、VXなどが含まれる。イラクの化学兵器生産能力は、国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)の査察期間中は低下し、また現在の能力は湾岸戦争時よりもさらに制限されていると思われる。しかしながら、VXの生産は増加し、兵器の保管可能期間は長くなっている。
- サダム・フセインは、おそらく数百トンの化学兵器を貯蔵している。
- イラクは過去に、化学爆弾、ロケット砲および発射体を製造したことがあり、近距離弾道ミサイルの弾頭に充てんする化学兵器を大量に保有している可能性がある。それらの弾道ミサイルには、イラクがひそかに保有するいくつかの長距離スカッドミサイルが含まれる。
イラクの攻撃用生物兵器計画は、研究開発、生産および兵器化のあらゆる重要な側面で進展しており、それらの大半は湾岸戦争以前よりも大規模化かつ高度化している。
- イラクは、殺傷能力が高く、身体機能に大きな障害を与える生物兵器をいくつか保有しており、また炭疽(たんそ)菌をはじめとするさまざまな化学物質を、迅速に製造し兵器化する能力がある。これらの物質は、爆弾、ミサイル、空中散布機、秘密工作員により運搬され、米国本土が標的になる可能性がある。
- イラクは、可動施設を含む生物兵器製造施設を多数保有しており、それらは大規模でかつ隠ぺいされている。これらの施設は、探知を避けることができ、高度の耐久性があり、湾岸戦争以前にイラクが保有していた以上の製造能力を持つ。
イラクは、小規模のミサイル部隊を保有し、いくつかのミサイル開発計画を進めている。その中には、ほとんどの専門家が生物兵器の運搬を目的としているであろうと分析している無人飛行機が含まれる。
- イラクのUNSCOMに対する報告には食い違いがあり、フセインは射程距離650から900キロメートルのスカッド改良型近距離弾道ミサイルを数十機隠し持っていると見られる。
- イラクは、新型のアルサムードおよびアバビル100近距離弾道ミサイルを配備しており、それらは国連により認められた射程距離150キロメートルを超える。
- イラクの無人飛行機が、化学・生物兵器の運搬に使用された場合には、イラクの近隣諸国、ペルシャ湾に展開する米軍、そしてそれが米国本土の近くあるいは米国内に持ち込まれた場合には、米国にとっての脅威となる。
- イラクは、中距離弾道ミサイルの開発を進めており、ミサイル施設建設の多くを外国の支援に頼っている。
1991年4月、国連安全保障理事会は、イラクに対し国連または国際原子力機関(IAEA)の監視の下に大量破壊兵器と生産インフラを申告、破棄、または無害化することを義務付ける決議687を採択した。国連安保理決議687はまた、イラクが大量破壊兵器の将来における開発または調達を行わないことを求めた。
イラク政府の相当量残っている大量破壊兵器の兵器・物質・機器・技術をかたくなに保持しようとする態度が、長年にわたる隠ぺいと国連査察への妨害につながった。イラクの精鋭治安当局は、同国の大量破壊兵器計画に関する重要な問題の解決を阻んだ証拠書類・資材を隠ぺいしようと大規模な工作を画策した。
- イラクによる妨害を受け、安全保障理事会は、イラク政府に対し査察に協力する義務と、UNSCOMとIAEAの当局者が査察を望むすべての場所への即時・無制限のアクセスを認める義務の履行を求める決議を採択した。
- 表面的には協力の姿勢を見せながら、イラク当局は、イラクの大量破壊兵器計画に関する重要情報の隠ぺいを図ろうと、施設・人員・文書へのアクセスをしばしば拒否したり大幅に遅延させた。
イラク政府の湾岸戦争前の大量破壊兵器計画に関するイラク側による一連の報告は、1991年から1998年の間に次第に正確さを増してきたが、これは、国連制裁、連合軍の軍事力、そして協力国からの情報に基づく精力的で確固たる査察による継続的な圧力の結果である。にもかかわらず、イラクは、その申告にみられる大きな食い違いや矛盾について十分な説明をしたことがなく、イラクの兵器備蓄と生産インフラの完全廃棄を信じるに足る証拠を出してはいない。
- UNSCOMの査察活動と連合軍による攻撃により、禁止されている弾道ミサイルと湾岸戦争時の化学・生物兵器の大半が破壊された。しかし、イラクは、小規模戦力ながら射程距離を長くしたスカッド改良型ミサイル、化学(兵器用)先駆物質、生物(兵器用)の種、そして化学・生物兵器に使用することができる数千発の弾薬をいまだに保有している。
- イラクは、大量破壊兵器製造に必要なインフラ・専門技術を保持し,また中には強化したものもあり、さらに、その能力を利用して、大量破壊兵器の備蓄を維持し、分野によってはその規模を拡大し性能を高めてきた。
決議事項 | 現実 |
決議687(1991年4月3日) すべての化学・生物兵器、射程距離150kmを超えるすべての弾道ミサイル、そして核兵器に使用可能な関連資材・機器・施設を含むすべての資材を国連またはIAEAの監視の下に申告、廃棄、撤去、無害化し、かつ使用、開発、製造または調達しないことをイラクに義務付ける。また、この決議は、特別委員会を設け、イラクの申告およびUNSCOMの追加施設の指定に基づき大量破壊兵器関連施設の即時現場査察を行う権限をIAEAに付与した。 | イラク政府は、各大量破壊兵器計画のあらゆる部分の申告を拒み、査察官を拒否し、積極的に欺く活動の一環として数々の報告を提出し、計画の特定要素を隠した。射程距離150kmを超える運搬プラットフォームの開発禁止は、イラク政府に近距離システムの長距離システムへの応用を研究・開発させることになり、また通常の航空機を無人機に改造して150kmをはるかに超える射程の大量破壊兵器運搬システムとして利用しようとするイラクの活動に影響を与えなかった。 |
決議707(1991年8月15日) イラクに、国連・IAEA査察官が求めるあらゆる施設への即時・無制限アクセスの認可を義務付ける。大量破壊兵器計画のあらゆる側面について全面的・最終的・完全な情報を開示し、大量破壊兵器関連資材・機器の隠ぺい・移動・破壊の企図を即時停止し、UNSCOMやIAEAのチームにイラク全土での固定翼機・ヘリコプターによる飛行を認め、UNSCOMの質問・要求に全面的・完全・即時に回答することを求める。 | 1996年、イラク政府は、UNSCOMのエケウス委員長と、査察を遅らせ、イラク政府が「機密」と申告した場所への査察官の立ち入りを4人に制限し、主権があるとみなされる場所への査察官の立ち入りを禁止するのに使った方法について交渉した。これらの方法で、イラクは個々の査察に影響を及ぼした。その後、イラクはこうした施設に立ち入る査察官の増員を認めたが、それも各施設で長い交渉をした末であった。 |
決議715(1991年10月11日) イラクに対し、その大量破壊兵器計画をUNSCOMとIAEAによる長期監視の対象とすることを義務付ける。国連安保理決議687および707が求める長期監視についての詳細な計画を承認。 | イラクは、おおむね申告施設での国連監視を受け入れたが、立ち入りの妨害や監視カメラを操作することがあった。現行の国連決議は、イラクの大量破壊兵器計画に対するUNSCOMとIAEAの監視に、期限を設けていない。 |
決議1051(1996年3月27日) イラクの輸出入を監視するシステムが設けられ、国連加盟国に対しては大量破壊兵器製造に利用可能な資材のイラクへの輸出に関する情報のIAEAとUNSCOMへの提供を、イラクに対しては軍民両用品目の輸入に関する報告を義務付けた。 | イラクは、大量破壊兵器に利用可能な軍民両用品目を、国連管理の外で購入する契約交渉をしている。国連には、イラク国境で貨物を徹底的に検査し、イラク国内で輸入品を監視するのに必要なスタッフが不足している。 |
決議1060(1996年6月12日)および決議1115、1134、1137、1154、1194、1205 イラクのUNSCOMへの協力と、査察団に対する査察対象の施設への即時・無条件・無制限アクセスとイラク当局職員を聞き取り調査するためのアクセスの認可を要求。国連安保理決議1137は、国籍を理由にUNSCOM職員のイラクへの入国を拒否し、国連偵察機の安全を脅かすイラク政府を非難。 | 査察プロセス全体を通じ、イラク政府は、多数の施設へのアクセスを妨害し、同国内のUNSCOMの活動を執拗に妨害・制限しようとした。また、しばしば、査察官の到着前に施設の清掃をしたり、査察官が要求した施設や人物へのアクセスをいつも拒否しようとした。時には、その後のことをおそれて順守を約束することもあったが、その約束も後でほごにした。 |
決議1154(1998年3月2日) UNSCOMとIAEAの査察をイラクが順守するよう要求し、順守しない場合は「最も厳しい結果」を規定している国連事務総長のイラクとの覚書を確認。 決議1194(1998年9月9日) UNSCOM・IAEAとの協力を中断するというイラクの決定を非難。 決議1205(1998年11月5日) UNSCOMへの協力を中止するというイラクの決定を非難。 |
UNSCOMは、イラクの順守なしにその権限を行使できない。イラク政府は、UNSCOMへの協力を拒否し、イラクの要望に同情的だと思っていた事務総長と交渉した。 |
決議1284(1999年12月17日) 国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)をUNSCOMに代わり設置。イラクに対しUNMOVICチームによるイラクの大量破壊兵器計画のすべての側面に対する即時・無条件・無制限アクセスを要求。 | イラクは、再三にわたり国連兵器査察官の再入国を拒み、既に武装解除に関する国連決議をすべて満たしていると主張。UNSCOMと比較すると、決議1284がUNMOVIC委員長に与えた権限はより小さいものであり、主要な武装解除作業を定める上で安全保障理事会により大きな役割を与え、また査察官が国連常勤職員であることを義務付けている。 |
イラク政府は1998年12月以降、、安保理決議が要求している国連査察官のイラクへの入国を拒否してきた。イラクにおける大量破壊兵器・ミサイル施設として知られている施設、または疑いのある施設に国連が設置した技術的監視システムは、もはや作動していない。イラク政府は、安保理が指示した国連航空機・ヘリコプターによるイラク施設の上空監視を禁止している。同様に、イラクはIAEA査察の大半を1998年以降縮小しており、イラクの酸化ウラン備蓄を守るために年間のIAEAの立ち入りをごく少数の施設に限定している。
査察官不在の間に、イラク政府は、発見されるリスクを犯すことなく、禁止されている計画に取り組む力を大幅に強めており、イラクが禁止されている計画を再構築しているという確かな証拠もある。イラク政府による懸命な隠ぺい工作は、イラクの大量破壊兵器計画の多くの側面に関する具体的な情報を今後も追い求めていく必要があることを意味している。湾岸戦争後明らかにされた実態は、イラクが行った広範囲の情報隠ぺい工作を物語っている。
- 1998年以降の活動に関する限られた範囲の観察でも、イラク政府が国連査察官の不在に乗じて軍民両用施設とミサイル開発専用施設を修復・拡大し、大量破壊兵器製造能力を増強してきたことは明らかである。
10年以上にわたる国連制裁とIAEAの監視下で、イラクは目に見える核インフラの多くを放棄させられたにもかかわらず、フセインの核兵器獲得・開発への意欲は消えていない。
- イラクが、禁止されている硬化アルミニウム管多数を入手しようとしており、強く懸念される。イラクが核兵器を追及しており、これらの管は遠心分離濃縮計画に使用できるという点で、情報専門家の見解は一致している。情報専門家の大半が、これが管の利用目的であると判断しているが、中には、これらを通常兵器計画用であると考える専門家もいる。
湾岸戦争前に、イラクは、高濃度の濃縮ウランを用いる爆縮型兵器の製造に重点を置いた高度な核兵器開発計画を持っていた。イラク政府は、各種のウラン濃縮技術を試みていたが、最も成功したのは、電磁アイソトープ分離法(EMIS)とガス遠心分離法だった。クウェート侵攻後、イラクは、ソ連やフランスから供給された原子炉から得られた、IAEAの保障措置下にある高濃度濃縮ウランを転用する速成計画に着手したが、多国籍軍との戦争が始まったため、同計画は頓挫した。イラク側の申告とUNSCOM・IAEA査察により、イラクによる核兵器計画の多くが明るみになったが、イラク政府は依然として、核兵器開発計画の全容を明らかにしていない。
- イラクは、核計画に関する重要な情報の詳細を開示していない。これらの情報には、調達記録、技術文書、実験データ、物資の使用用途・所在に関する報告、外国からの支援が含まれる。
- イラク政府はまたそれら以外、例えば濃縮技術、海外での調達、兵器設計、イラクの核施設・活動の隠ぺい工作に関わった治安当局の役割などに関するデータも開示していない。
- イラク政府は、近年、原油・食糧交換計画のもとで契約した物資を軍事目的に転用しており、また同交換計画の枠外で石油売却を持ち掛けたり、軍事・民生両用の物資調達を増大させてきた。中には、禁止されている大量破壊兵器などの兵器計画に向けられていることがほぼ確実なものもある。イラク政府は、原油の不法売却で得た収入の一部を大量破壊兵器開発のために使用していると思われる。
IAEAはイラクを離れるに当たり、同国の核兵器計画解体に向け、またイラクの過去の核開発活動の特性や規模を明らかにする上で大きな成果を挙げた。しかし、査察官が不在の間に、イラクは核計画を再構築し、IAEAが苦労して積み上げた成果を無にしている、と大方のアナリストは判断している。
イラクは、中心となる核科学者や技術者、計画文書、そして再構築された核兵器計画を続けるのに十分な軍民両用の製造能力を維持している。イラクのメディアは過去2年間、フセイン大統領と核科学者との間でたびたび会合が持たれたことを報じており、これは、イラク政府が引き続き核計画の再開に関心を持っていること示している。
イラクが外国との貿易を拡大しているため、核関連技術・物資へのアクセスが増えており、また海外の核専門技術へのアクセスも増えるうる。近年、軍民両用物資の調達活動が盛んになっているのは、再構築された核兵器が稼動している可能性を示している。
- イラクの核兵器開発における最大の課題は、十分な量の核分裂物質を入手することである。
- イラクが今後5年間に、運搬可能な核兵器用に十分な材料を国内生産する可能性は低い。イラク政府が、兵器用核分裂物質を海外調達することができれば、核兵器を1年以内に製造することはあり得る。
イラク政府が、核兵器製造に要する時間を大幅に短縮できるウラン濃縮能力を既に獲得した可能性がある。
イラクが公表した核施設▼
イラクは、おそらくいくつかの前駆物質を外部からの供給源に頼らなければならないが、化学兵器を自国で製造する能力を保持している。イラク政府は、民需生産の名の下、化学兵器製造能力の向上のためのインフラを拡大している。フセインは1980年代には、大量の化学兵器を製造する能力を有しており、これをイラン人とイラク国内のクルド人に対し使用した。イラク軍は、空襲用爆弾、122ミリ砲、大砲により、クルド人地域の戦術目標や居住地に向け化学兵器(マスタードガス【注1】や神経ガスであるサリンとタブン【注2】を含む)による攻撃を繰り返し、2万人を超える人々を殺傷した。イラクは、1991年の湾岸戦争以前には大量の化学兵器を保持しており、またそれら兵器を自国で生産する能力を保有していた。
報告されているイラクの化学兵器使用 | ||||
時期 | 地域 | 物質 | 死傷者概数 | 目標 |
1983年8月 | ハジウムラン | マスタードガス | 100人以下 | イラン人、クルド人 |
1983年10・11月 | パンジウィン | マスタードガス | 3000人 | イラン人、クルド人 |
1984年2・3月 | マジヌーンアイランド | マスタードガス | 2500人 | イラン人 |
1984年3月 | アルバスラー | タブン | 50-100人 | イラン人 |
1985年3月 | ハウィザーマーシュ | マスタードガス、タブン | 3000人 | イラン人 |
1986年2月 | アルファウ | マスタードガス、タブン | 8000-10000人 | イラン人 |
1986年12月 | ウムアラサス | マスタードガス | 数千人 | イラン人 |
1987年4月 | アルバスラー | マスタードガス、タブン | 5000人 | イラン人 |
1987年10月 | スマール、メーラン | マスタードガス、神経ガス | 3000人 | イラン人 |
1988年3月 | ハラブジャー | マスタードガス、神経ガス | 数百人 | イラン人、クルド人 |
イラクが公表した化学兵器▼
正確な情報が不足しているが、人権団体がクルド人から得た信頼性の高い説明によると、イラクは1987年から1988年の期間、1988年10月の数回の攻撃を1番最近のものとして、イランとトルコの国境近くで民間人に対し化学兵器を使用した。
- UNSCOMの監視の下、4万発を超える化学兵器、約50万リットルの化学物質、180万リットルの化学前駆物質、および弾道ミサイルを含む各種の運搬システムが破棄された。
湾岸戦争後10年以上が経過した現在、兵器製造能力に関するイラクの報告と実際の能力との間の違いは、イラクが化学兵器、VX(注3)、サリン、サイクロサリン(注4)、およびマスタードガスなどの化学兵器を保有していることを強く示唆している。
- イラクは、前駆物質、製造機器、書類その他、化学兵器製造を継続するために必要な物資を隠匿していると思われる。イラク政府はこれまで、すべての化学兵器を廃棄したという主張を裏付ける適切な証拠を提示したことがない。数千トンの化学前駆物質や、スカッド改良型ミサイル弾頭を含む数万の未充てん兵器についての説明もされていない。
- UNSCOMが1998年にイラク空軍本部で発見した文書は、イラクが、イラン・イラク戦争で使用した化学爆弾の数について少なくとも6000発も多く国連に報告していたことを示しており、この水増し報告された分の爆弾については説明がされていない。
- イラクは、1万5000のロケット砲を保有しており、それについての説明を怠っている。ロケット砲は過去には神経ガス運搬の手段として多用されていた。さらに、マスタードガスを充てんした550発の砲弾に関する説明も行っていない。
- イラクは、少なくとも100トン、可能性としては500トンもの化学兵器を保持していると思われる。
イラク政府は、化学兵器生産に即座に転換できる軍民両用インフラの再建や拡大を継続している。最も良い例が、ファルジャーII施設の塩素・フェノール工場である。塩素やフェノールは民需品として正当に認められてはいるものの、発疱・神経ガスの製造に使われる化学前駆物質合成の原料にもなる。イラクには、これ以外にも民需品生産に必要とされる以上の能力を有する3つの塩素工場がある。これらの工場での生産に輸入分を加えると、イラクにおける水処理の需要には十分過ぎる量になる。1997年以降、国連の原油・食料交換計画の下で輸入された1500万キログラムの塩素のうち、イラク政府が使用したのは1000万キロのみで、500万キロは貯蔵されている。これは、国内で生産された塩素の中には、化学兵器製造のような禁止された活動に転用されたものがあることを示している。
- ファルジャーIIは、湾岸戦争前のイラクの主要な化学兵器前駆物質製造施設のひとつであった。過去2年間、イラクはこの施設を改良し、新たな化学反応器運搬船と大量の製造機器の入った輸送コンテナを持ち込んだ。イラクは、湾岸戦争前をはるかに越える水準まで塩素の生産能力を向上させたが、これは、化学兵器製造に即座に転換することができる。イラクは、化学兵器前駆物質と適用可能な製造機器の購入を求めており、ファルジャー工場の活動を隠ぺいしようとしている。
ファルジャーIIの塩素・フェノール工場▼
化学兵器関連製造施設および砂漠の嵐作戦時に配備されたアルコール・化学物質充てん兵器の公表されたサイト▼
イラクには、正当なワクチン・バイオ農薬工場を素早く生物兵器製造に転換する能力があり、すでに転換をした可能性もある。この能力は、イラクに、生物兵器活動を隠ぺいし、攻撃的な生物兵器計画の存在について偽ってきた過去があることを考慮すると、特に厄介な問題である。
4年にわたりイラクは「小規模で防衛的」な研究を行っただけであると主張した後に、イラク当局は、1995年についに、査察官に対して生物物質の製造と兵器化を認めた。イラクがこのことを認めたのは、イラクが大量の培養基を購入した証拠を突きつけられ、イラクの軍事産業の幹部のフセイン・カミル氏が亡命した後のことである。
ムラサナ飛行場においてUNSCOM査察官が撮影した2個のR-400A爆弾▼
イラクが公表した生物兵器関連サイト▼
イラクが認めた生物兵器の屋外実験 | ||
場所・時期 | 物質 | 兵器 |
アルムハマディヤト・1988年3月 | 枯草(こそう)菌 (注5) | 250番径爆弾(容量65リットル) |
アルムハマディヤト・1988年3月 | ボツリヌス毒素 | 250番径爆弾(容量65リットル) |
アルムハマディヤト・1989年11月 | 枯草菌 | 122ミリロケット(容量8リットル) |
アルムハマディヤト・1989年11月 | ボツリヌス毒素 | 122ミリロケット(容量8リットル) |
アルムハマディヤト・1989年11月 | アフラトキシン | 122ミリロケット(容量8リットル) |
カーンバニサード・1988年8月 | 枯草菌 | 煙霧発生器:改造農業用散布器搭載Mi-2ヘリコプター |
アルムハマディヤト・1989年12月 | 枯草菌 | R-400 爆弾(容量85リットル) |
アルムハマディヤト・1989年11月 | ボツリヌス毒素 | R-400 爆弾(容量85リットル) |
アルムハマディヤト・1989年11月 | アフラトキシン | R-400 爆弾(容量85リットル) |
ジャーフアルサクル射撃練習場・1989年9月 | リシン | 155ミリ砲弾(容量3リットル) |
アブオベイディ飛行場・1990年12月 | 水 | 改造型ミラージュF1投下タンク(容量2200リットル) |
アブオベイディ飛行場・1990年12月 | 水・過マンガン酸カリ | 改造型ミラージュF1投下タンク(容量2200リットル) |
アブオベイディ飛行場・1991年1月 | 水・グリセリン | 改造型ミラージュF1投下タンク(容量2200リットル) |
アブオベイディ飛行場・1991年1月 | 枯草菌・グリセリン | 改造型ミラージュF1投下タンク(容量2200リットル) |
- イラクは湾岸戦争前に、数千リットルの化学兵器、炭疽(たんそ)菌、(注6)ボツリヌス毒素(呼吸筋を麻痺させて、24−36時間以内に死亡する可能性がある)、そしてアフラトキシン(肝臓に対する発がん物質で、摂取後数年で死亡する可能性がある)を製造し、また、生物兵器を充てんしたスカッド改良型ミサイルの弾頭、空襲用爆弾、航空機散布タンクを準備していたことを認めた。
イラク政府は、イラクが生物兵器を一方的に廃棄したとの主張の納得できる証拠を提示していない。UNSCOMの専門家は、イラクが生物兵器の製造を極めて過少に報告したと見ており、実際には製造を認めた兵器の量の2−4倍の製造を行ったと推定している。これには、炭疽病を引き起こす炭疽菌とボツリヌス毒素が含まれる。
生物兵器に直接関連する多数の「民間」と称する施設の改善または拡張は、イラクの攻撃的生物兵器計画の主要部分は活動を続けており、その要素の大半が湾岸戦争(1990−1991年)前よりも高度化し、規模も拡大していることを示している。
- アルダウラーの口蹄(こうてい)疫ワクチン施設は、イラクでは周知の2つある大規模な空気処理・ろ過システムを有する生物学的封じ込めレベル3施設の1つである。イラクは、アルダウラーが湾岸戦争前には生物兵器製造施設であったことを認めている。UNSCOMは、1996年に生物兵器製造の無力化を試みたが、以前の生物兵器作業との関連を証明できなかったために、いくつかの製造機器を残したままにした。2001年に、イラクは、口蹄疫の発生を防ぐためにワクチンを製造するという名目で、国連の承認なしに工場修復の開始を発表した。実際には、イラクは、必要な口蹄疫ワクチンをすべて国連を通じて容易に輸入することができるのである。
- アミリヤーの血清・ワクチン研究所は、生物兵器の研究・実験・製造・貯蔵の理想的な隠し場所である。国連査察官は、この施設における生物兵器研究に関連する文書を発見した。それには、湾岸戦争時に生物兵器の培養菌・物質・機器が同研究所に貯蔵されていたことが記されていた。特に懸念されるのは、工場の新たな貯蔵能力が、イラクが必要とする正当な医療備蓄を大幅に超えていることである。
- ファルジャーIII ヒマシ油製造工場は、イラクの化学兵器計画に歴史的なかかわりのある大規模な総合施設の中にある。直接の生物兵器に関する懸念は、リシン毒素製造の可能性である。(注7)ヒマシ油製造の際に残るヒマの種子のパルプは、リシン毒素の抽出に使用できる。イラクは、UNSCOMに対して湾岸戦争前のリシンの製造とリシンの砲弾による野外実験を認めた。イラクは、国連査察官がイラクを離れた1998年以前は、UNSCOMの監視の下に、この工場を正当な目的のために操業していた。1999年以後に、イラクは、砂漠のキツネ作戦で破壊された主要構造物を再建した。イラク当局は、ブレーキオイルに使うヒマシ油を作っていると主張している。しかし、国連査察なしにこのような主張を確認することは不可能である。
ファルジャーIIIのヒマシ油抽出工場▼
既知の施設での活動に関する疑問に加えて、他の場所、また移動製造施設・研究所における生物兵器活動に関して懸念せざるを得ない重大な理由がある。イラク政府は、生物兵器計画をよりうまく隠ぺいするために移動生物兵器研究・製造能力を求めている。
- UNSCOMは、イラクが移動発酵装置の開発に関心があることを記したイラク軍事産業委員会のレターヘッドが付いた文書を発見した。さらに、イラクの科学者は、国連査察官に対して、イラクが移動生物兵器製造に向けて動こうとしていることを認めた。
- イラクは今や、大規模、過剰かつ隠ぺいされた移動生物兵器施設を基本とした生物兵器製造能力を確立した。
イラクは、国連安保理決議687で定められた射程距離制限150キロを上回る弾道ミサイル能力を開発した。イラクは1980年代、ソ連から射程距離300キロのスカッドBミサイル819基を購入した。このうち数百基が、イラン・イラク戦争の際にイランの都市攻撃に使用された。イラクは1987年以降、これらソ連製スカッドミサイルの多くに射程距離を延ばすための改良を加えた後、そのいくつかをテヘランに向け発射した。また、中には湾岸戦争でも使用されたものもあり、残りは、戦争終了時に備蓄として残された。イラクは、少なくとも75基のスカッドミサイルの弾頭に化学・生物兵器を装てんしたことを認め、1991年に多国籍軍やイスラエルなどの近隣の敵国に対して使用するため配備した。
サダムフセインが、湾岸戦争時にイスラエル、サウジアラビア、バーレーンに向けて発射した約90基のスカッドミサイルの大半が、アルフセイン改良型ミサイルである。これは、イラクが全長を伸ばし、搭載燃料の容量を増やし、射程距離を650キロに延伸する改造を施したものである。
イラク政府はスカッド技術を応用し、射程距離900キロのアルアバスを含め他の長距離ミサイルを開発していた。イラクは、後継基として、射程距離3000キロを目指した多段・多弾頭型中距離弾道ミサイル構想を描いていた。イラクはまた、射程距離が750キロから1000キロと推定されるバドル2000とよばれる固体燃料推進型2段ミサイルの開発計画を持っていた。
イラクの弾道ミサイル▼
- イラクはこれまで、自国の既存ミサイル計画を完全に説明していない。イラク政府の申告に矛盾があるのは、イラクが小規模の射程距離延伸型スカッドミサイルと不特定数の発射装置や弾頭を保有していることを示している。さらに、イラクは、国内では生産ができないが、開発計画には不可欠な、誘導・管制システムなどミサイルを構成する高度な部品の処分について一切説明していない。
イラクは、国連が認めている射程距離150キロ以下の短距離弾道ミサイルの開発を続けている。これは、射程距離の長いミサイルシステムの生産に必要な技術やインフラの開発・整備に資することになる。しかし、アル・サムード液体燃料推進型短距離弾道ミサイルとアバビル100固定燃料推進型短距離弾道ミサイルは、国連に認められた射程距離150キロを越える飛行能力を持つ。いずれのミサイルについても、実験が積極的に行われ、配備が間近である。これ以外にも、イラクが射程距離のより長いミサイル生産のためにミサイルの実験・生産施設の改良をしていることを強く示す証拠がある。
- 北アルラファ液体燃料推進エンジン研究・開発・実験・評価(RDT&E)施設は、イラクにおける液体燃料推進ミサイルエンジンの静止実験用の主要施設である。イラク政府はここに、アルサムード型エンジン実験に関連する実験台や廃止されたスカッド型エンジン実験台よりも大きな実験台を新たに建設してきた。この実験施設に関して唯一あり得る説明は、イラクが、国連安保理決議687で禁止されている射程距離の、より長いミサイルのエンジン実験を意図しているということである。
SA-2(アルサムード)エンジン試験▼
弾頭ミサイル関連施設▼
アルマムーン固体燃料エンジン製造工場▼
- 以前はイラクのバドル2000固体燃料ミサイル計画に関連していたアルムタシム固体燃料ロケットエンジン実験施設は、近年改造・拡張された。この施設は、国連が認めたアバビル100固体燃料推進エンジンの組み立て・補修・実験を支援している。しかし、施設の特定の建物、特に組立補修棟と静止実験棟の間に新たに建設された建物の規模は、イラク政府が、国連が禁止するシステムの開発を進めていることを示唆している。
- イラクは、1998年12月に国連査察官がイラクを離れて以降、アルマムーン固体燃料ロケットエンジン製造工場とRDT&E施設において、湾岸戦争で破壊され、UNSCOMが解体した建物を再建してきた。この建物は当初、バドル2000計画用の固体燃料推進エンジンを製造する施設であった。イラクはまた、新たな建物を建設し、さらに、当初は大型のバドル2000エンジンケーシングに固体燃料を充てんすることを目的に造られた建物を再建している。
- イラクはさらに、アルマムーンにおいて、バドル2000ミサイル用固体燃料を「混合する」ために使用する2つの構造物を再建した。当初の建物とほぼ同じ大きさの新しい建物は、国連が禁止している大型ミキサーの収容に適するものである。現に、これらの建物の規模・構成を論理的に説明できる唯一のシナリオは、イラクが、より射程距離の長い禁止されているミサイルの開発を意図しているということである。
イラクは、国連の制裁下にありながら、ミサイル開発に関わるインフラ整備を再構築・拡大してきた。イラクの代理人らは、武器禁輸に違反する形で、生産技術、工作機械、原料を求めてきた。
- イラクは、固体燃料推進ミサイル計画を支える過塩素酸アンモニウムの製造工場を、新たにマムーンに完成させた。過塩素酸アンモニウムは、固体燃料推進ミサイルエンジンに通常使用される酸化剤である。海外からの支援がなければ、イラク政府は、この施設を完成させることはできなかっただろう。
- イラクは1995年8月に、当初はロシアの潜水艦発射型戦略核ミサイルに使用されていたジャイロスコープを含め、弾道ミサイル誘導装置として使用される精密部品を調達しようとしているところを発見された。このことは、イラク政府が、禁止されている長距離ミサイルに関わる先端技術を長期にわたり追い求めてきたことを示している。イラク当局者は、国際的に禁止されているにもかかわらず、同様の貨物を同年初めに受け取っていたことを認めた。
イラクは、多くの専門家がおそらく生物兵器運搬のためであろうと考えているその他の運搬形態の開発を継続している。湾岸戦争の直前に、イラク政府は、ミグ21を化学・生物兵器の散布ができる散布タンクを運ぶための無人機に改造することを試みた。UNSCOMは、散布システム開発計画は成功したものの、ミグ21の改造は成功しなかったと見ている。最近になって、イラク政府は、イラクのL29ジェット訓練機を無人機に改造する試みをしている。これは、以前のミグ21改造計画の継続と見られるもので、化学・生物兵器散布タンクに適合し得るものである。運搬形態としては弾道ミサイルよりも性能は低いものの、航空機は、有人であれ無人であれ、化学・生物兵器を遠距離かつ広範な地域に散布するための最も効率の高い手段である。
- イラクは既に、生物・化学兵器を効果的に散布できる改良型投下タンクを製造している。湾岸戦争前、イラクは、2000リットルの炭疽菌類似物を標的地域に放出する能力のある航空機搭載散布タンクの実験に成功した。イラクは、商用農薬散布機の改造にも成功しており、この炭疽菌類似物を充てんした散布機のヘリコプターによる実験を行っている。
サメライースト航空基地におけるイラクのL-29無人機テストベッド機▼
- イラク政府には、各種の無人運搬形態を実験してきた歴史がある。イラクが、より新型でより高性能の航空機を使うことにより、距離と積載量が増やす一方で、より小型のプラットフォームの使用により探知を困難にし、生き残る可能性も高くしている。このような能力は、イラクの近隣諸国と地域の国際軍にとり深刻な脅威になる。
- イラクは、イラン・イラク戦争時に、爆弾やロケットに充てんした化学兵器を運搬するために戦略戦闘機とヘリコプターを使用した。イラク政府が、作戦計画によっては運搬形態として有人航空機を使用することを再検討している可能性がある。
イラクは、国連制裁枠の内外での調達を通じて、軍民両用、大量破壊兵器関連機器・資材の輸入を行うことができた。イラク政府は、人道支援の目的で毎年イラクに入ってくる100億ドル相当の物資の一部を軍事・大量破壊兵器計画に転用している。イラクの原油密売の手腕が上がるにつれ、イラク政府の大量破壊兵器計画への資金調達力が強化されている。過去4年間に、イラク政府の原油密売による収入は4倍以上に増え、今年は約30億ドルに達している。
ミラージュF-1搭載の改良型投下タンクからの化学兵器散布実験▼
- イラク国境における国連監視は、原油・食料交換計画の枠外で毎年イラクに入る数億ドルにのぼる貨物の検査を行ってはいない。これらの貨物の一部が、イラクの軍事・大量破壊兵器計画を支援するためのものであることは明らかである。例えば、イラク政府は、国連援助の枠外で光ファイバー通信システムをイラク軍支援のために輸入している。
- イラクは、いかなる形態の国際査察をも受けることなく、飛行機・列車・トラック・船舶を用いて、国連安保理決議に反する輸入を行っている。
国連が認めている原油・食料交換計画の枠内においてさえも、イラクは、軍事および大量破壊兵器関連品目の購入の意向を隠してはいない。例えば、イラク政府は、民間支援のためにだけに承認されたにもかかわらず、国連承認のトラックを軍用に、建設機器を大量破壊兵器関連施設の修復に転用した。
- イラクは、以前、大量破壊兵器やミサイルの構成部品の製造に使われていた近代的産業用工作機械の補修を行うことが可能であった。さらに、イラクは、非通常兵器再生に使用される可能性のある工作機械を新たに輸入してきた。
- イラクは、中性子発生装置やサーボバルブなど、国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)が、禁じられているイラクの計画の要であると見ている物品を購入したい旨を何度か表してきた。しかし、代替の非軍民両用品目で、この機器の目的と称される民需目的を満たすことはできるのである。
UNMOVICは、1999年12月の国連安保理決議1284に従って、契約の適正審査を開始した。それ以後、UNMOVICは、国連安保理決議1051により大量破壊兵器計画に転用可能であると定義された軍民両用物資を含む100を超える契約を特定した。UNMOVICはまた、軍民両用機器の悪用を憂慮して、これ以外にも数百にのぼる物資に関する技術情報の提供を納入業者に求めた。大量破壊兵器に使用できない物資に容易に代替できる時には、イラクが、申告している商用目的の要件を明らかに超えている技術を要求することが多々あった。
- 国連との契約の中には、要求物資は、過去に産業と大量破壊兵器計画の双方を支えるために使用されたアルカイムのリン酸塩工場やファルジャーなどの施設の修復が目的であると、イラク政府が主張したものがある。
(注1)マスタードガスは、浴びてから数時間以内に、皮膚・目・肺・粘膜に火ぶくれや火傷(やけど)の症状を引き起こす発疱(はっぽう)物質である。症状が数日もの間続くことがある、残留性のある物質である。
(注2)サリン・シクロサリン・タブンは、皮膚や呼吸を通して吸入後数秒以内に作用するGシリーズの神経性ガスである。この神経性ガスは、神経から伝達された信号で筋肉や腺に過剰な刺激を与え、けいれんを引き起こしたり、意識を失わせたりする。タブンは残留性があり、数日間も症状が続く。サリンとシクロサリンは、残留性はなく、皮膚障害よりも呼吸障害を引き起こす。
(注3)VXは、Gシリーズ神経性ガスと類似しているが、より高度なVシリーズ神経性ガスである。VXが与える人体への影響は、同様ではあるものの毒性がより強く、より残留性が強い。したがって、VXは、Gシリーズガスよりもはるかに強い皮膚障害を引き起こす。VXは、地域を長期間汚染させるために使用することができる。
(注4)注5を参照。
(注5)草菌は、炭疽菌の類似物として通常使われる。
(注6)炭疽菌の感染必要量は、免疫障害をもっていない者に対しては約8000胞子、または100万分の1グラム以下である。従来は、炭疽菌を吸入すると、5日から7日の間に確実に死亡していた。しかし、最近の例では、積極的な治療により、死亡率が低下している。
(注7)リシンは、吸入後1日か2日で多臓器障害を引き起こす。