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【社説】

対印核輸出 歯止め外した米の愚行

2008年9月11日

 原子力供給国グループが、核実験を強行したインドへの核燃料輸出などを解禁した。米国が主導した措置で、核拡散防止条約(NPT)の空洞化にもつながる愚かな行為といわざるを得ない。

 日本など四十五カ国の原子力供給国グループは、核兵器製造につながる核燃料や核関連技術、資材の輸出を規制・管理するもので、国際原子力機関とともに、NPT体制を支える重要な機構だ。

 NPTは未加盟国との核関連取引をしないのが鉄則だ。供給国グループは臨時総会で、NPT未加盟のインドを「例外」扱いとし、インドの民生用原子力施設への支援を全会一致で承認した。インドが核実験の凍結継続と供給国グループのガイドライン(指針)尊重を表明したことが承認理由だ。

 しかし、インドが核兵器を放棄して核実験を再開しないとの保証はどこにもない。

 ブッシュ米政権は、インドでの原子力ビジネスの拡大などを狙い任期中の米印原子力協定の発効を図ってきた。今回、対印輸出解禁に慎重な国々に対して積極攻勢をかけ、強引に押し切った。

 原子力供給国グループは、一九七四年のインドの核実験をきっかけに、米国の強い働きかけで結成された。ブッシュ政権は歴代政権の方針に逆行し、核不拡散の歯止めを自らの手で外してしまった。

 日本政府も、「核廃絶」という国民の悲願とは裏腹に、ブッシュ政権に追随した。

 国際原子力機関と供給国グループが核不拡散の責務を果たし得ない状況で、米議会での米印協定の審議に焦点が移る。

 キッシンジャー元米国務長官らは、米紙への寄稿で、核兵器の完全廃棄に向けての政策展開を呼びかけた。かつての米政府首脳の主張は米国社会での変化の兆しと受け止められている。米議会が良識を示すよう期待したい。

 今回の対印解禁措置で、北朝鮮やイランの核開発活動を中止させる根拠を失う恐れがある。核兵器をもつパキスタンもインドと同様の扱いを要求している。

 危険は、国家による核開発ばかりでない。十一日で、米中枢同時テロから七年となる。国際テロ組織などが「核の闇市場」を通じて核兵器や関連資材などの入手に動いてきたことが、各国の情報で判明している。

 二〇一〇年のNPT再検討会議に向け、この条約の原点に立ち戻ることが緊要だ。

 

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