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【主張】総裁選告示 閉塞状況やぶる論争を 消費税に正面から向き合え
5人が立候補した自民党総裁選では、日本が抱える内政外交の懸案をいかに解決するかという骨太で真摯(しんし)な政策論争を求めたい。
これまで自民党が避けてきた官僚組織の歪(ゆが)みの是正、国際共同行動への具体的参加や消費税などを、どう取り扱うかを明快に語るべきだ。こうした問題を棚上げにしてきたことが日本に閉塞(へいそく)状況をもたらす要因にもなっている。
党内では政策より勝ち馬に乗ろうという動きが見え隠れしている。候補者の中にも支持を広げるために政策をあいまいにする傾向が出ている。派閥維持や損得勘定を優先するような総裁選では国民の信を取り戻すことはできない。自民党が存亡の時を迎えているという危機感を持ち、国家観に基づいた政策を語るべきだ。
立候補者は石原伸晃元政調会長、小池百合子元防衛相、麻生太郎幹事長、石破茂前防衛相、与謝野馨経済財政担当相の5氏だ。昭和45年の総裁選以来の人数で、女性は初めてだ。自民党を立て直そうという意欲は評価したい。新総裁は、総選挙で小沢一郎民主党代表と首相の座を争う。日本丸のかじ取りを任せるに足る総裁選びでなくてはなるまい。
≪ばらまき競争に陥るな≫
総裁選で争点になった経済政策は、経済社会が置かれた現状と将来を展望すると、2点に集約される。一つは急激に進展する人口減・少子高齢化の中で社会保障制度と財政をどう持続可能にするか。もう一つは資源インフレによる新しい価格体系にどう対応していくかである。総裁選の顔ぶれも、そうした議論を展開しうる人材がそろったといえよう。
麻生氏は景気を重視した積極財政派だ。与謝野氏は歳出削減と消費税引き上げを持論とする財政規律派で、石破氏はその中間のようだ。小池氏と石原氏は成長戦略と歳出削減で財政健全化を図るいわゆる上げ潮派といわれる。
これらの政策を小泉政権末期の「骨太方針2006」に照らしてみると分かりやすい。5人とも小泉構造改革のひずみ是正を打ち出したが、改革は踏襲するとしている。何よりこの骨太方針は中長期の改革の指針だからだ。
その核心は歳出・歳入一体改革による2011年度の基礎的財政収支黒字化という政府目標にある。唯一、麻生氏だけが「日本経済は全治3年」と景気対策を優先し、それを先送りする意向だ。
日本経済は若干マイナス成長に陥っただけだ。必要なのはかつてのような財政出動を伴う景気対策ではなく、新価格体系への構造転換による自律回復を促す環境づくりである。市場の信認を失う目標先送りが逆に景気の足を引っ張ることを認識すべきだろう。
上げ潮派の論理もすでに破綻(はたん)している。成長は必要だが、ことさら高い成長を想定した増税なき黒字化達成は、現在の景気状況をみれば明らかに説得力を欠く。
政府与党は総選挙を控え来年度からの基礎年金国庫負担割合引き上げの財源として想定された消費税引き上げを先送りした。総裁選も同じ構図になったといえる。与謝野氏だけが引き上げ工程を定めるプログラム法を打ち出したが、もっと具体性がほしい。
自民党は民主党と同じ財源なきばらまき競争に陥ってはならない。それには消費税のトラウマから脱し、真正面から議論することだ。それなしに国民が安心できる社会保障制度は構築できない。
≪どうする国際共同行動≫
焦点のインド洋での給油支援に関して5人は継続で一致している。ただ来年1月の期限切れを控え、新テロ特別措置法改正案の成立は危ぶまれている。臨時国会では補正予算案だけでなく、この国家的課題をどう解決するかも明確にしてほしい。
さらに日本が国際社会の平和と安定のためにいかなる役割を果たしていくかを論じるべきだ。
これまでのようにリスクとコストを避ける日本でよいのか。石破氏は自衛隊派遣の一般法制定を打ち出した。「テロとの戦いから逃げません」(麻生氏)では物足りない。
国民の不信感の広がりにも目を向けるべきだ。官僚組織の無駄遣いや腐敗・不正に対し、自民党は是正する努力を十分に行っていないと見られている。5人とも徹底した行政改革に言及している。具体的にメスをどう入れるのか、覚悟と胆力を見せてほしい。