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NIKKEI NET

社説2 北朝鮮に何か起きたのか(9/11)

 北朝鮮は9日、建国60周年を迎えたが、記念行事に金正日総書記は姿を見せず、外国メディアは総書記の重病説を流し始めた。北朝鮮に何か異変が起きているのだろうか。

 ロイターやAP通信は米情報当局者の話として「金総書記がこの数週間の間に脳卒中を起こした可能性がある」などと伝えた。

 重病説の根拠は、建国を祝う重要行事に金総書記が姿をみせなかったからだ。特に今年は60周年の節目だ。総書記は建国50周年、55周年の軍の閲兵式には出席していた。今回の式典に正規軍が参加しなかったことも憶測を呼んでいる。

 韓国の情報機関、国家情報院によると、金総書記は糖尿病と心臓病の持病があり、昨年春に心臓の血管を広げる治療を受けた可能性がある。北朝鮮メディアはこれまで総書記の軍視察を頻繁に報じてきたが、8月中旬以降は動静が途絶えている。

 総書記の重病説に関して韓国の国家情報院は「脳卒中か脳出血」の可能性を指摘し、「手術を受けて現在は意識もあり回復は可能」との見方があると国会に報告した。米国務省は「コメントできない」という。

 記念行事欠席については核問題など別の理由も考えられる。北朝鮮は米政府によるテロ支援国家指定の解除を期待し、6カ国協議合意に基づいていったんは核施設の無能力化に着手した。建国60周年に合わせて「外交的勝利」を誇示する思惑だったのだろう。だが、米政府は核計画の検証問題での対立などから指定解除を先送りし、反発した北朝鮮が無能力化作業を中断。協議は暗礁に乗り上げ、外交的成果は遠のいた。

 経済要因も考えられる。韓国銀行によると、2007年の北朝鮮の国内総生産(GDP)の実質成長率は2年連続でマイナス。経済規模は韓国の36分の1に縮小した。深刻な食料不足も指摘されており、総書記が記念行事に登場するのは不適当との判断があったかもしれない。

 現時点では金総書記の後継体制が固まっていないとの見方が有力だ。予断は禁物だが、仮に北朝鮮で深刻な異変が起きているとすれば、日本の安全保障問題にも直結する有事である。北朝鮮情勢の行方を注視していく必要があろう。

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