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社説:総裁選告示 掲げる政策があいまいだ

 福田康夫首相の退陣表明に伴う自民党総裁選が10日スタートした。臨時国会召集直後の衆院解散・総選挙の可能性が強まる中、今回はだれが総裁に選ばれ、首相に指名されようと直ちに有権者の審判を仰ぐことになる。その意味で、この総裁選はまだ「予選段階」というべきだろう。まず、そう位置づけたい。

 立候補したのは、届け出順に石原伸晃元政調会長、小池百合子元防衛相、麻生太郎幹事長、石破茂前防衛相、与謝野馨経済財政担当相の5人だ。初めて女性が出馬し、中堅も名乗りを上げた。派閥の力が衰え、世代交代が進みつつある自民党の現状を物語るものではある。だが、顔ぶれのにぎやかさだけで「自民党は変わった」と即断するほど国民は単純ではない。

 総裁選を大々的に演出することで、衆院選での勝利につなげたいという自民党の狙いは、既に多くの国民も承知しているはずだ。再三指摘しているように、やはり期待されているのは、まじめな政策論争である。

 5人が発表した政権構想(総裁選公約)を見る限り、具体性が乏しいといわざるを得ない。特に最有力とされる麻生氏の公約は「日本の経済は全治3年。まずこれを治療します」「年金や医療制度を、安心できるものに立て直します」など抽象的な言葉が並んでいるのみだ。これでは議論のたたき台にもならない。

 この日の記者会見でも、09年度から基礎年金の国庫負担割合を現行の3分の1から2分の1に引き上げる点について、与謝野氏がその財源確保のため消費税率引き上げを明言したのが目を引いた程度で、あいまいな発言が続いた。

 税金の無駄遣いをなくすというが、どのようにしてなくすのか。そもそも何が無駄だと考えているのか。それはどの程度の額になるのか。こうした点を今後、つめないと、「民主党の政策はバラマキで無責任だ」と批判はできない。

 従来、自民党は総裁選の政策論争を軽んじてきた。郵政民営化が唯一の公約といってよかった小泉純一郎元首相を選びながら、肝心の民営化方針については長い党内対立を続けた。その後、安倍晋三前首相、福田康夫首相を選出した際も、さしたる政策論争もなく、「勝ち馬に乗れ」とばかりに党内の大勢が決した。

 ましてや今回は、衆院選のマニフェストにつながる政策論争である。それを忘れてもらっては困る。

 5人の候補は22日の投開票日まで地方遊説なども繰り返す。もはや、衆院選は事実上始まったといっていいだろう。

 「総裁選ショーだ」と批判するだけでなく、民主党など野党もマニフェスト作りを急ぐべきである。政策を分かりやすく、具体的に発信して、有権者の判断材料を示す。そんな衆院選の前哨戦としたい。

毎日新聞 2008年9月11日 東京朝刊

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