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この10年あまり、自民党の浮き沈みの激しさはいったい何を物語っているのだろう。
98年の参院選で敗北し、橋本首相が退陣した。次の小渕首相は今の小沢一郎民主党代表が率いた自由党、そして公明党と連立し、なんとか政権を維持したものの、続く森政権は低支持率にあえぎ、1年の短命に終わった。
この退潮傾向を一気に覆したのが小泉元首相だった。高い支持率を保ち、ちょうど3年前の9.11郵政民営化総選挙で圧勝し、「新しい自民党」への脱皮を高らかに宣言したものだ。
それが安倍首相になって昨夏の参院選で歴史的惨敗を喫し、暗転した。続く福田首相も低支持率が続いた揚げ句、1年で政権を投げ出さざるを得なかった。
政権交代を迫る民主党の影におびえ、本来なら政治の行き詰まりを打開する切り札であるはずの解散・総選挙に踏み切れないまま、ここまできてしまったのではないか。
沈んで、浮いて、沈んで。きのう告示された自民党総裁選に立候補した5人が引き継ごうというこの党は今、そんな崖(がけ)っぷちに立っている。
もっと歴史をひもとけば、長期低落の道を歩んできた自民党の軌跡がくっきり浮かび上がる。小泉時代の5年余りは、実は例外的なエピソードだったようにさえ見えてくる。
5人の候補者たちはきのうの記者会見で、こもごもに改革の必要性に触れつつも、「小泉路線を引き継ぐ」と明言する人はだれもいなかった。
格差対策、改革の痛みへの手当て、温かい政治……。候補者たちが強調した言葉である。参院選での惨敗ぶりを思えば、当然の変身ではあるだろう。「消えた年金記録」の問題が尾を引き、後期高齢者医療制度の不評も重なる。さらに石油や食料の高騰、景気後退の波が押し寄せている。
では、小泉流に代わって、この党を再浮上させる策は何なのか。それを明確に示すことが、22日の投票日までに候補者たちに求められている。
容易なことではあるまい。政権党としての長い歴史の中で培ってきた利益分配の仕組み、官僚との二人三脚の関係などが、いまや厳しい批判にさらされているのだ。
この総裁選の勝者は、次は総選挙で政権をかけた民主党との勝負に臨む。それを意識してのことだろう、候補者たちからは「財源の裏づけがない」「無責任」などと民主党を攻撃する発言が相次いだ。
だが、その前に語るべきことがあるはずだ。税金の無駄遣いを排すというなら、その具体的な方法を示すべきだし、責任ある財政再建策や党改革について聞きたいという人は、党員の中にこそ多いのではなかろうか。
「脳卒中で倒れたようだ」「身辺に異変があったのは間違いない」。建国60年の式典に姿を見せなかった北朝鮮の金正日総書記について、健康不安説が世界を駆けめぐっている。
なにぶん閉鎖された国のこと、事実はわからない。だが、父の故金日成主席から、社会主義国らしからぬ父子間の権力継承で「金王朝」といわれる独裁国家をつくってきた正日氏だ。
その国はいまや核兵器の保有を誇示している。体制に異変があれば北朝鮮が一挙に不安定化し、その影響は日本を含む周辺国へ及びかねない。今後の推移を注視する必要がある。
それにしても、北朝鮮の60年間とは、何だったのだろうか。
日本の植民地支配からの解放後、朝鮮半島は東西冷戦の下で、48年8月、南に大韓民国、翌9月には北に朝鮮民主主義人民共和国ができた。朝鮮戦争を経て分断が固まる。
それは南北間の体制競争を生んだ。はじめはソ連に支えられた北が経済力で南より優位だったが、70年代以降みるみる逆転されていく。
そういう競争のなか、北朝鮮は韓国に送る工作員の教育のため、70〜80年代に日本人を拉致して利用するという非道を重ねた。
南北の経済格差は今や数十倍に達するという。競争に敗れた北朝鮮は「金王朝」を守る武器として核とミサイルを開発し、周囲を脅している。
国民は十分に食べられない。経済は危機的だ。人権も侵害されている。国民を犠牲にしての体制維持である。
世界から孤立しながら、さりとて国際社会の支援なくしては成り立たない。そんな特異な独裁国家に対して、どう向き合っていくべきなのか。
外から力で体制転覆をはかる。ブッシュ政権内に一時そういう考えもあった。だが北朝鮮の暴発を招きかねず、内外で膨大な犠牲が避けられまい。
北朝鮮で「王朝」内部の混乱や国民の反乱が起きれば、それはそれで大量の難民発生など、周辺諸国は大きな影響をこうむるだろう。
最も望ましいのは、北朝鮮が本格的な改革開放へとカジを切ることだ。
だが難問も伴う。北朝鮮は経済特区を設けて開放を試みてはきたが、極めて部分的なものにとどまった。完全に外に開いていけば情報も流れ込み、体制維持が危うくなるからだろう。
ではどうするか。現実的なのは、6者協議の枠組みをうまく回していくことである。北朝鮮は核を放棄し、拉致問題の解決へ真剣に取り組む。日米は国交を正常化して北朝鮮に安心を与える。そして北朝鮮の軟着陸をめざしていく。難しいが、それしかあるまい。
金総書記の状態がどうあれ、いずれ権力の交代を迎える。そのときも念頭に置きつつ、北朝鮮政策を考えたい。