◎「熱狂の日」拡大開催 来年は空からモーツァルト
今春の大型連休にJR金沢駅周辺で開催された「ラ・フォル・ジュルネ金沢『熱狂の日
』音楽祭」が、会場を金沢市内中心部に拡大して来年も継続開催されることは、街中に上質の音楽が満ちあふれた「楽都金沢」発信の第一歩になるだろう。来年のテーマはモーツァルトと決まったが、昔から、空から謡が降ってくると言われた金沢の街のあちこちで、空からモーツァルトの曲が降ってくるような典雅な音色を響かせたい。
会場が設けられる金沢市中心部には、今夏オープンした北國新聞赤羽(あかばね)ホー
ルをはじめ、金沢21世紀美術館、石川四高記念文化交流館、さらに県中央公園などの屋外スペースも含め、音楽を楽しむ「器」には事欠かない。
兼六園や金沢城などの歴史的空間が広がり、古い家並みが残る一帯は、芸の伝統が深く
浸透し、本物の芸術に共鳴する都市の品格がある。その意味でも、第一回と同様、邦楽を随所に取り入れ、市内中心部にも熱狂の波を広げたい。
今年の第一回は計百三十九公演が行われ、七日間で目標の五万人を大きく上回る八万四
千人が訪れた。この様子は、来月、パリで開かれる日仏観光交流セミナーで、金沢市の多様な文化をアピールする中でも紹介される予定であり、フランスにおける金沢への注目度向上の追い風にもなろう。
音楽ジャーナリストの飯尾洋一氏は本紙寄稿の中で、成熟した本家ナント市の鑑賞風景
とも、テーマパークのような東京会場の雰囲気とも違う静かな熱気と高揚感が、金沢会場に充満していたと指摘している。音楽祭提唱者のルネ・マルタン氏らも、感性豊かなこの地に「熱狂の日」が根付く手応えを十分感じ取ったのではないか。
この成功を受けて、来年は百五十公演を行う予定であり、富山や福井にも会場を拡大し
て開くことも決まった。新幹線時代になれば、北陸の拠点都市間のアクセスが格段に向上する。それだけに、同音楽祭の広域展開は、北陸一体で取り組む大型イベントの先べんを付ける試みとも位置づけられ、交流人口の拡大と、それに伴う経済効果にも期待が高まろう。
◎汚染米の不正転売 抜き打ち調査なし不可解
大阪市の米粉加工販売会社「三笠フーズ」が基準値を超える農薬やカビ毒で汚染された
「事故米」を食用に不正転売していた事件は、農林水産省の調査が進むにつれ流通先が広がる一方だ。不思議なのは同省が過去五年間に九十六回も調査していたが、抜き打ち調査でなかったため、会社側の隠ぺい工作にごまかされ続けていたということである。
三笠フーズの不正に関する情報が最初に農水省にもたらされたのは昨年の一月だった。
内部告発とみられる手紙に事故米を酒造会社に販売していると書かれていたという。同省は直ちに調査しようとしたが、「従業員はもう帰った。明日にしてほしい」といわれ、調査を翌日にしたため、不正を発見できなかった。
今にして思えば、このとき二重帳簿をつくっているかもしれないとの疑いを抱き、調査
を翌日に回さなかったら不正を発見できた可能性があったとし、同省は「性善説」に立ちすぎていたと反省しているが、そうした甘さがあったため、今年の八月に二回の匿名電話があり、これを機に帳簿の矛盾に気づくまで不正を見逃すことになったのだ。
同省は「有機リン系殺虫剤メタミドホスの残留度は低く、カビ毒も業者が取り除いてい
るため、食べたとしても健康への影響はない」としており、再発防止のため、売却先を工業に使う業者に限定し、抜き打ち調査を厳しく実施するほか、廃棄処分にすることも検討するそうだ。
三笠フーズは農水省の甘さに付け入ったのだ。健康への危険性を知りながら利ざやが大
きいことに誘惑され、不正を隠すために二重帳簿にしたほか、不正が発覚した当初、社長は現場の判断だったと言い逃れようとしたのである。結局、社長の指示と分かったのだが、それでも社長は経営が苦しく、従業員の生活もあったと言い訳するなど、経営者としての自分の責任が二の次になっているのだ。
再発防止に本気になって取り組むほか、三笠フーズが不正に流通させた事故米の行方を
徹底的に洗い出す責任が農水省にはある。