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もう、何年も前のことです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕方、私が外来で診ていた妊婦さん・裕美さん(仮名)が
陣痛が始まったので、今からいらっしゃるという連絡を受けました。
病棟で到着をお待ちしていたら、何故か入り口の警備室から電話がかかってきました。
「先生! 妊婦さんがお腹痛がって、立てないみたいです」
助産師と一緒に玄関に飛んでいくと、裕美さんがお腹を抱えて、うずくまっています。
痛がり方が、尋常ではありません。
にわかに緊張が走ります。
すぐに病棟に運んで、内診台に上がってもらったら、血性羊水が流れています。
赤ちゃんの心音は聴取できず、エコーをあてたら・・・
心臓は、既に、止まっていました。
嗚呼・・・
「裕美さん」と呼びかけると、
怯えきった目が私の顔を捉えて、一瞬表情が緩みます。
愛おしさが、こみ上げて来ます。
しかし、告げなくてはなりません。
「裕美さん、残念だけれど、赤ちゃん・・・亡くなっているみたい・・・」
「えっ・・・。先生、私はいいから、赤ちゃん助けて・・・」
なす術は、ありませんでした。
常位胎盤早期剥離です。
通常はお産になってから剥がれてくるはずの胎盤が、先に剥がれてしまう、
原因不明の恐ろしい病気です。
胎盤が剥がれてしまえば、赤ちゃんに酸素が行かなくなりますので、
赤ちゃんは数分で亡くなります。
さらにDICという血液凝固異常を併発すると、
血が止まりにくくなる一方で、血が固まり過ぎて血栓ができてしまうことがあり、
母体の生命も危険です。
なるべく早めに、死んだ赤ちゃんをお腹から出さないとなりません。
帝王切開が頭に浮かびましたが、準備する間もなく分娩が進行して、
あっという間にお産になりました。
急激に進んだお産にありがちなのですが、弛緩出血や頚管裂傷を起こすことがあります。
裕美さんの場合もやはり、なかなか血が止まりませんでした。
両手で子宮を圧迫して止血を試みますが、叶いません。
産婦人科医3人がかりで出血点を確認しようとしても、
子宮を圧迫している手を緩めると、ジャーッと血が出て、何も見えません。
輸血をオーダーし、院内にいた他科の先生にも来てもらって、
3本の点滴ルートから、輸血を注射器で流し込みます。
産婦人科部長が、決断しました。
「だめだ、開腹しよう」
お腹を開けてみて、全員が驚きました。
子宮頚管から子宮の壁に向かって、ざっくりと裂けています。
頚管裂傷が延長した、子宮破裂です。
子宮、取らないと、だめかな・・・
しかし部長が、粘ります。
鮮やかな手際で、すいすいと破裂した子宮壁を縫合し、
あっという間に縫い終わりました。
部長すごい、と思ったのも束の間、DICという凝固障害を引き起こしており、
縫合した針穴からも血が流れています。
もはや縫合では止血できません。
麻酔科の先生が、凝固因子をどんどん点滴します。
これで止血はできますが、今度は過凝固になって、血栓症を引き起こす危険があります。
しかし今、目の前の出血を止めないことには、裕美さんを救命できません。
最終的に出血は止まり、子宮を残せました。
裕美さんはICUに入院し、DICに対する厳重な治療を受け、
一時は透析をする状態になりましたが、生命は助かりました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
産婦人科医をしていると、全身の血液が沸騰するような、恐ろしい思いをすることがあります。
そのうちの何例かは、常位胎盤早期剥離によるものでした。
恐ろしく悲しい病態です。
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看護学生時代に一番最初に見た「死」は赤ちゃんを産んだ直後のお母さんでした。
羊水塞栓からDICで亡くなったようです。
マタニティードレスを着たままで真っ青な顔でストレッチャーに横たわるお母さんの姿は10数年経つ今でも忘れられません。
その経験と、自分の3度の妊娠出産を踏まえて、
やはり妊娠出産は命がけであることを痛感しました。
これからも幸せな赤ちゃんとママさんを支えるべく、
「妊婦に優しく」をモットーに生きていきます(笑)
専門は違いますが、細心の注意を払っていても、不幸な転帰をたどる患者さんは避けられませんね。どの科でも同じです。
精神科では、悪性症候群が避けられません。滅多にないのですが、悪性症候群の致命率は今もかなり高いのが実際です。薬の影響で致死的な不整脈が出ることもあります。十人くらい経験していますが、大切なのは家族への説明ですね。古典的な病像ですが、急性致死性分裂病の話とセットで説明しています。治療しなかったら、昔は、多くの人がそのまま亡くなっていた、残念ですが、懸命に立派に病と戦われ、最後は苦しむことなく、息を引き取られました、と説明しています。
一方、これまで殺人等をやった患者の診察をしないといけないこともよくあります。役所と警察から、どうしてもということで、警察が後方に控えて、わからないよう護衛してもらった上で往診したこともあります。「最近通院していないから心配だったよ。しんどそうだね。早く入院して治療した方がいいよ」ということであっさり入院・・・周囲は拍子抜け・・・
その患者さんに、ある時、右目を殴られたことがあります。念のため、診察の時に使うメガネのレンズはプラスチックにしていますから、メガネのフレームが曲がり、レンズが飛んだだけで、右目や顔面には全く影響なし、で終わりました。後でフレームを修復し、レンズを元通りに入れておいたのですが、患者さんは、状態が良くなった後、ずっと後悔していました。「君じゃなく、病気がそうさせたのだから、心配は何もないよ。ほら、右目も全く問題ないでしょう。君の手は大丈夫だったのかな?」こういったことは、この一回しかありません。
娘は33週の早産、そして未熟児で産まれました。現代医療の恩恵があったからこそ今を生きている子どもです。
娘の『産んでくれてありがとう』という言葉は、娘が生まれた時お世話になった産科・小児科の先生とスタッフに送るべき言葉でもあります。そしてこの言葉を、全ての産科の先生や助産師さん、お産に関わる全ての人に、送りたいと思います。
『産んでくれてありがとう』。この世に生を受けた子どもたちが、そんなふうに言える世の中になりますように。
私も、子宮破裂と言いましたが、胎盤が先にはがれたのか
さけたのが先か分からないと言われました。
私は、促進剤を使ってからですが、よく症状がにてます。
しかし驚いたのは、子宮が残せた事です。
私の場合は、残したら、またいつ裂けて大出血するか
分からなく、あぶないから取りましたと聞きました。
と言う事は私はかなりひどい裂けようだったのでしょうか?
五リットルの輸血量は、多い方ですか?
実は、術後の経過がよくICUも半日で出たし、予定のレントゲン撮影もなくなったし。
三週間の入院予定も二週間になったので、自分がどれだけ
ひどい状態だったのか、ピンとこないんです。
確かに痛かったのですが、痛くてたまらなかったのは一時間半くらい、その後は麻酔がきいたのでまったく記憶もないし、その後も痛み止めの点滴がきいたので我慢ができる程度です。つらっかたのは、寝返りを打てなかったから背中が痛くて(笑)
家族から、死にかけていたと聞いてもピンとこないのですが、実際どうなのでしょう?
子宮破裂にしては軽いのでしょうか?
今回の常位胎盤早期剥離、前回の前置胎盤、を読ませて頂きました。
わたしは先生がこの時期に、このふたつの話題をブログで取り上げられたことに、先生の中にある、非常に強い意思を感じ取っています。
それは、わたしが今、考えていることと同じかもしれません。
明日(正確には今日)、加藤先生の最終弁論があります。
2年にも渉って繰り広げられてきた愚かしい刑事裁判は、一応、明日で一区切りがつきます。
判決は7月だそうですね。
なな先生の思い、全国の産科医の先生方の思いが、願いが、通じることを祈っています。
亡くなった妊婦さんのお話に、慄然としました。
幸いにして私は、母体死亡に遭遇したことがないのです。
体験した産科医たちは
「生まれたての赤ちゃんと、途方に暮れる若い夫が残される。
あんな悲惨なものはない」と異口同音に言っています。
>「妊婦に優しく」
同志です(笑)
医療現場における説明の重要性は、日々痛感しています。
重症例、死亡例は、なおさらです。
>治療しなかったら、昔は、多くの人がそのまま亡くなっていた、残念ですが、懸命に立派に病と戦われ、最後は苦しむことなく、息を引き取られました
ご遺族への思いやりを感じる、良い説明ですね。
教えて頂いて、ありがとうございます。
後段、先生と同じ言葉を言ったことがあります(笑)
http://blog.m3.com/nana/20060915/1
>『産んでくれてありがとう』
素晴らしい子育てをなさっているのですね。
お嬢さんも素晴らしいですが、育てたazukiさんはさらに素晴らしいと思います。
自分が取り上げた子にこんなこと言われたら・・・嬉しくて失神するかも知れません(笑)
お子さんのお加減は、如何ですか。
疑問の数々、当然のお気持ちと思います。
ですが残念ながら、どれも現場にいたドクターにしか知りえないことです。
大切なことですし、大変なご経験をされたのですから、
もし知りたいというお気持ちがあるのなら、担当医に聞いてみるのが一番です。
大丈夫、快く教えてくれるはずですよ。
あっさりとお察し頂いてびっくりすると同時に、
先生のお考えと同じと書いて下さったことを
非常に心強く思っております。
元々このブログは、大野事件に抗議するために始めたものでした。
全然違う方向性に行ってしまいましたが(苦笑)。
前回の論告求刑の時に、無罪を確信しました。
あの情緒的・感情的な論述は、本来検察のやり方ではないと感じたからです。
本日の最終弁論に、注目しています。
確かに、なな先生の言うとおり、担当の先生に聞くのが一番なのですが、入院していた時、聞いたのですが、はっきりと答えてくれなくて、疑問だったのです。
まわりに経験した人もいないし。
もちろん聞いたからといって、訴えるとか、そういう気持ちはないんですよ。ただ、自分の体の事なので知りたかったんです。
子宮がなくなった事は、別に苦じゃないんです。
もう産む気はなかったし、子宮がんになる心配もないですから。ただ、担当してくれた先生方は、原因は分からないと言うし、他の人とくらべての話は、いっさいしないし、聞いても笑顔で返事をくれるし。すみません、愚痴ばかりになりました。なんだか、すっきりしないのです。
なな先生に、こんな話をして、すみません。
ちょっぴり現場を離れた麻酔科医のフェンタです。
私も産婦人科の先生方と「全身の血液を沸騰させた」経験がたくさんあります。
ストレッチャーに乗った子簡発作の妊婦さんにまたがって挿管したり、開腹直後に赤ん坊の手が見えた子宮破裂・・・
ですが、私たちは外科の先生に頑張って頂くしかなく、いつも私の仕事をしつつ、先生方を心から応援しています。
このケースについては本当に拍手喝采です。子宮を残せるということが女性にとって、どんなに救われたことか・・・。でも今の人たちは、「お産は命がけ」という認識が薄くて、悲しくなってしまいますよね・・・。
なな先生の文才に脱帽です。
産科医師はこのようなハイリスク分娩に命がけで取り組んでおられるのに、うまくいって当たり前、過失が無くても結果が悪ければクレーム、訴訟、挙句の果てには国家権力に逮捕される始末です。
この記事を読んで、改めて産科医師を取り巻く環境に対して怒りがこみ上げてきました。
大抵なくなってしまうことが多いのですが、たまに助かった新生児を蘇生する際、非常にもどりが悪いのを感じます。
つい最近も身近で早剥がありました。当院では胎児は死亡、近医では母子共に死亡しました。
出会うたびに早剥の怖さをひしひしと感じます。何かしらマーカーのようなものが見つかってくれるといいのですが。
そして早剥にあたってしまった産科医・小児科医が非難を浴びない世の中になってほしいものです。
それがわかった瞬間に自分自身の血圧が200を超えるんじゃないかと思いますね。で、次に「今、まず何からすればいい?」とひたすら手と足と体を動かして。もう考えている暇も血液データを確認する暇もありません。
私自身は母体死亡の経験があります。搬送例でしたが、もうどうすることも出来ず、そのまま失血死されました。子供も助かりませんでした。
こうなると完全に無力です。本当に何も出来ません。
早剥はもちろん、前置胎盤・癒着胎盤・羊水塞栓症・子癇発作etc・・・産科ってなんでこうも尋常じゃない救急疾患が多いんでしょう。それも、前もって予測することも出来ないものが多すぎます。それでも、そういう劇症疾患に対して果敢に立ち向かってきたのが今日の産科医療でもあります。
福島大野病院事件の最終弁論・・・そして判決。私たち産婦人科医は固唾を飲んで見守っています。このままこの日本で産科医療を続けていけるか否か。そういう判決です。
もしもの結果の時には、産科医療の現場から立ち去る覚悟は出来ています。
自分の体の事だから知りたいというお考えも、なんだか、すっきりしないというお気持ちも、
自然なものだと思います。
これを解決するには、担当医に聞くのが一番というよりは、担当医に聞くのが唯一の手段ではないでしょうか。
ああ、でも羽さんもきっと、このようなことは既にご承知ですよね。
ご存知のように、子宮破裂はかなり稀です。
同じご体験も、「すっきりしない」という思いも、誰かと共有することは難しいかも知れませんね。
麻酔科の先生ならではの恐ろしい体験談に、震撼します。
> ストレッチャーに乗った子癇発作の妊婦さんにまたがって挿管したり
同様の光景を見た人は、「ロデオのようだった」と言っていました。
記事のお話は、医療崩壊などという言葉すら存在しない頃の話です。
あの部長先生だったから、あの時代だったからこそ、子宮が残せたのだと思っています。
かなりシビアなDICでしたので、術後のことを考えたら
本来でしたら子宮摘出が安全確実でしょう。
現在のように後出しジャンケンよろしく、結果が悪ければ「子宮摘出をすべきだった」と断罪されてしまう時代のせいで
裕美さんのように残せるはずの子宮も、残せなくなってしまうのだとしたら・・・
空恐ろしく、考えたくもないことです。
本当に、おっしゃる通りですね。
異常なクレーム、訴訟による医療現場への影響も深刻ですが、
最も重大なのは、国家権力による逮捕および刑事罰ではないかと思います。
刑罰によって医療が良くなるのであれば、まだ納得できるのですが、
そうではないことが、世界の標準として認められています。
世界の標準から外れてでも、医療行為に刑事罰を科さなければならないような事情が
我が国だけにあるとは、どうしても思えないのです。
末文に、胸が熱くなりました。ありがとうございます。
> 何かしらマーカーのようなものが見つかってくれるといいのですが。
本当に、そう思います。
一体何人の赤ちゃんとママの生命を奪われたでしょう。
早剥が怖くて、憎くて、撲滅したくてなりません。
周産期医療に関わる者全ての悲願です。
早剥撲滅に一番近い位置にいる、早剥と戦っている小児科医と産科医を立ち去らせてしまったら
撲滅の日は永遠に訪れないかも知れません。
あってはならないことです。
いつも大変意義深いコメントを、ありがとうございます。
>自分自身の血圧が200
「全身の血液が沸騰する」と、おんなじものを示しているんですよ、きっと(笑)。
先生もおっしゃるように、産科医療の恐ろしさは、劇症疾患に突然遭遇することだと思います。
そんな背景もあって、通常のDICとは別に「産科DICスコア」が考案されました。
まさに「血液データを確認する暇もない」場合を視野に入れています。
産科DICの恐ろしさや、産科DICスコアの臨床的意義や
このスコアを編み出したのが、宮崎大学の池ノ上先生であることを知っているのか否か、
福島地検は、池ノ上先生の証言を「信用できない」と断じました。
愚挙というより、冒涜行為と言わずにはいられません。
この裁判の行方によっては、身の振り方を考えるという産科医を
先生をはじめ、何人か知っています。
我々をここまで怒らせ苦しめるこの事件は、8月20日に一審判決が出ると報じられました。
僻地の産科医の先生のブログにも同様の内容で書き込みましたが。
大野事件に代表される、診療関連死の刑事事件化への抗議もこめて。
英国の予期せぬ診療関連死への警察介入ガイドライン
診療中の「予期せぬ死亡」と「重大な障害」に関して警察介入のイギリス厚生省ガイドライン(2006年作成)
Guidelines for the NHS - Investigating patient safety incidents involving unexpected death or serious untoward harm
http://www.dh.gov.uk/en/Publicationsandstatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/DH_062975
公式の医慮安全報告機関にあった医療機関からのリポートのうち、予期せぬ死亡による診療関連死あるいは予期せぬ重大な障害があった場合、(1)故意に患者に有害事象(死亡)を起こそうとした、(2)故意に患者の体に重大な障害を起こそうとした、(3)故意に安全な診療手技に従わずに無謀な治療をした、のいずれか3通りの場合は警察が介入があるとのこと。
ただし、はじめから警察が介入して証拠部件を全て押収することはない。
この場合も第三者の医療機関代表、医療安全の専門機関、警察の3者合同で症例ごとに調査委員会を開き、解剖の結果や、カルテ(医療記録)、を基に故意または悪意による診療関連死かどうかを判定していく。
その結果、故意あるいは悪意であることがわかれば、警察の介入が起きる。
故意または悪意でない診療関連死でないことが判明すれば、警察が手を引く。
イギリスでは、第三者の医療機関の臨床の専門医と公的な医療安全の専門機関、と警察が、全ての資料を共有して合同で議論して、事件性があれば警察の介入となる。
医療従事者側にも、患者側にも公平で公正な方法を取っている。
WHOの医療安全の部局も、イギリスのやり方が良いと認識している(その後の、WHOの医療安全フォーラムでモデルのシステムとして紹介されている)。
英国の予期せぬ診療関連死への警察介入ガイドライン
診療中の「予期せぬ死亡」と「重大な障害」に関して警察介入のイギリス厚生省ガイドライン(2006年作成)
を比べて、日本の異常点を指摘すると。
日本の場合は、(1)はじめから警察が介入し、証拠物件を全て押収し、(2)警察(検察)の知り合いの医者にだけ意見を聞き、(3)検察独自で臨床の現場からかけ離れた診断基準で診療関連死が刑罰相当かを決める。
結論:
日本のようなやり方は、イギリスでも欧米でも間違った方式とされており、日本のような方式は先進国では異常である。
英国の予期せぬ診療関連死への警察介入ガイドライン
診療中の「予期せぬ死亡」と「重大な障害」に関して警察介入のイギリス厚生省ガイドライン(2006年作成)
Guidelines for the NHS - Investigating patient safety incidents involving unexpected death or serious untoward harm
http://www.dh.gov.uk/en/Publicationsandstatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/DH_062975
公式の医慮安全報告機関にあった医療機関からのリポートのうち、予期せぬ死亡による診療関連死あるいは予期せぬ重大な障害があった場合、(1)故意に患者に有害事象(死亡)を起こそうとした、(2)故意に患者の体に重大な障害を起こそうとした、(3)故意に安全な診療手技に従わずに無謀な治療をした、のいずれか3通りが強く疑われる場合は第三者の医療機関の代表と、公的な医療安全専門機関、警察の第三者が集まる調査チームが症例ごとに作られる。
ただし、はじめから警察が介入して証拠部件を全て押収することはない。
この場合も第三者の医療機関代表、医療安全の専門機関、警察の3者合同で症例ごとに調査委員会を開き、解剖の結果や、カルテ(医療記録)、を基に故意または悪意による診療関連死かどうかを判定していく。
その結果、故意あるいは悪意である証拠があれば、警察の介入が起きる。
故意または悪意であると疑われても、調査の結果、そうでない診療関連死と判明すれば、警察が手を引く。
イギリスでは、第三者の医療機関の臨床の専門医と公的な医療安全の専門機関、と警察が、全ての資料を共有して合同で議論して、事件性があれば警察の介入となる。
解剖も前例行われ、この結果もチーム内で共有される。
つまり、医療従事者側にも、患者側にも公平で公正な方法を取っている。
WHOの医療安全の部局も、イギリスのやり方が良いと認識している(その後の、WHOの医療安全フォーラムでモデルのシステムとして紹介されている)。
何故、日本の厚生労働省は、参考にしようとしないのでしょうか……。
akagama先生。
>何故、日本の厚生労働省は、参考にしようとしないのでしょうか
(1)イギリス保健省(DH)の刑事介入ガイドラインそのものを知らない、
(2)読んでは見たが、イギリス流のやり方(欧州流と言い換えても良いです)ではなく、初期から警察を介入させ刑事事件化して刑罰を下す方式を考えていた、
(3)読んでみて、型だけ真似ようとしたが、法律面での変更事項を法務省や警察当局とすりあわせる気がなかった、
のいずれかでしょう。
結局は第三次試案に至るまで、お粗末さは変らなかっただけです。
*多くの医者は、専門分野を決めたら、狭い範囲であっても、臨床の第一線で努力して、スペシャリスト(専門医)としての道を歩む。
*欧州の官僚は、一つの分野の専門役人として、スペシャリストとなって同じ分野を長年に渉って勤め上げる。あるいは現場経験の豊かなスペシャリストが中途採用で、役人になる。現場の人間の話を聞いてから、ものごとを決める。
そうでない場合は、第一線の専門家から、猛烈な抗議を受けます
例えば、イギリス保健省は日本の厚生省に較べればマシですが、最近は研修医や専門医トレーニング中の医師の採用や待遇、外国人医師の待遇で、イギリス医師会(BMA)や専門医団体から政策の変更を要求され、猛烈な攻撃と非難を受けています。
*日本の中央官庁の役人は、ジェネラリストとして、1~2年でコロコロと部署が変り、専門性を養えなまま、中途半端な知識で政策を発案する。しかも現場経験が殆ど無し。
日本の中央官庁の官僚システムの構造的な欠陥が原因だと思います。厚生省には、特に当てはまります。
日々、先生のブログに癒されています。
こちらのブログ読者も、患者さんの読者も多くなってきた、今、
そして、福島の癒着胎盤での弁護側最終弁論、静岡での常位胎盤剥離とタイムリーなこの時期に、前回、今回とこれらの話題を書かれた、なな先生は、「さすが!!」と感服いたします。ブログの本領発揮ですね。
やはり、私たちが、ブログ内でああでもない、こうでもない、と議論をぶつけあっているだけでは井の中の蛙の井戸端会議になってしまいます。
なな先生のように、医療従事者でない方々に対し、いかにして、今でも、「100%安全なお産はない。」「お産は本来、母子共に非常に危険なこと。」「標準とされていることをしても、不幸な結果になることもある。」「医師はみんな一生懸命、常にベストを尽くしている。」とわかりやすく伝えることが、ほんとうは、一番重要なのだと思います。多くの人に、理解が浸透して初めて、産科、小児科を目指す学生さんが増えてくるのかもしれませんね。アメリカでは、これらが、刑事事件になることはありえません。
大野病院事件、検察側は夏の判決で無罪だと控訴してくるかもしれないそうですが、最後まで無罪を確信し、支援したいですね。
なな先生のブログに拍手喝采です。
早期胎盤剥離、本当に怖いですね。
しかし、どれだけの妊婦が、こうした生命の危機を伴う周産期事故についての知識があるでしょうか?
私自身、出産を経験し、産科医療が大変な状態にあること、また、妊婦にある意味、正しい情報が提供されていないという現実を強く感じました。
早期剥離の本当の怖さは妊婦本にも書いてありませんし、また、出産施設でも教えてくれません(教える施設もあるかと思いますが)。妊婦本には、「一刻を争う状況に」までしか書いていません。赤ちゃんの命に危険が及んだり、母体が危険になることなどには触れられていない気がします。
しかも、早期剥離は、200-300人に1人ぐらいの割合で発生すると聞いています。大半の人が知らないで済むことだとは思いますが、この発生頻度は相当高いものだと感じます。
私自身、早期剥離の経験はありませんが、実は大変親しかった友人でなった方がいたため(死産でした)、怖さを知っています。こういうことを知っていると、臨月間近は無理をしない方がいいなどの自衛策を取ろうと自分なりに考えます。自分自身、早期剥離の経験はなくても、次に妊娠した時に、明日はわが身ではありませんが、起こりうる可能性は全くないと言い切れないと自分では感じております。
そうした意味でも、出産施設は、もっと正確な情報を提供すべきではないかと思います。
日本では、自然分娩での感動的な出産を!という、出産自体を美化する風潮があると思います。出産施設によっては、それを売りものにし、出産が医療処置が介入することすら表に出さずに、ただただ美化しているようなところも多いように見受けられます。
妊婦が、お産の危険性などをもっとしっかりと教育されれば、中には妊婦が異常を早期に察知することにより、不幸な結果が防げるような周産期事故もあるのではないかと感じています。
妊婦側としては、こうした正式な?お産についての知識についての教育が今後きちんとされていくことを強く望みます。
なな先生を初め、多くの先生方の力で、ぜひとも、こういった危険性も含めた、出産についての本当に正しい知識についてを妊婦に教育してもらえるようになることを期待したいです。
何時も、目が覚めるような知識を教えて下さいまして、
本当にありがとうございます。
どのブログも読者層が違いますので、ここにも記して下さったことは、
非常に意義深いことだと思います。
これまでは、恥ずかしながら学会や学術的な講習会ばかりに出席していました。
しかし、先生にこれだけの知識を授けて頂いて「このままではいけない」と、強く感じております。
医療問題を扱う講習会等にも参加し、授かった知識を自分なりに吸収して発信して行かなくては、進歩していかなくてはなりません。
勇気が出てきました。
本当にありがとうございました。
あの第三次試案と、鶴亀先生が教えて下さったガイドラインを読むと、
どうも(3)のような気がしてきます。
お褒め下さいまして、ありがとうございます(笑)。
前置胎盤の患者さんが、丁度この時期にお産をされ、
笑顔で退院されて行ったこと自体が、意味ある偶然だったのかも知れませんね。
全ての妊婦さんに、幸せなマタニティ・ライフを過ごしてほしいと、常々思っています。
しかしそれは、お産に対する必要充分な覚悟と、
良いお産に向けた健康増進があってこそ、実現できるものです。
こうして妊娠・出産の恐ろしい部分も伝えて行くことによって、
真の意味での「幸せなマタニティ・ライフ」につながってくれたら、
こんなに嬉しいことはありません。
>多くの人に、理解が浸透して初めて、産科、小児科を目指す学生さんが増えてくるのかもしれませんね。
前向きです(笑)! 素晴らしい。
前置胎盤&切迫早産で出産しました。
前に書き込んだときはかけなかったのですが、実は私、車いすで日々生活をしています。
一度目に流産したとき、やっぱりこういう体だと子供は産めないのかなと半分あきらめていたんです。
それが解禁した途端すぐ出来ました。うれしかったです。
私はこういう体なので、当然選んだ病院は総合病院でした。
自分の出産がどういうことになるのか、市販のマタニティ本?とか読んでも分からなくて不安でした。
ネットで探しても、さすがに障害者の出産のことはやっと当事者のHPが1件ヒットしたくらいでした。
でもそうやっていろいろ調べたからこそ、出産に関する周産期の事例などを読むことが出来ました。
そして、よく出てくる例えば何%という数字。
あれは一体何のために出している数字なんでしょう。
今回問題になっている「胎盤早期剥離」にしても、たとえ数%の確率でも、自分がその数%に入るか
どうかなんていうのは誰にも分からないわけです。
妊婦に余計なストレスを与えないための安心材料として、それが起こる確率を記載しているかもしれ
ませんが、確率が低ければ低いほど「自分には関係ない数字だ」と勘違いする人がいても仕方がない
と思います。
私は出産が怖かったです。自分が障害者ゆえ、障害児の生まれる確率、子供が死産する確率、自分が死ぬ確率・・・。
その数%に自分が入るかもしれない・・・。
それらがお腹が大きくなるにつれて、段々と、どーん、来るなら来い!という気持に変わっていきましたが、
死産を考えたときだけは本当に怖く思いました。
手術室のベッドの上で「はい、麻酔かけますよ」とマスクをされるまで「この子に会うことが出来るかな。
もし私になにかあったら、パパとはさっきが永遠の別れになるのかな」などと本気で考えたものです。
麻酔から醒めたとき、自分がここにいることが本当に嬉しかったです。
病院では「母親学級」が開かれると思います。
そのときになぜ、周産期の本当の怖さを教えてあげないのでしょう?
私も参加しましたが、あまりそういった怖い話はされませんでした。
病院が、直接、そういう万が一の怖い話をされるのは「母親学級」の場以外にないと思います。
もうされている病院もあるのかもしれませんけれども・・・。
体に持病があるような、少なくとも健康ではない妊婦さんは自分で積極的にいろいろなことを調べているようです。
でも健康な妊婦さんほど、その辺あまりにも無頓着というか、勉強がたりないというか・・・。
お産の急変は健康な人にも訪れる可能性があるのに。
友人は「あんたみたいに、そんなマイナスなことばっかり調べてると本当にそうなっちゃうから私はしないよ」と言って、平穏に、そういうニュースには目隠しするように避けて過ごしていました。
私は「そうじゃない、覚悟の問題だよ。私はあなたみたいに健康な五体満足の体じゃないもの」
というと「だったらなおさらプラス思考だよ!」
なんだかぜんぜん話しがかみ合わずその話はそれっきり(苦笑)
でも、産婦人科の先生に知ってほしいのです。
お産は100%安全だと思っている彼女のような人はたくさんいます。
なんとかもうちょっとお産に対して危機感を持ってほしいと思っているのですが、なかなか素人の言うことは聞いてくれませんね(脱力)
ま、車いすの人間が説明しても(それはあんたがそういう体だからだよ)という声に成らない声を感じてしまうときもあります。説得力ゼロなんですよね。
なんだか、ダラダラととりとめもなく書いてしまいすみません。
最後に、私の赤ちゃんを取り上げてくれた先生、このブログを読んでくれているといいです。
ただでさえ大変な前置胎盤で、その上車いすで、きっとすごくご苦労をおかけしていました。
本当に感謝しています。
連投すみませんでした。
娘の夜泣きで起きました。遅い時間に失礼致します。
私は世間に蔓延している平和主義者の1人でしょうか。
昨年、早剥で女児を出産しました。
36W2D、母親学級に夫婦で参加した夜、絶え間ない激痛に襲われました。
初めはラキソベロンの飲みすぎかとトイレにこもっていましたが
いつもの便秘と違う激痛に異変を感じ、病院へ連絡を取り駆け込みました。
深夜12時頃。病院は昼間に母親学級した部屋にまでベットが置かれた満員状態。
看護師さん(助産師さんかもしれません)が対応してくれました。
『続く激痛』 『胎動の停止』 を訴えました。
動かないで!と言われても身体が動いてしまう痛みに耐えながら心拍の確認。
赤ちゃんの心拍は確認できました。
内診によるものか、少量の鮮血。
その後8~9時間先生に看ていただけませんでした。
(朝までエコーを撮ってもらえませんでした。)
『病院は限られた人員・施設でしか機能できない。
だから不慮の事故も起こる』
そのせいで愛する我が子をお空に返すことになってたら、、
剥離が進んでてDICになって私も消えていたら、、
娘を失っていたら私は、娘と私を失っていたら主人は、
緊急度の低い症状と判断した看護師(助産師)を強く恨んだと思います。
sunnyさんのおっしゃるように、妊婦さんへの産前教育は、
母親学級が妥当と私も思います。
ちょっと辛口なお話になりますが、
妊婦本や、メディアによる歪曲したお産に関する情報・イメージは
「売ること」だけを目的にしています。
本当のことを書いたら売れませんから(笑)、書きません。
母親学級で「分娩時の異常」の項目を担当しています。
常位胎盤早期剥離、弛緩出血、羊水塞栓など、リスクの高い病態についてもお話ししています。
が、反応はイマイチ、いえ、それ以下かも知れません(苦笑)。
会陰切開、帝王切開といったあたりは、まだ我が事と感じてくれるようですが、
稀な病態は、どうも自分にも起こり得ることという実感がないようで、
興味を持って聞いてはもらえないという印象です。
「どうやったら興味を持って聞いてもらえるだろう」、
学校の先生の気持ちが、ちょっとわかるような気がします(笑)。
お産の時には情報もなく、大変な思いをなさったことと思います。
>お産は100%安全だと思っている彼女のような人はたくさんいます。
産婦人科医が平素痛感していることです。
多くの産婦人科医は、周産期の本当の怖さを教えていないわけでは、決してありません。
ゆきたんさんが「脱力」とおっしゃっているのと、きっと同じ気持ちです(笑)。
ゆきたんさんがお話すると「素人だから」と言われてしまうのと同じように、
我々が話すと、今度は「お医者さんは、怖い例をたくさん見るから怖いことばかり考える」となってしまうのですよ(すごいでしょ)。
危機感も興味も、個人の価値観の問題ですので、それを持たない人に持たせるようにするのは、
他人になし得る業ではないのかも知れませんね。
妊婦さんの立場で、ゆきたんさんのように感じて下さる方がいらっしゃったこと、
非常に嬉しく心強く思っています。
ありがとうございました。
よく、KAZさんもお嬢ちゃんも、生還なさいました。
早剝の発症の仕方は、人によって様々です。
ほとんど無症状なのに、既に重篤な状態になっている方、
早剝を疑わせる症状が出ていても、診断に迷う方。
↓この方のように、受診するのも気が進まない程度の状態から
一気に進むこともあります。
http://d.hatena.ne.jp/Hirn/20080507/p1
>『病院は限られた人員・施設でしか機能できない。
だから不慮の事故も起こる』
医療事故のほとんどは、システムエラーであると言われています。
こんな状況で、さらに医療費を削減しようとしている政治家を選出してしまったことを
国民の一人として、苦々しい思いで見ております。
搬送先病院では全身麻酔の緊急手術で出産をしました。
剥離はゆっくり進行していたそうです。
娘は呼吸障害がありましたが経過は順調で、私も重度の貧血でしたが輸血は必要ありませんでした。
入院中に出産前夜の話をしたら、ちゃんと『痛い!!』って訴えたの?と言われました。
確かに、激痛でしたが自力で歩けました。
そこらへんが軽症と判断された原因でもあるのでしょうか。
今は母子共に健康で、毎日楽しく育児をしております。
しかし、なんであのとき看護師(助産師)さんは『早剥』を疑うことが出来なかったのだろうか?
いまだに疑問で、早剥関連のニュースを見ると強く思い出されます。
『出産は命がけ』『胎盤早期剥離は恐ろしい病気』・・
妊婦雑誌にも、母親学級でも強調されない情報なので、注意して欲しくて周りに伝えています。
でもそこで必ず『エー!?あそこの病院ってそんな対応だったの!?』といった悪口になってしまいます。
これではいけないと思い、娘が無事に1才を迎えられた報告を兼ねて、そのときの看護師(助産師)と先生に手紙を書こうか?
いや、恐らく病院側の対応は正常で、カバーしきれない数パーセントの患者が私だったから仕方が無いのかもしれない?
はっきりさせたい気持ちと、ただでさせ多忙な産婦人科病院に迷惑をかけたくない気持ちとで心が揺れてしまいます。
乱筆乱丁、ご無礼がありましたら本当に申し訳ございません。
お忙しい中読んで頂きありがとうございました。
文章がエラーでうまく送信できておらず失礼致しました。
過疎の町で内科開業医をしておりますYasukoと申します。
なな先生のブログを読んで、先生の超人的な体力と沈着冷静な判断力、そして何よりも暖かいお人柄に感心しました。
私の後輩もなな先生に負けないぐらい頑張っていたのに、大野事件がきっかけで産科をやめてしまいました。とても優秀な産科医だっただけに、残念でたまりません。彼女が気力を取り戻して、また戦場へ戻ってくれる日が来ることを祈っています。ところで、ここに書くのは適切ではないかもしれませんが、今日、過去ブログを読んでいて、なな先生がご結婚されたことを知りました。遅ればせながらおめでとうございます。やっぱり支えあっていける人がいるということは幸せなことですね。これからも、お仕事に家事にブログに頑張ってくださいね。遠くから応援しています。
ブログを始めて気づいたことに、
KAZさんのように、本当は医療機関に聞きたいことがあるのに聞けずにいる方が
何と多いのだろう、ということがあります。
「忙しい産婦人科病院へ迷惑をかけたくない」と、他者を慮るがために生じる悩みではないでしょうか。
でも、こういうことは聞いてしまっていいのだと思いますよ。
自分のところでお産してくれた方が、聞きたいことも聞けずに悩んでいると知ったら
主治医の先生も切なくなるかも知れません。
KAZさんが、最良の選択ができますように。
温かいメッセージを、ありがとうございます。
後輩の方のお話、ショックです。
ですが、辞めたいという同志を引きとめるだけのものは、ないのが現状です。
悲しいことです。
今は、お元気になさっているのでしょうか。
内科開業の先生も、昨今の医療制度の変化の影響で
決して楽ではないとお聞きしています。
お身体を大切に、お互いやれるところまで頑張りましょう。
言う事に驚きと緊張しながら
読んでいました。
確かに私も出席した事がある母親学級は、
あらゆるケースに対してのお話は少ない、
あるいはなかったですね。
なので他人事のように聞こえてしまうんだと思います。
帝王切開や仮死状態などでも、
当時の私は他人事のように聞いていましたから。
実際自分がそれらを体験して、やっと分かるんだと思います。
(本当は話しを聞いて実感した方が良いのですが・・・)
私自身も胎児が仮死状態で帝王切開になった時は、
どんどん落ちていく心拍数を見て、
「赤ちゃんが死んじゃうの!?」
と、この世のものと思えない恐怖心を味わったので、
実際赤ちゃんを亡くされた方や、
残されたご家族のお気持ちは計り知れないものだと思います。
なので住んでいる地域の保健所に、
母親学級でリスクについての説明もして下さいとお話をし、
パンフレットも置いて貰っています。
妊婦さんの腹部の激痛での来院は、本当に血圧も上がるしさまざまな最悪の状態を想像して寿命が縮みそうになりますね。
早剥、切迫子宮破裂、HELLP症候群もありました。産科的かと思えば、移動性の虫垂炎も経験したことがあります。
では、どれだけ妊婦さんが「知識」として必要なのか・・・という点では、知識ではなく「智恵」ではないかと思っています。
母親学級で、妊婦さんたちに子宮の中の赤ちゃんの様子を書いてもらっていますが、9割近くの方が子宮の中にキューピーさんのような愛らしい赤ちゃんが浮いているだけで手がとまってしまいます。臍帯とか胎盤とか思い浮かばないようです。赤ちゃんは魚のように羊水の中で呼吸しているかと思っていた方も、けっこういます。子宮の様子を正確に描けなくても、かまわないと思います。書いてもらう目的は、早産予防(何週になったら赤ちゃんは胎外生活可能か)、高血圧症予防(母体に負担のかからない生活)の意識づくりの一歩としてイメージしてもらっているからです。
母親学級には知識を重視する講義形式と、妊婦さんが自主的に考えていく力を引き出すことを目的とした方法とに大きく分かれると思います。
早剥などハイリスクの知識を教えることも意味があるかと思いますが、妊婦さんたちが覚えられることには限度があります。ですから知識ではなく、「何に気をつけたらよいか」自分で危機感を持てること、「どんな時にどのような対応をしたら良いか」行動できる智恵が必要なのではないかと思います。そのためには、山のような知識ではなく、「出産は命がけでもある」その女性の智恵が積み重ねられた一言で十分ではないでしょうか?
それは、その次にくる子育てにもつながっていくと思います。子供を育てるのに、医学書のように子供の病気を知る必要はなく、「なにかおかしい」と気づくこと、全身で子供を観察しているお母さんたちの智恵が必要なのだと思います。
産科のスタッフも妊婦さんにはおばあちゃんのような気持ちで「妊娠、出産の心構えを」来院のたびに声をかけてあげましょう。ちょっとした一言でよいのだと思います。
産科の先生がこれ以上、刑事罰の対象にされないように、ひとりひとりの生きるための智恵を深めていきましょう!
ところで、先生、リスクにしても剥離が病気であるってことにしても、妊婦になってからではなく(一種の不安を与えないかと・・)母親になる前にもっと、命とか妊娠について知識をつけたほうがいいのではと思いました。
そしてできるだけ、ご夫婦で一緒にが理想的な気持ちがします。
モンスター(配偶者による暴力、暴言)と言われるような患者とトラブルになっている産婦人科の病院もあるようですし、私たちは、色んな意味で、先生方と気持ちを一つにしていくことが大切なような気がします。
お産の前に、親、家族になる意味とは、社会の色んなルールにつながっていることに自覚を与えるような世の中に変えていく必要もあると思いました。
また違う視点からのコメントを、ありがとうございます。
今まで母親学級で、目の前の妊婦さんのことだけを考えてお話していました。
でも、それだけではなかったのですね。
お産が終わった後でお話の意味を感じ、そしてみっくんママさんのように
お産に関する正しい知識の啓蒙を手伝って下さる方もいるのだ、ということに気づきました。
そう思うと、やはりきちんと母親学級をやっていこうと思えます。
勇気をもらいました。ありがとうございます。
>知識ではなく「智恵」
なるほど。
智恵、しかもそのまま日常生活で使えるような智恵が望まれるのでしょうね。
より患者さんの立場に近い助産師・看護師さんならではの発想です。
我々医者も、見習わないとなりませんね。
「本来お産は命がけ」ということは、
「安産祈願」「母児共に健康です」という言葉が何故存在するか、
さらに「古い分娩台帳を開くと、うちの病院でも100人に1人くらい亡くなっている時代がありました」
という趣旨でお話をしています。
この話は、早剝の話に比べると手ごたえが良いようです(笑)。
妊婦さんの心を捉えるのは簡単ではありませんが
「おばあちゃんのような視点」、これ、使わせて頂きます(笑)。
この間の交流は、心温まりましたね(笑)
>母親になる前にもっと、命とか妊娠について知識をつけたほうがいいのではと思いました。
本当に、そう思います。
義務教育の過程で必須にしてほしいくらいです。
同時に、「どの職業の人も、同じ人間なのだ」、つまり
学校の先生も警察官も裁判官も芸能人も医者も、
みんな、職を離れれば普通に生活する一般人なのだ、ということも、
この年代から身に着けてもらうといいかも知れません。
そうすると「社会のいろんなルールにつながっている」ということも、自然と理解できるのではないでしょうか。
妊婦教育は、残念ながら、きちんとする出産施設もあれば、しないところもあります。私は後者の方でした。母親学級参加者で、子宮筋腫をお持ちの方で予定帝切の方がいたのですが、その方が、
「手術で何かあって、輸血が必要になった場合(輸血ができない個人病院だったので)大丈夫か?今妊婦の受け入れ拒否が騒がれているが、どういう体制になっているのか?」と質問されたのです。そしたら、
「まず、そんなことは(輸血が必要になるようなこと)ないし、万一、何かあったとして、近くの○○か××病院に搬送されますから、大丈夫です」って助産師が答えたんです。
その時、こんないい加減な話ではなく、きちんとリスクについても正確に話してほしいと思った次第です。素人の私が聞いても、かなりいい加減な答え方だと思いました。
周産期事故の発生率は、交通事故と同じかそれより多いぐらいではないでしょうか?あまり、恐怖感を与えるのはよくないかもしれませんが、免許更新の時に見せられる、交通事故の講習ビデオの、出産バージョンなどを作って流すと、出産の怖い面というのを、みんな実感するのではないかと漠然と思いました。
一方「妊娠中毒症の予防、体重や血圧管理」はかなり滲透しており、それは「妊娠出産が命がけ」ゆえにリスクを減らすための指導だと思うので、関連して、母体生命が重篤になる病態がありうることを周知できないでしょうか。
「分娩時の異常を説明しても反応がイマイチ」なのは、「母親学級」が文字どおり「胎児を育て出産し授乳する役割」に重心があるためだと思います。うまく言えませんが、「妊娠出産というリスクに直面する人間」に軸足を移した情報提供を求める女性は少なくないし、それは幸せなマタニティライフと相反しないと思います。
KAZさんの体験や静岡の「早剥DICの母体死亡」で気になることがあります。KAZさんは異常な腹痛で病院に駆け込んでから医師の診察までに8時間かかり、他院に搬送され手術で助かった。静岡の患者は夜中に病院に電話して助産師に自宅待機を指示され、早朝入院で医師の診察・超音波検査を受け早剥が診断されたと伝えられます。「そんなに危険な状態だというなら、もっと早く診てほしかった」母子ともに助かった方でもそう思う。まして妻子を亡くした遺族ならそう考えるでしょう。
早剥で重症DICでは、産科医が救命しえない症例があるし、先生が書かれたような産科医が死力を尽くして母体を救えた例もある。しかし、このような重大なリスクが、産科医師以外の医療従事者に周知されていないのではないか。
高リスク分娩を扱う施設の助産師・看護師は症例を経験されていますが、助産師でも認識が必ずしも十分でない方もあると思います(危機感が薄い人は、医療介入に否定的で自然分娩礼賛に走る)。
少子化の現代では初産婦が多く、ふつうの女性が「異常な腹痛かどうか」の自己判断は難しいと思います。
早剥の患者に自宅待機を指示したのが産科医でなくとも、受診が遅れて救命できなければ、治療にあたった執刀医が責められることになりかねない。 おかしいと思ったら躊躇せずに病院に問い合わせるように患者を教育する一方で、応対する助産師等の教育も必要ですし、さらに私のような他科の医師も、重篤な病態を念頭におくことが重要だと思います。
先生がブログで書いて下さることは、大変勉強になります。
お話のエピソードは、母親学級での助産師の返事としてはそう悪いものでもないように感じました。
(この時点で既に、私自身も患者さんの気持ちが理解できていないのかも知れませんが。)
でも、「これ以上の説明は、先生からお話してもらいましょう」のひと言が必要だったかも知れませんね。
ビデオは、有効な方法だと思います。
画像の持つ説得力は、言葉の持つものとは質がちがいます。
実現の可否はさておき、ヴィジョンとしては有効ですね。
丁寧なコメントをありがとうございます。
日々妊婦さんと接していると、妊娠・出産に対する意識が
人によって非常に様々であることを痛感します。
先生のおっしゃるように、
「リスクに直面する人間」に軸足を移した情報を求める方もいらっしゃいますし、
軽微な症状でもすぐ病院に電話をする慎重な妊婦さんもいます。
その一方で、出血・腹痛で来院した早剝の妊婦さんに、寿命の縮む思いでエコーをあてている最中に
「男の子ですよね?」と聞かれて、意識が遠のきそう・・・なんてことも(苦笑)。
ここまで温度差のある妊婦さんを一同に集めて教育する母親学級というシステムの、
限界なのかも知れません。
医療スタッフの教育に関しては、少なくとも見た範囲では概ね良好と評価しています。
自然分娩礼賛派は医者にもいますが、もはや信仰の域に達しているという印象です。
我々を信じて任せて下さる妊婦さんに、全力を尽くすのみと思っています。
>少子化の現代
重要なkey wordですね。
妊婦教育もある程度は社会がやってくれた時代も、あったように思います。
PETをやっています片山と申します。
凄く説得力のある文章で敬服いたします。
私のブログで紹介させていただきたいのですがいかがでしょうか?
とても光栄です。ありがとうございます。
何卒よろしくお願い致します。
なぜかトラックバックがいっぱいついてしまったようで申し訳ありません。
今後ともよろしくお願いいたします。
あははっ、なんかいっぱいあって楽しいので
あのままにさせて頂いています(笑)。
こちらこそ、今後ともよろしくお願い致します。
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