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アフラトキシンのリスクはどのくらいかまとめてみた

三笠フーズの汚染米騒動でアフラトキシンの毒性が話題です。動物実験でアフラトキシンが実験動物の100%に肝臓がんを引き起こすという実験データが話題になり、ここから、「100%肝臓がん」という言葉が一人歩きしている面もあるからです。

では、アフラトキシンはどのくらいの濃度でどのくらいの毒性をもたらすのでしょうか?ネット上で手に入るリソースをもとに、アフラトキシンの毒性を検討してみました。

実は、この記事を書くに当たって、「どうせそんな毒性があるわけないだろう」という先入観を持って調べたのですが、実際に調べたみたら、かなり深刻だということが分かりました。農水省は、業者保護を優先して販売先を隠蔽する方針を貫いていますが、何より情報の公開と詳細な調査が必要ではないかと思います。

結論を先に言うと、

1.事故米を米飯として毎日食べると、ラットがかなりの確率で肝臓がんになると言われる量を摂取することになる

2.年に1回のペースで事故米に汚染された米菓(せいべい、おかき等)を食べるだけでも、健常人10万人中あたり0.01人が肝臓がんになると言われる量を超えてしまう。

3.多くの人が、1と2の中間の量の事故米を摂取していると思われるが、その影響は未知数。ただ、かなりの影響を及ぼしている可能性がある。

図にすると以下のようになります。計算方法、情報の出典は、図の後に詳しく説明しているので、そちらをご覧ください。

Aflatoxin

(クリックして拡大)

改訂の際、図のURLを変更することがあるので、図への直リンクはご遠慮ください。(リンク切れになる可能性が高いと思います)

○事故米のアフラトキシン濃度(農水省)

0.01ppm~0.05ppm(10ppb~50ppb)
http://www.maff.go.jp/j/press/soushoku/syoryu/pdf/080905_2-01.pdf

60kgの体重のヒトだとすると、

一日の摂取量を300g(米飯の場合)とすると、0.05~0.25μg/kg/日
一日の摂取量を30g(頻繁に米菓を食べた場合)とすると、0.005~0.025μg/kg/日
一日の摂取量を3g(月一回程度米菓を食べた場合)とすると、0.0005~0.0025μg/kg/日
一日の摂取量を0.3g(年一回程度米菓を食べた場合)とすると、0.00005~0.00025μg/kg/日

ただし、この計算は、事故米のアフラトキシン濃度が農水省の発表の通りであり、均一に汚染されているということを前提にしています。つまり、事故米のある部分にアフラトキシンの濃度が特別高い部分があれば、局所的にこの数倍、あるいは数十倍の濃度で汚染されている可能性もあります。逆に、農水省が測定した場所が、たまたま濃度が低かっただけという可能性もあります。

○JECFA

JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)の安全性情報によると、体重1kg当たり1日1ngの摂取(体重60kgで0.06μg)で、アフラトキシン原発性肝臓がんになるリスクが健常人10万中0.01人、B型、C型肝炎キャリアで0.3人。

(出典:厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会食品規格部会の資料
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/dl/s0311-5h_0001.pdf
最終的な出典は未確認)

→この濃度は、事故米を一日1g程度摂取した場合に相当。要するに、事故米の摂取が一日1g程度であれば、健常人10万中0.01人、B型、C型肝炎キャリアで0.3人程度ということになる。

○バークレー大学

ラットでのTD50が、3.2μg/kg/day
アカゲザルでのTD50が、8.2μg/kg/day。

(出典:バークレー大学の化学物質毒性情報)
http://potency.berkeley.edu/chempages/AFLATOXIN%20B1.html
http://potency.berkeley.edu/pdfs/ChemicalTable.pdf

→TD50は50%に毒性が表れる摂取量。50%というのは統計的理由で決められているので、「50%の確率」という意味ではなく、この程度の濃度で毒性が表れるという意味で解釈されるべきです。

○Woganand & Newberne(東京都健康安全研究センター等)

G. N. Woganand P. M. Newberne, Cancer Res., 27: 2370a.”2376,1967.

1967年の公表された上掲の論文で、15ppbで100%のラットが肝臓がんにかかわることが示されています。原著論文は上記のものですが、データは以下の総説記事から見ることもできます(http://cancerres.aacrjournals.org/cgi/reprint/29/1/236.pdf)。これは、アフラトキシンの恐ろしさを世の中に知らしめた重要な論文のようで、多くの公的機関もこのデータを使っています。この例としては、以下のサイトがあります。

アフラトキシンは特に発ガン性が強いことが特徴です。わずか15μg/kg(μg:百万分の1
g)のアフラトキシンB1を含んだ飼料で飼育されたラットは、全て肝臓ガンになりました。

出典:東京都健康安全研究センター
http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/health/08/08.pdf

このデータは他のデータ(μg/day/kg)と異なり、飼料中のアフラトキシン濃度を基準にした結果ですが、すべてのラットが死ぬという15ppbは、事故米中のアフラトキシン濃度とほぼ同じレベルです。つまり、ラットが事故米を食べ続けると100%の割合で肝臓がんになることを意味します。

他のデータと比較するため、μg/day/kgに換算すると、ラットが摂取する飼料の量12.5g/day、ラットの体重を300gとして0.63μg/kg/dayになります。これは、バークレー大学のTD50より、5倍厳しい結果です。上にリンクを張った総説記事のデータからは、飼料の種類によって大幅に毒性が弱まることが示唆されていますが、バークレーの結果との差異も、このことによるものと思われます。

ちなみに、この実験では、100%の確率で肝臓がんになる量が定められたわけではなく、あまりにも毒性が強いために、毒性の強さを測定できなかったものです。つまり、実際には、この量よりはるかに少ない量でも「100%肝臓がんになる」可能性があるので、その点には注意する必要があります。

<追記 当初、原典不明の情報として東京都健康安全研究センターのデータを全面に出していたのですが、コメント欄から匿名で教えてくださった方がいたため、出典を変更させていただきました。この場を借りてお礼申し上げます詳しい経緯はコメント欄をご覧ください>

○余談

にんじんなどのセリ科の野菜にアフラトキシンの発がん性の抑制効果があるらしいです。

University of Washington, Apiaceous vegetable constituents inhibit human cytochrome P-450 1A2 (hCYP1A2) activity and hCYP1A2-mediated mutagenicity of aflatoxin B1., 2006 Sep;44(9):1474-84. (PMID 16762476)

論文は孫引きですが、英語版のWikipediaで見つけました。
http://en.wikipedia.org/wiki/Aflatoxin

上にリンクを張った総説記事で、飼料の種類によって10倍程度の毒性軽減効果があるので、それに類する効果は期待できる可能性があります。まぁ、もとの毒性が強すぎて10倍くらいじゃ大して変わらないかもしれませんが…。

○改訂履歴

画像に間違いが含まれていたため訂正しました(9/11 2:16)

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コメント

>ただし、この計算は、事故米のアフラトキシン濃度が農水省の発表の通りであり、均一に汚染されているということを前提にしています。

アフラトキシンは測定限界以下でも有意に有毒なので、カビ発生してる米は全部、測定限界以下ぎりぎりとして評価すべきですよね。

ってか、なんで捨てないのかと。

>健常人10万中0.01人、B型、C型肝炎キャリアで0.03人程度ということになる。

キャリアは30倍なので、0.3人じゃ?

投稿: | 2008年9月11日 (木) 01時00分

ラットに関してはたぶんこれ
Wogan, G.N. , and NeWberne, P.M. : Dose-Response Characteristics of Aflatoxin B1 Carcinogensis in the Rat, Cancer Res., 27, 2370~2376, 1967
たぶん医学部か理学部の図書館なら手に入るはず(Opacで検索してみてください)

総説ならWebで読めて
http://cancerres.aacrjournals.org/cgi/reprint/29/1/236.pdf
のTable 3近傍にまとめられている。

投稿: | 2008年9月11日 (木) 01時28分

> アフラトキシンは測定限界以下でも有意に有毒なので、
> カビ発生してる米は全部、測定限界以下ぎりぎりとして評価すべきですよね。

たしかに。
上の図で言うと、米飯レベルの摂取量なら、
0.01μg/day/kgくらいで検出限界ですよね。

そもそも考えるまでもなく、そういう規則になっているわけですが…。

今回の事件があまりにもおかしいのです。

>健常人10万中0.01人、B型、C型肝炎キャリアで0.03人程度ということになる。

おっしゃるとおりです。
転記し間違えました。
さっそく訂正させていただきました。

コメントどうもありがとうございました。

投稿: 情報学ブログ | 2008年9月11日 (木) 01時33分

あと、情報提供をしてくださった方ありがとうございました。
家で調べられる範囲で横着してしまったもので…(笑)。

ちなみに、医学生理学分野は、昔勉強していたので、
基本的なことは理解しているつもりですが、
もうすっかり離れているのが現状です。
ただ、せっかくのアドバイスですので、
この記事の反響次第で考えてみることにします。

今後ともよろしくお願いします。

投稿: 情報学ブログ | 2008年9月11日 (木) 01時40分

総説の方、軽く見てみました。

Table2がまとめですね。
しかし、この表だと1日あたりではなく、
総摂取量になっていることを考慮しても、
本文で引用した資料より、
若干、毒性が低いことになってるんですけど…。

ちゃんと読んでないのですが、
Table3を考慮すると、
どうも、他の物質が共存すると
毒性が下がってしまうということなんじゃないかと思います。

いったいどうなのでしょうか。

投稿: 情報学ブログ | 2008年9月11日 (木) 01時54分

Table2は急性毒性で、いま騒いでるのはイニシエータの方じゃなかったでしたっけ?

でTable3の数値に関してはそうで、孫引きに次ぐ孫引きで、わすれされているのではないでしょうか。

投稿: | 2008年9月11日 (木) 02時08分

浦島太郎のような自分にちゃんと解説していただき、ありがとうございます。

そもそもタイトルが、Acute and Chronic...なのだから、
区別しないとダメですね。
ほんとお恥ずかしいです。

TD50が明記されていないので
Table3のデータから計算してみたら、
以下のような感じになりました。

他の物質が混合している場合(Rossetti)
TD50 200ppb

純粋なアフラトキシンB1の場合
15ppbで100%が肝臓がんになる(TD50は計算不能)

純粋なアフラトキシンB1の場合は、
本文で引用した東京都健康安全研究センターのデータと
完全に一致し、
また、他の物質が混合している場合は、
バークレー大学のデータとほぼ一致することが分かりました。

要するに本文の議論は間違っていなかったことが証明された形になりました。
ほんとどうもありがとうございます。

投稿: 情報学ブログ | 2008年9月11日 (木) 02時37分

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