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事故調シンポ「患者と医療者が手をつなぐには」(3)

 「医療の良心を守る市民の会」が開いた「中立公正な医療事故調査機関」の設立を求めるシンポジウム。それぞれのパネリストによる発言後、会場からの質問を交えてのディスカッションが展開された。(熊田梨恵)

【今回のシンポジウム】
事故調シンポ「患者と医療者が手をつなぐには」(1)
事故調シンポ(2)

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会場 死因究明制度の第三次試案では、刑事手続きの対象に「重大な過失」が入っているが、どのような事例が考えられ、誰が認定するのか。

佐原康之・厚生労働省医政局総務課医療安全推進室長 「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」(以下、大綱案)では「重大な過失」ではなく、「標準的な医療から著しく逸脱した医療」である場合とした。医療の専門家を中心とした医療安全調が法的な過失の判断でなく、あくまで医学的にどうなのかということを判断していただく。


会場 「福島県立大野病院事件」で亡くなった女性は、手術までの25日間入院していた。その間、(被告だった医師は)助産師から「設備の整った大きな病院に転送すべき」と助言されていた。執刀医の立場だったら、どう対応したか。

古川俊治・自民党参院議員
 客観的にこの病院で対応できないと思ったら、そのように対応する。

国立がんセンターがん対策情報センターがん情報・統計部、渡邊清高室長
 当時の状況については分からないが、その医療機関でできることや、問題が起こったときの対応にはリスクが伴うことを説明した上で、本人や家族の判断を仰いだと思う。


会場 2人(古川氏、鈴木寛・民主党参院議員)は事態を甘く考えているように思う。大事な問題は中立的第三者機関の構成メンバー。医療者側に何度も裏切られた不信感が、わたしたち患者側にあることを前提に考えるならば、医師を中心とした医療安全調は疑問。

古川氏
 医療行為を評価するという専門的なことに関しては、医師が中心になるべき。医療過誤専門の弁護士もいるが、弁護士は法律の専門家。手続きなどの法的な部分を法律家が一緒に見ていくということでは。

鈴木氏
 仮に弁護士を中心とした構成にするとしたら、医療事故調の目的や機能、通常の刑事・民事手続きとの整理などを一から違うデザインでやり直すことになる。厚労省案や民主党案ともかなり違う、第三の制度設計になる。現場に本当に必要なら、議論を深めればいい。


会場 (医療事故に関する)高度障害および死亡者に対する賠償額の程度は。支払者を誰にし、財源をどう確保するか。

古川氏
 失われた利益の計算方法が民法709条で決まっている。医療過誤を特別の法制度下に置くならば、新たな立法措置が必要。医療以外の分野で過失ある行為によって死亡した場合との比較において、医療だけを特別の損害額で認定するという説明はできないと考える。無過失制度構築については、財源的に許せばあり得ると考えるので、医療機関や公費の拠出による制度運用が考えられる。上限額が決まっていて予算立てをしていくという措置になる。このように無過失の部分は補償として、ある程度抑えられた一律の損害賠償額。過失賠償は遺失利益、あるいはその他の損害の担保という考え方になる。

鈴木氏
 民法709条とは別の体系を考えるべきということなら、一から技術的にやり直さなければならないので、相当な作業になる。財源論については、全額というわけにはいかないが、医療界全体の問題だから、一定の公費投入については否定すべきではない。


会場 大野病院事件について、刑事上の過失は別として、医療者側に反省点はないと考えるか。もしないなら、再発防止は考えられないということになる。

渡邊氏
 医療者と患者という関係でも課題は残る。どこまで妊娠・出産のリスクを説明するかということ。(体制的に不備のある)その場所で医療行為をせざるを得ないという医療提供体制や、診療報酬の体系についても議論の俎上(そじょう)に載せていくべき。学ぶべきことは多くある。

安福謙二弁護士
 ここでの発言に関しては、(大野病院事件の)弁護人だった立場という制約から逃れることはできない。本件裁判では院内事故調が指摘した論点が3つあったが、それで十分だったかどうかは誰も議論していなかったし、今後議論されるかどうかも知らない。検察官は1つ(癒着胎盤の無理な剥離=はくり=)だけ取り上げた。だが、(調査報告書で挙げられた)対応する医師の不足や輸血対応の遅れについては、検察は裁判では取り上げなかった。また、捜査段階での警察側の逮捕理由と、起訴状にある理由では違うところがある。それらも含め、弁護人であるわたしは起訴された事案について申し上げるのが精一杯。それを踏み越えることは弁護士倫理にもかかわってくるので、きょうの段階では答えられない。いずれ時期が来れば、この事件は徹底的に検証されるだろう。産科学会だけでなく他学会など、行政レベルでも大いに議論されるべき。国民にとって医療とは何か。どこまで求めるのか。そう求めるのが可能なのか。そういったことも議論されないといけない。大野病院事件が今日的な問題を凝縮している。患者や遺族のことを考えると、この事件がここで終わったとは到底思えない。

木下正一郎弁護士
 直接かかわっていないので、押さえている事実経過に差がある。遺族の方がこの事件をどう思っているか、患者側でかかわる人間として、あらためてお話を伺いたいと思っている。再発防止という観点から反省すべき点はあると思う。知っている事実としてだが、他の医療スタッフから「救援を求めた方がいいのでは」という話があったにもかかわらず、手術が続行されたということについては、もう一度徹底的に調査されるべき。裁判で明らかにならなかった真相究明という点についても見返すべき。

鈴木氏
 医療側の現場担当医師や医療者、病院長、(福島)県庁などを含め、反省すべき点は大いにある。わたしが知り得る限りの範囲で述べる。(被害者が)亡くなられた直後から、担当医や病院長、県庁は、家族に納得のいく説明を何度でもすべきだったと思う。なぜできなかったかを検証すべき。医師本人と遺族のコミュニケーションをなるべくさせないように持っていったのは、県庁の担当官の指導だったと聞いている。都道府県庁は事なかれ主義の習性が根深い。わたしが2年間(山口)県庁にいた時、本人と担当課長などがわびに行くのが筋という時に、「出さないでください」ということがあった。また、県庁職員は人事異動があり、(住宅の)立ち退き問題などを担当していた人が医療関係の部に来て、極めて事務的に対応する場面が散見された。そういう問題と医療事故とは本質的に性格が違う紛争。県庁の意識としては、「出先」機関である県立病院の病院長と意見が分かれると、今は違ってほしいと思うが、病院長が赴任して数か月かしかたっていない本庁の担当係の指示命令に折れざるを得ないということがあった。

古川氏
 報道や判決内容など極めて限られた情報しか知らないが、今回の判決は刑事判決としては妥当と考える。本来は民事で処理されるべきものが、刑事告訴されたという点で、おかしいと思っていた。わたしは外科医だが、(通常の医療でも)過失がなくても、もっとうまくできたのではと悩み、考えることが医師にはある。そういうプロフェッショナルの考え方をつくっていくことこそ医療界の役割。そうして反省することで、わたしは少なくとも1年目より10年目の方が間違いを起こす可能性は少なくなっている。


会場 行政処分は(厚労省の)医道審議会で行っているが、実質は刑事処分の確定を受けたもので、独自に行政処分を受けたものはほとんどなかったと思う。再教育を中心に、医師免許の取り消しや停止を行うには現行の医道審議会では難しい。刑事処分を前提とせず、それに先行する行政処分について患者と医療者の双方の納得・理解を得られるよう、医道審議会を発展・改組し、強化すべき。英独を参考に原則刑事処分を行わないようなことを法文化すべきでは。

佐原氏
 現状はご指摘の通り。他の分野ではまず行政処分があり、それでも著しく問題があるものに刑事処分が科される。医療分野はいきなり刑事処分という大なたが入らざるを得ないという特殊な状況。このため、第三次試案の中でもその順番を見直すことを提案している。医道審議会での審議の在り方について見直していかねばならない。

永井裕之・医療の良心を守る市民の会代表
 「東京都立広尾病院事件」の場合は、行政処分を都が行った。その後、医道審議会で刑事事件にかかわった人の処分が出た。都の行政処分には強い違和感があった。「誰が悪い」と、臭いものにふたをする感じだった。医療事故は個人の問題にすべきではなく、その背景について「なぜ」と問うべき。大野病院事件についてもそうだったと思うが、医師のミスなどとして、ふたをしてしまおうという感じ。行政だけでなく、仲間内でもそうなっていると思う。事故をなくすにはシステムをどうするかを本気で追究してほしい。医療者が医療安全に真剣になっていない。処分よりも再発防止が重要だ。

事故調シンポ「患者と医療者が手をつなぐには」(1)
事故調シンポ(2)


更新:2008/09/10 20:45   キャリアブレイン


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