ニュース宇宙誕生の謎を探るCERNのLHCプロジェクトがいよいよ始動ビッグバンの謎に迫る20年掛かりのプロジェクト「LHC」が9月10日にスイスでスタートする。(ロイター)2008年09月10日 17時09分 更新
世界各国の物理学者が参加し、スイスのジュネーブ郊外にある広大な地下施設を利用する20年がかりのプロジェクトが9月10日にスタートする。「ビッグバン」を再現し、宇宙の起源や、どのように宇宙に生命が誕生したかを解明しようとするものだ。 スイスとフランスの国境にまたがるCERN(欧州原子核研究機構)の研究センターにある「Large Hadron Collider(LHC)」と呼ばれる大型の粒子加速器で、物理学者らは粒子同士を衝突させ、宇宙を誕生させたビッグバンを小規模に再現する計画だ。 LHCでは、地下100メートルに敷設された周長27キロのトンネル内に巨大な電磁石を並べて設置し、高エネルギーの陽子ビームを加速して光速に近い速度で正面衝突させる。大聖堂のような高さの測定装置でこの衝突の反応を観測する。 コンピュータが、ビッグバンの「火の玉宇宙」のこのミニバージョンが作られるたびに何が起こるかを記録し、収集された膨大なデータは世界中の約1万人の研究者が分析し、ビッグバン後の宇宙の様子の手掛かりを探る。 創立54年のCERN(ジュラ山脈のフランス側の丘陵地帯に近い場所にある)の研究者は、「暗黒物質」(ダークマター)、「暗黒エネルギー」、余剰次元、そして特に、物質に質量を与えると考えられている「ヒッグス粒子」(ヒッグスボソン)といった概念の解明に取り組む。 「LHCは、宇宙についてのわれわれの考え方を根本的に変えることを視野に入れて構想された」と、CERN所長でフランス人のロベール・エマール氏は語った。「LHCがどのような発見をもたらすにしても、われわれの世界の起源に対する人類の理解が大きく前進するだろう」 だが、CERNの研究者はこれまで、「LHCの実験は、強い重力を持つ小さなブラックホールを生み出し、それが地球を飲み込む恐れがある」という一部の憶測を否定することにも労力を割かざるを得なかった。 想像を超える熱とエネルギー宇宙学者は、約150億年前にビッグバンが起こったとしている。とてつもなく高密度かつ高温で、小さな硬貨ほどの大きさの物体が、当時の真空の中で爆発し、噴出した物質が急速に拡散して、星や惑星、そして最終的に地球上の生命が誕生したという。 しかし、総額100億スイスフラン(約90億ドル)のCERNのプロジェクトは、比較的シンプルなプロセスから始まる。陽子ビームをリング状の地下トンネル内で周回させることだ。 技術者はまず、トンネル内の密閉された粒子加速器内でビームを一方向に送る。 それを行ったら(CERNの担当者は、すぐに、あるいは最初の数日で成功する保証はないと話している)、ビームを逆方向に送る。 次に、恐らく数週間後に、ビームを両方向に送って陽子同士を衝突させる。ただし、当初は低い強度でだ。 その後、恐らく年末近くに、ビッグバンの熱とエネルギーを再現する極小規模の衝突を発生させる。現在、宇宙の起源に関するビッグバンの概念は、科学的な考え方の主流となっている。 研究者は測定装置を利用して、衝突で発生する大量の粒子を観測し、それらが集まったり、飛び散ったり、あるいは単に分解したりするところをコンピュータで記録する。 研究者はこうした条件の下で、ヒッグス粒子を早期に発見したいと考えている。ヒッグス粒子は、物質がどのように質量を獲得したかを説明する理論を1964年に初めて提唱したスコットランド人の研究者、ピーター・ヒッグス氏にちなんで命名された。 質量がなければ、ビッグバンから数十億年の間に宇宙に星や惑星が形成されることはなく、地球に生命は誕生しなかった。多くの宇宙学者が考えるようにほかの星にも生命が存在するとしたら、そこにも生命は誕生しなかったことになる。 一方、CERNの実験を中傷する声もある。 インターネットのWWW(World Wide Web)は20年近く前、素粒子研究の成果を世界中の研究者に伝達する手段としてCERNで生まれたが、そのWebでは今、LHCは、地球を飲み込むブラックホールを作り出すという説が飛び交っている。 「ナンセンスだ」とCERNなどの主要な研究者は述べている。「LHCは安全であり、LHCがリスクをもたらすかもしれないという指摘は、すべて根も葉もない作り話だ」とエマール氏は強調した。 関連記事
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