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【社説】

厚生年金改ざん 徹底調査でけじめを

2008年9月10日

 厚生年金の標準報酬月額(給与水準)の改ざんに職員が関与したことを社会保険庁がやっと認めた。以前からその可能性が指摘されていた。放置していた責任は大きい。徹底的に調査すべきだ。

 標準報酬の改ざんは昨春、年金記録不備問題が明るみに出た直後から指摘されていたが、社保庁は職員の関与を否定していた。一転して認めたのは、社会保険事務所の元職員や会社社長が実名で不正を証言したため否定しきれなくなったからだ。

 しかも公表は福田康夫首相の辞任表明の後だ。どさくさに紛れ、批判や影響を最小限に抑えようとの意図さえ感じられる。

 保険料は、標準報酬に一定の保険料率をかけて労使折半で負担する。社保庁に届ける標準報酬を本来よりも少なくしたり、加入期間を短く改ざんすれば、事業主の負担は少なくて済む。社保事務所職員も見かけ上は保険料の収納率を向上させ、点数稼ぎできる。改ざんされた従業員は、将来の受給額が減って大きな被害を受ける。

 今回のケースでは、保険料を滞納していた会社社長の分割払いの申し出に対し、社保事務所職員が標準報酬の引き下げを指導していたことが分かった。

 だが、総務省の「年金記録確認第三者委員会」が既に標準報酬改ざんを認定して記録訂正した十六件については、依然として職員の関与を認めていない。

 一昨年、国民年金保険料の不正免除・猶予問題が発覚した際、調査が進むにつれて不正が全国的に行われていた実態が明らかになった。保険料納入の仕組みに精通し、見かけ上の収納率を上げようと思えば容易に思い付く手口だ。

 今回も同様である。職員の関与が一件だけとは信じがたい。

 受給者は社保事務所へ行き確認した方がいいかもしれない。社保庁は改ざんの可能性を訴える受給者には真摯(しんし)に対応し、職員への調査を徹底的に行うべきだ。

 社保庁は、厚生年金記録の中に標準報酬の不自然な変更がないかを調べて該当者に通知し、受給者には現役時代の標準報酬の履歴を送り、確認を求めることにしている。当然のことだが、昨年指摘されたときにすぐに取り組むことができたはずだ。いつも後手に回り、国民の側に立っていないことへの反省がいる。

 二〇一〇年には社保庁の年金部門が「日本年金機構」として独立する。それに乗じてうやむやにしてはならない。

 

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