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【社説】

汚染米転売 これは『事故』ではない

2008年9月10日

 「怒り心頭」。三笠フーズから汚染米をそれとは知らずに買い入れた焼酎メーカー社長のこの言葉は、愛飲してきた消費者の怒りでもある。官民のなれ合いがまた一つ、食への不信を募らせた。

 減反の必要性が叫ばれながら年間七十七万トンのコメが米国や中国などから輸入されている。国内農業の保護政策と引き換えに日本が受け入れたミニマムアクセス(最低輸入量)があるからだ。輸入米はみそや酒、菓子類への加工用などにされている。

 大半が船で運ばれてくるため、水にぬれたり、かびが生えたり、あるいは日本の基準値以上の残留農薬が検出され、食用にできないコメが出る。政府はこれらを「事故米」とし、工業用のりや建設資材の原料など、用途を限って安く払い下げている。

 三笠フーズの不正は十年に及ぶとされ、ここ五年の政府売却分の約四分の一を落札したほか、商社経由でも「事故米」を買いあさり、酒造会社に転売して「利ざや」を稼いでいたようだ。

 裏帳簿や偽領収書を作成して「食用」の袋に詰め替えるなど、組織的、計画的で悪質だ。

 厳しく責任を追及し、国内での流通ルート、農薬の混入経路なども早急に解明しないと、食への不信はますます募る。

 それにしてもふに落ちないのは、農林水産省の対応だ。五年で百回近くも立ち入り調査しながら、これだけの不正を見抜けないのでは甘いと言われても仕方がない。

 どうせ、ご飯としては食べられないコメだから、「売り払えればそれでいい」という気持ちの緩みはなかったか。官民のなれ合いが、地域でまじめに業績を伸ばしてきた焼酎メーカーを窮地に追い込み、コメの多用途化に水を差す。農水省の責任は軽くはない。

 「中国製毒ギョーザ事件」と言われるように、メタミドホスは毒物だ。「健康には影響がない」と言われても、メタミドホス入りと承知で「毒米」が払い下げられてしまったことに、そもそも感覚のずれがある。「毒米」は見つかれば、輸入元へ返品するか、廃棄すべきではないか。

 消毒された種もみは、薄く着色を施し、間違って食べないように区別している。食用外に限るなら、このような目印を施して流通させるべきである。

 官民ともに「食べ物」に対する姿勢をさらに厳しく改めないと、生活者の不安はぬぐえない。

 

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