社会保険庁の不祥事は、いったいどこまで続くのか。開いた口がふさがらないとはこのことだ。
9日、年金関係閣僚会議への報告で、厚生年金の支給算定の基礎となる標準報酬月額(給与水準)の改ざんに社会保険事務所職員が関与したことが明らかになった。社保庁は厚生年金の全受給者に対して標準報酬月額や加入期間を記載した通知を送ることに加え、コンピューター記録を調査し不自然な訂正があった場合に本人に通知することを決めた。
総務省の年金記録確認第三者委員会には数多くの改ざんの事例が申し立てられ、昭和50年代から行われていたことが分かっている。もっと早く準備を整え、標準報酬月額の記録を受給者に送ってチェックをしてもらう手続きを取るべきだった。対応が後手に回ったことで、年金不信を一層加速させてしまった。
業績悪化で社会保険料を減らしたい事業主、標準報酬月額を低くし保険料負担を減らしてでも徴収実績を上げたい社会保険事務所、双方の思惑が一致して改ざんが行われた。その結果、従業員の年金は減額されてしまう。滋賀県の社会保険事務所元課長は民主党の会合で「標準報酬月額を最低ラインまで下げるよう企業に指導した。改ざんは組織ぐるみだった」と証言している。
社保庁は第三者委や外部から指摘のあった17件のうち、職員の関与が確認できたのは1件と報告した。これだけだとはだれも思ってはいない。身内調査の甘さがあったとすれば問題だ。
政府が早急に取り組む課題は山積している。まずは、職員による改ざんの事実調査を全国で行う必要がある。調査は身内ではなく、第三者が行い、透明性を保つべきだ。その上で、違法行為が見つかれば適切な処分を行うのは当然だ。
改ざんについて元課長は「本庁が知らないはずがない」とも証言している。社保庁の関与はなかったのか、幹部は知っていたのではないかという点についても厳格に調べるべきだ。
次に全受給者への標準報酬月額の通知だが、これもできる限り早く実施すべきだ。コンピューターのプログラムを構築するのに時間がかかり、来年の秋以降になるというが、遅すぎる。
通知が届いても、年金受給者が標準報酬月額の改ざんを見つけるのは容易ではない。会社の倒産や、存続していても賃金記録が保管されていないケースも多いからだ。受給者本人が当時の給与明細や金融機関の通帳などで確認することになる。
厚生年金の改ざんは何件くらいあるのか、社保庁の組織ぐるみの改ざんは、どこまで広がっているのか。こうした国民の疑問に政府は包み隠さず事実を公表する責任がある。ズルズルと事実の解明を延ばしてはならない。
毎日新聞 2008年9月10日 東京朝刊