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社説

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9・11テロから7年―新しい連帯を作り出そう

 米国が同時多発テロに襲われた時、テロに立ち向かう米国を後押しする声が世界中からわきあがった。多くの国の人々が悲しみと衝撃、怒りを共有し、こうしたテロリズムを根絶したいと感じた。

 国際テロ組織を許さず、蛮行を繰り返させないために、どの国も汗をかかねばならぬ。そんな連帯感が広がっていた。「コモングラウンド」(共通の土俵)に立って対テロの行動を考える雰囲気が確かに存在していた。

■弱まるばかりの結束

 それから明日で7年。

 米国主導でアフガニスタン、イラクで戦端が開かれ、軍事力による制圧は今も続く。その後、米国への大規模テロは起きていない。ブッシュ大統領は、米国の外で戦ったからこそ国内の安全を守ることができたと胸を張る。だが、世界の多くの人々が共有したはずの幅広い連帯感はもはやない。

 何が起きたか、振り返ってみよう。米国と伝統的な同盟国との結びつきにひびが入り、「古い欧州、新しい欧州」「有志連合」といった言葉が飛び交った。イラク戦争をめぐって生じた米欧同盟内の亀裂は今なお尾を引き、イラク再建での足並みはそろわない。

 アフガニスタンは民主化に歩み出したはずだったのに、ここ2、3年でタリバーン勢力が盛り返し、治安は悪くなっている。ビンラディン容疑者は拘束できていない。米国は同盟国に兵力の増強を促すが、犠牲の大きさや展望の乏しさに多くは二の足を踏む。

 アフガニスタンの隣国パキスタンでは、米国の対テロ戦争に協力的だったムシャラフ大統領が辞任に追い込まれ、政情不安が続く。

 「アルカイダの勝利の方程式は、イスラム社会の人々の不満につけ込み、西洋世界、とくにアメリカに対する終わりのない抗争に駆り立てることだ」。ライス国務長官は米誌「フォーリン・アフェアーズ」への寄稿にこう書いた。それが分かっていながら、この7年間、イスラム社会への反米意識の広がりになすすべがなかった。

 イランの大統領が反米世論をあおり、ウラン濃縮に突き進んでいるのも、それと無縁ではなかったろう。

■テロに勝つ方程式を

 かつて「私たちは米国民とともにある」と当時のプーチン大統領が語ったロシアは、オイルマネーで盛り返した経済力を背景に、米国に挑戦する姿勢をあらわにしている。

 いったい、あの連帯感はどこに行ってしまったのか。

 「米国の敵か、味方か」。ブッシュ政権が振りかざした単純な正邪二元論の罪は重い。テロの背景には歴史や民族など複雑な要因も絡む。同盟国にもそれぞれの事情があるし、イスラエルを支援する米国にイスラム諸国はもともと不信を抱いている。

 ブッシュ政権は、いわば「アメリカン・グラウンド」(米国の土俵)での戦いに偏り過ぎたために、世界の信頼と影響力を弱めることになった。その結果として、連帯の土俵は浸食されていったのではなかったか。

 米大統領選挙を争うオバマ、マケイン両候補は、テロとの戦いをどう立て直すか、それぞれの戦略を訴えている。イラクからの撤退であり、あるいは従来の軍事作戦の継続だ。だが、根本的なところで求められているのは、「コモングラウンド」をいかに再構築するかという問題なのだ。

 日本や欧州の国々はもちろん、イスラム諸国の多くが参画でき、ロシアや中国も受け入れられる土俵をいかにつくり出すか。

 軍事力は必要だが、軍事力の使い方は洗い直す必要がある。テロの温床を断つために、その国自らの「内発力」を発揮できる支援を強めなければならない。

 ライス氏は「われわれの勝利の方程式」をこう説明した。イスラム世界の人々が自らの利益を平和的に追求し、自由な環境のなかで尊厳を持って生活できる。そんな民主的な道筋があると示すこと。

 異論はない。世界がこの方程式のために結集できる土俵をつくり直さねばならない。

■日本も合意をさぐれ

 日本は対米協力に腐心してきた。小泉政権がイラクに自衛隊を派遣したのはその象徴だ。おかげでブッシュ政権との関係は良好だったが、テロを抑え込むための国際社会の取り組みに日本はどのようにかかわっていくべきか、方向性を定めきれないまま、ここまできてしまった。

 インド洋での給油支援活動の継続をめぐって、自民党は「テロとの戦いから日本だけが抜けていいのか」と言い、民主党は「憲法違反」と真っ向から反対する。

 給油支援の是非は、何よりアフガン安定の視点から吟味されなければならない。軍事的な制約の下で、日本には他にできることはないのか。世界共通の課題について、日本国内の「コモングラウンド」を築く責任が両党にはあるはずだ。

 ブッシュ大統領の8年が間もなく終わる。失われた世界の連帯を回復するために、米国の新指導者の責任はとてつもなく重い。同時に、新しい日本の指導者はそれをどう受け止め、支えるべきなのか。そこが問われる選挙の季節が始まった。

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