国民の多くが、福田首相の突然の辞任に当惑し憤っている。1年弱の任期中に、見るべき成果を上げなかったという辛口の評価も目立つ。たしかに、後期高齢者医療制度への批判などを通じて、社会保障制度への不信は大きく高まったし、道路特定財源の一般財源化も宙に浮いたままだ。
では、福田首相は何も残さずに去ってゆくのか。そうは思わない。それは首相が、「低炭素社会の実現」という、日本経済が生き残る道、実現すべきビジョンを明確に示したと考えるからだ。
原油・資源高、環境破壊の深刻化に直面する中で、それらを乗り越える経済・社会をいち早く構築することが、日本経済の持続的発展を可能にする原動力である。そのために先進的な省エネ技術や環境技術を用いて、エネルギー効率が高く環境負荷が小さい経済や社会を実現すること、それに合わせて、産業構造や国民生活の行動様式を柔軟に変えること、そして、そのような変化を促す制度やインセンティブを作ることが求められている。
それが日本の強い競争力と成長の源泉となることは、これまでの石油ショック後の経験が証明している。福田ビジョンは、二酸化炭素排出量の大幅な削減とそれを実現するための具体的方法論、技術革新とその普及、環境税の導入などを通じて、日本経済が進むべき方向とビジョンを示したものだったのである。
自民党総裁候補予定者、民主党代表は、そのようなビジョンをどこまで具体的に示すことができるのだろうか。積極財政派にしろ、財政再建派、構造改革派にしろ、「日本のビジョン」を語らず、成算の怪しい神学論争を繰り返すだけでは、国民の支持は得られまい。(山人)