先日、ロシア出身の幕内力士だった若ノ鵬(20)が、マリファナ(大麻)所持の容疑で逮捕され、日本相撲協会を解雇された。 日本で、マリファナに対する視線は厳しい。仮に、若ノ鵬の一件について、「たかだかマリファナぐらいのことで」といった論調で書くと、間違いなく激しい反論を受けることになるだろう。 マリファナを吸うと統合失調症を発症するとの見解がある。しかし、マリファナを一服するや、直ちに発症するわけではない。「朝から晩までマリファナを吸い続けるような生活を続ける人の中に、統合失調症を発症する人が見られる」という言い方をするのが正確だ。マリファナが蔓延すると、統合失調症が「増加する」とも表現されるが、仮にその統計が正しいとして、もともと何らかの精神障害を持っていた人が、マリファナを常用したことによって統合失調症を誘発した可能性もあり、さらに慎重な調査が必要なテーマなのだ。 朝から晩まで酒を飲み続けるような生活を続ける人が、健康体でいられるとは、とても思えない。しかし、だからと言って飲酒を違法にはしない。いっぽう、マリファナ=イコール=精神病の原因であり、だからマリファナの喫煙を規制すべきだとの理屈は、堂々とまかり通っている。 いわゆるドラッグ(麻薬)は、大きく2種類に分けられる。ハードドラッグとソフトドラッグである。 ハードドラッグには深刻な中毒性・依存性があり、脳や身体を蝕む副作用を起こす。また、重い鬱症状や凶暴性などを誘引し、反社会的な問題行動〜犯罪行為(怠惰、厭世、破壊、放火、暴力、殺人など)に繋がる恐れがある。ヘロイン、モルヒネ、コカイン、メタアンフェタミン(覚醒剤)などがこれにあたり、麻薬及び向精神薬取締法や覚醒剤取締法によって厳しく規制されている。 ハードドラッグは非常に危険だ。使ってはならないし、規制されて当然である。 ソフトドラッグには、マリファナだけでなく、酒やタバコも含まれている。中毒性・依存性がハードドラッグほど顕著ではなく、脳や身体への悪影響(副作用)もハードドラッグよりは小さく、反社会的な問題行動〜犯罪行為に結び付く懸念がハードドラッグほど持たれていないものを指す。あまり考えたことがない人は多いかも知れないが、酒やタバコも、れっきとしたドラッグの一種なのである。 むしろ、アルコールやニコチンの中毒性・依存性は高いとも言える。また、アルコールの場合、反社会的な問題行動〜犯罪行為に結び付く危険性が皆無ではない。ニコチンは健康への悪影響が、はっきりと示されている。それでも、合法なのだ。 では、なぜマリファナを特別に取り締まろうとするのだろうか。 すなわち、ゲートウェイ理論に基づいているのだ。 この理論では、まずゲートウェイドラッグを定義する。ゲートウェイドラッグとは、より依存性や副作用の強いハードドラッグへと誘導する可能性のあるドラッグのことだと断定され、酒やタバコ、シンナーなど有機溶剤、脱法ドラッグ、そしてマリファナを指す。 ゲートウェイ理論の流れは、次の通りである。 (1)ゲートウェイドラッグを使うことで、「ドラッグと呼ばれるもの」そのものへの抵抗感が消える。 (2)ゲートウェイドラッグを覚えると、さらに強い快楽を求め、ハードドラッグを体験したくなる。 (3)ゲートウェイドラッグはハードドラッグと密接に存在するから、使用者がハードドラッグの密売組織と連絡を持つようになる。 (4)つまり、ゲートウェイドラッグは、ハードドラッグへの移行を招く入門編であるから、規制されなくてはならない。 ゲートウェイドラッグには酒やタバコが含まれているから、例えば、「酒」に置き換えて考えると、この理論は正しくないことが容易に納得できるはずだ。(3)については正しいように感じるかも知れないが、そもそもマリファナが違法とされているからこそ、ほかの違法(ハード)ドラッグと同じ密売組織で取り扱われているに過ぎない。マリファナを合法化すれば、むしろハードドラッグの密売組織から離れることになる。 ちなみに、全米科学アカデミー・医学研究所の報告(1999年)によると、マリファナがハードドラッグへのステップになっていることを明示するデータは無いという。 ゲートウェイ理論は、とくにマリファナなどのソフトドラッグをターゲットにして、規制の根拠/大義を整えるため、取り入れられているに過ぎない。 欧米諸国の多くでは、マリファナの所持や喫煙などを非合法としているものの、少量のマリファナ所持なら犯罪と見なさない、あるいはマリファナの所持や喫煙を摘発しても刑罰に処さないなど、非犯罪化、非刑罰化が進んでいる。 そうした「マリファナに対する寛容な政策」には、ハードドラッグの蔓延と、それに伴う(注射器の使い回しによる)HIVの感染拡大といった社会的実態を踏まえ、ソフトドラッグを容認することで、ハードドラッグへの移行を防ごうとの狙いがある。ゲートウェイ理論とは、まったく逆の発想だ。 こんにち、日本におけるハードドラッグ蔓延の実態もまた、欧米を追いかけるかたちで深刻さを増している。最も懸念されるのは覚醒剤だが、やはり注射器の使い回しや、覚醒剤使用時にセイファーセックス意識が欠落することによる、HIVの感染増加が危惧されている。欧米の社会的実態は、いずれ確実に日本へも波及するだろう。 マリファナは、酒やタバコと同様、ともにソフトドラッグの一種である。そして、やはり酒やタバコと同様、100%安全でもなければ、100%危険でもない。もとより酒やタバコと同様、ハードドラッグとは、明確に区別して考えるべきだ。 酒やタバコがそうであるように、マリファナについても、その利点と問題点を公正かつ客観的に情報開示し、そうした上で、喫煙するかしないか、個人の主体的判断に委ねるのが、行政府の姿勢として願わしい。 ましてや、マリファナを吸う行為、マリファナを吸った人間について、まるで極悪非道であるかのように伝えるマスメディアの論調は、とても真実を伝えているとは言い難い。 大麻取締法に違反したことで、社会的制裁を受けるに至った人たちは、年間数千人に及ぶようだ。日本相撲協会を解雇された、元幕内力士の若ノ鵬もその一人だが、彼らの「犯した罪」の実際より、その刑罰や社会的制裁のほうが遙かに重い現実は、けっして真っ当な状況とは思えない。 日本の薬物政策のあり方とともに、マスメディアのマリファナに対する偏向報道にも、この際、一考を促したい。 |
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