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以前は、飛び込み分娩も普通に受けていました。
最初に経験したのは医者になって2年目、救急指定病院に勤務していた時です。
その地方の基幹病院ですから、何でも受けるのが当然と思っていましたし、
何でも受けることを使命と考え、何でも受けられることに誇りを持っていました。
ですので、救急隊が「自宅分娩後、十代前半の女性と新生児」と連絡をしてきても、
小児科の先生も私も、何とも思いませんでした。
今、同じことをするとしたら、2年目の医者としては無謀です。
でも、当時の上級医師たちも病院管理職もみな、普通の搬送例として捉えていました。
最後に経験したのは約3年前、産科医療崩壊元年の一年前です。
当時勤務していた地方基幹病院が、分娩取り扱いを休止し、
医局派遣撤退が決定した後、撤退を実行するまでの間のことです。
産婦人科は「宅直」と言って、自宅待機しながら、
必要時は電話で指示を出したり、場合によっては病院に駆けつけるという体制を取っていました。
休日の夕方、病院から電話がかかってきました。
出ると、その日の内科系当直の血液内科の先生(50代のベテラン先生)からです。
「腹痛の女性が運ばれて来たんだけれど、妊娠しててガンイだからさ、なな先生、来てくれる?」
・・・ガンイ??
まずは、「顔位」を診断した血液内科の先生、すご過ぎます(笑)!
「顔位」とは、本来頭頂から出てくるはずの赤ちゃんが顔から出て来てしまう、異常分娩です。
帝王切開にするしかありません。
産婦人科医でも、研修医レベルでは診断すら困難なものです。
それを、内科の先生が「顔位」なんて・・・!!
結局、その日の外科系当直だった呼吸器外科の先生と帝王切開をし、ママも赤ちゃんも無事でした。
後日、血液内科の先生に
「先生、すごいですね。どうして顔位とご診断なさったのですか?」
とお聞きしても
「ははは」
としか答えて下さいませんでしたが。
その世代の先生方の、臨床力の計り知れなさを感じたエピソードでした。
時代は、変ってしまいました。
専門医不在を理由に受け入れを断ると、メディアにバッシングされます。
基幹病院が30分以内に帝王切開できないと、多額の賠償金を払わないとなりません。
若い医師の使命感も、ベテラン医師の臨床力も、封印せざるを得ない世の中になってしまいました。
何が、いけなかったのでしょう。
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コメント
コメント一覧
>時代は、変ってしまいました。
>専門医不在を理由に受け入れを断ると、メディアにバッシ>ングされます。
>基幹病院が30分以内に帝王切開できないと、多額の賠償金>を払わないとなりません。
>若い医師の使命感も、ベテラン医師の臨床力も、封印せざ>るを得ない世の中になってしまいました。
>何が、いけなかったのでしょう。
市民が自己の権利ばかり主張して義務を果たさなかった結果だと思います。
テレビでは「行列のできるなんとか」というどうしようもない状況設定で「訴えてやる」の連呼、
医療訴訟では何でもかんでも患者側提訴の段階で「医療ミス」と声高に叫ぶ状況(もちろんその後の裁判の状況の報道は皆無であるため市民にはその医者は悪いことをしたと刷り込まれる)、
国民皆保険制度をいいことに医療費未払い、
最近は給食費、保育料、NHK受信料でしょうかね。
モンスター患者にモンスター親。
諸悪の根源は一方的偏向報道のマスコミとそれに迎合した一部の市民だと思います。
(マスコミの関してはHCV肝炎和解問題で、政府の和解条件提示に対して涙ながらの患者側の訴えを延々と流し、それこそ情報操作そのものです。当然HCV患者の方々がモンスターでないのは言うまでもありません)
大阪府内の分娩取り扱いの病院(診療所除く)で、すべての時間帯に30分以内に帝王切開できる施設は、56施設週2施設のみ。
それも大規模NICU併設で、1000件以上の分娩数があるところのみであるそうです。
「産科医療のこれから」の僻地の産科医さまがレポートを書き写してくれてあります。http://obgy.typepad.jp/blog/2007/12/post_1341_9.html
大阪府のような大都市でさえ達成できない基準で裁かれるのはフェアじゃありません。
日本において緊急帝王切開術の30分ルールは、ファンタジーの世界での基準ではないでしょうか?
学会が30分ルールを最終目標にすると提言するのは無責任です、理想の基準しかないとそれが一人歩きすることに危惧を感じます。
1.実際の各診療所での平均時間(自施設C/S、搬送したC/S)
2.中規模(産科医3人以下)の病院での平均時間
3.大規模3次施設での平均時間(自施設、診療所からの搬送C/S)
について、学会や医会が、現実の所要時間の調査をするべきではないでしょうか?
今現実に行える医療について、データーをだしてその地域、施設での基準を作ること、(外来に掲示してもいいです)
出来ることと無理なことの区別をつけておかないと、
どこの地域、施設でも30分ルールが適応されてしまいます。
例えば、人口当たり一番産婦人科医師数が多い徳島、島根での平均所要時間についてなど、是非教えてほしいものです。
10年前の深夜の子宮破裂で胎児娩出まで42分かかったからCPになったと、当時の大規模病院が30分ルールを根拠に訴えられています。その当時としては脅威の早さでしたが、アメリカの30分ルールで攻め立てられています。
お産は安全だと無邪気に信じこんでいる患者さんに、事故がおきてから産科医療の現実はこんなものだといってもとうてい聞く耳を持ちません。
患者と医療者の信頼関係をこれ以上損なわないために、是非調査と広報、そして現実のデーターに基づく対策という前向きな行動を期待します。
私も、医師連盟に参加しました。
理想も大事、上を目指す事も大事なのはわかります。でも、現実もみて欲しいのですよね。
>何が、いけなかったのでしょう。
本当に。何がいけなかったのでしょう?
医療の対象者の権利擁護はもちろん必要なことだと思います。ですが,その権利を履き違えてきたのではないでしょうか。「患者様」呼称が権利擁護ですか?アメニティー重視が権利擁護ですか?なぜ,当然のことを説明して,「患者の気持ちをわかってない」とクレームという形で出てくるのでしょう。もちろん,医療者側のコミュニケーション不足など,問題になる場合もあると思います。でも,医療はホテルのような純然たる客商売ではないのです。(似たところはありますが・・・)
以前,私が行った研究に「バースプランで産婦が望むこと,そして実際に行っていること」というものがあります。そこでみえてきた現実は「安全,安楽なお産」を希望しているけれど,自分がそのために努力していることは「体重管理やお産に関する勉強」などを上げている方もいらっしゃいましたが,多くの方が「医師に任せます」との結果で愕然としたことがあります。ただ,愕然とするのではなく,それを現実ととらえて,私達の仕事を根本的に見直さなければ,と今は考えていますが。その研究から5年以上たちました。現実はあまり変わりません。むしろ,ひどくなりつつあるのではないかとの印象はあります。ここらへんで,この状況にストップをかけなければいけません。
すみません。語りすぎてしまいました・・・
>何が、いけなかったでしょう。
患者の方も甘えてしまっているのですね。
◯◯様という呼び方にも、違和感を感じます。◯◯さんでいいと思うんですけどね。
ホスピタルは、語源ではホテルに由来するとも聞きますが、そこまでサービス業ではないと思います。
医療者と患者の日頃からの意思の疎通が重要なのだと思います。
かかりつけ医って大事ですよね。
飛び込み分娩は意思の疎通がなく、医療者も妊婦の方も大変だと思います。予備知識がないまま分娩になるのですから。
この方の経過は?なんて言う事もあるのでしょうからね。
助産師のななさんのおっしゃる「医師に任せます」という方が多いのは、「初めてだから分からない」方が多いのとのと、「自分で自分の責任を負うのは辛い」というの方がいらっしゃるのだと思います。
私(44歳♂で×イチ)に児が授かる事はないと思いますが、なな先生の様な方に巡り会える方が羨ましく思えます(嫉妬かな?)
ほんとうに、どうしてこうなって
しまったのでしょうか?
私の地域でも、次々に
産婦人科が、産科を止めてしまうという
現象がおきています。
産科医が、「もう嫌だ、外科医になる」
なんて、産科を離れてしまったり・・・。
命をこの世に送り出すという、本来
尊い素晴らしい職業であるはずが
使命を全うする誇りの裏に
ただただ、過酷で、残酷な現実。
どれほどのかたがたが理解しているでしょうか?
マスコミは、まるで医療者が
悪意を持って受け入れを断っているかのように
報道します。
違うのに・・・・・・。
ほんとうに、どうしてこうなってしまったんでしょうか・・。
これから、どうなるのでしょうか。
1ナースとして、1母親として、
産科医への感謝と尊敬を持つものとして
考えさせられる現実です・・・。
「死を受け入れられない」人たちが増えているということは、日々の診療で感じます。先日は95歳の肺炎の患者さんの娘さんから「できるだけの治療をしてください!なんとかお願いします!」と泣きつかれてしまいました。老人の死でさえ受け入れられない家族が増えているのに、ましてやこれから生まれてくるはずの赤ちゃんの死は到底受け入れられないことは想像に容易いです。しかし、その矛先が産婦人科医に向けられ、そのことで婦人科医療を逆に萎縮させてしまう現在の状況には、非常に心を痛めています。
国民が死生観を考え直す時期にきていると思います。
ところで、顔位と診断した内科の先生は、産婦人科診療の経験がおありなのでは?と思いました。私の医局には産婦人科医として2,3年仕事をしてから内科に転向した医師が2名おりますので。
明快で、非常に痛快無比です(笑)
あまりにその通りで、コメントの余地がありません。
> 市民が自己の権利ばかり主張して義務を果たさなかった結果だと思います。
恐らく、今より良い医療が提供できていた時代は、そうではなかったのだと思います。
医者は聖職であることに誇りを持ち、
患者さんも礼節を保って、上手につき合って下さいました。
ある時、そんな姿が美徳ではなくなり、
権利を主張した者がいい目を見る世の中になってしまったのはないでしょうか。
どこかで歯車が狂ってしまったように思います。
「義務を忘れた医師たち」と書き立てられていましたが、
義務を忘れた人たちは、他にいるのではないかと思います。
> 日本において緊急帝王切開術の30分ルールは、ファンタジーの世界での基準ではないでしょうか?
全くです。
現場の産婦人科医であれば、容易に理解できることでしょう。
しかし現実には、30分でC/Sができなかった点を瑕疵と扱われている判例があります。
仮に、通常であれば30分C/Sが可能な施設であっても、
他科のopeが重なっても、NICUに具合の悪い子が大勢いでも
尚、30分C/Sを可能な状態にするには、
とてつもない過剰供給の状態にしなくてはなりません。
現状と照らし合わせたら、もう笑うしかないでしょう。
現状を一般に知らせるには、外来に掲示するのもひとつの方法ですね。
当院ではマザークラスでお話しています。
そうですね。
理想は大切ですが、現実とあまりにかけ離れていては
ファンタジーでしかなくなってしまいます。
大変興味深いご研究をなさっていましたね。
> 多くの方が「医師に任せます」との結果で愕然としたことがあります。
私も今知って愕然としました(苦笑)。
う〜ん、これは、困りましたね・・・
ご研究から5年以上とのことですが、やはりもっとひどくなっていると私も思います。
当院でも妊婦さんに各々のバースプランを書いてもらっています。
その中に、「何でも私の希望の通りにしてほしい」というものがあり、
みなで絶句しました。
最近は、地道に現実を知ってもらうしかないのかな、と思っています。
> この方の経過は?
おっしゃる通り、飛び込み分娩の怖さはここにあります。
経過も含めて、例えば実は心臓が悪いなど基礎疾患があるかも知れないし、
さらに恐ろしいのは、感染症の有無がわからないことです。
その妊婦さんだけの問題ではなく、病院全体に感染症が拡がってしまうことだってあるのですから。
> 「初めてだから分からない」方が多いのとのと、「自分で自分の責任を負うのは辛い」というの方がいらっしゃるのだと思います。
ああ、そうなんですね。
思い至ったことのない、患者さんの視点です。
教えて下さったことに、感謝します。
後者は、我々にもどうすることもできませんが、
前者に関しては、接し方があると思います。
少し、考えてみます。
お褒めの言葉、ありがとうございます(笑)
> 命をこの世に送り出すという、本来
尊い素晴らしい職業であるはずが
我々の職業をご理解下さって、ありがとうございます。
産婦人科には、他の職業にはない神聖さと明るさがあります。
私自身も、辛さより楽しさの方が上回っているので、
夜中のお産も笑顔で立ち会っています。
しかし最近、今日まで生き残って来た同期ですら辞めてしまう状況を見て、
いつか自分の気持ちも変わっていくのかもしれない、という
危うさは感じます。
医療が崩壊しかけている現状は、マスコミの悪辣な報道による部分もかなりあります。
しかし、マスコミが売ることを唯一の目的とした「商業」である以上、
彼らに改善を求めるのは不可能です。
賢い市民が、真実に目を向けることに期待しています。
95歳の方のお話、驚きました。
生命や健康に理不尽なマイナスが及んだ時、
誰かの責任にしたくなる気持ちはわからないでもないですが、
このままでは「自然死」という概念は、消滅するのでしょうか。
> 国民が死生観を考え直す時期にきていると思います。
「天国へのビザ」をご執筆された先生の、重い言葉です。
先生のおっしゃる通り、きっと産婦人科の経験のある先生なのではないかと思います。
多くの他科の先生は普通、妊婦と聞いただけで尻込みしてしまうし、
ましてや内診しようという気には、ならないですよね(笑)
>後者は、我々にもどうすることもできませんが、
「自分で自分の責任を負うのは辛い」という方も医療者を含めた周りの方とのかかわり合いの中で、変わってくると思いますよ。
「インフォームドコンセント」の重要性だと思います。今は幸いな事に、患者も充分な情報が得られれば、医師と一緒に治療法を考え、選択できる時代です。医療者の方に更に負担がかかる事とは思いますが、結局は患者にとっても、医療者にとっても良い事だと思います。
それにしても、日本人は熱しやすく冷めやすいのでしょうか。一時よく聞いた「インフォームドコンセント」という言葉を最近聞かなくなった気がします。
一般に浸透したとは思えないのですが。
>お褒めの言葉、ありがとうございます(笑)
次のエントリーを読んだらもう、完全に嫉妬ですね。(笑)
確かに、以前ほどはインフォームドコンセントという言葉を
聞かなくなったような印象があります。
最近は、それに代わって(?)何でも同意書を取る傾向にあるようです。
以前だったら口頭で説明していただけの検査にも
同意書を取るようになりました。
患者さんにとっても、後で読み返せるというメリットはありますが、
起こりうるリスクに、かなり恐ろしいことも書いてあって、
本当にあれでいいのか、疑問に思うこともあります。
> 次のエントリー
うふふ(笑)
たびたび失礼します。周りから「平気な顔でキツいことを言う」と言われている者からの言葉ですので、少し割引いて読み取って下さいね。
>何でも同意書を取る傾向にあるようです。
>以前だったら口頭で説明していただけの検査にも
>同意書を取るようになりました。
これは患者にとっては、医療者側が医療訴訟に対して過敏に反応している様に感じます。
万万が一何かあった時に、「同意書に記名押印しましたよね。」と言われそうな雰囲気です。
以前のように医療者と患者の間に信頼関係が成り立っていれば、このような事にはならなかったのではと思います。
きっとここが、なな先生のおっしゃる「本当にあれでいいのか、疑問に思うこともあります。」という事なのですね。
同意書への署名は、法的効果はほとんどありません。
撤回可能なものですし、
医療者側のメリットは唯一「説明義務違反」に問われにくくなることくらいです。
でも、患者さんから見たら、物々しくて、いい感じではないですよね。
同意書そのものが、医者・患者関係の亀裂の元になっているのだとしたら、
皮肉で、残念なことです。
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