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私の勤務する病院には、医学生や看護学生、研修医が実習・研修に来ています。
元気でひたむきな彼らを見ていると、自分が学生だった頃のことを思い出します。
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外科の実習に回っていた時のことです。
受け持ち患者さんは、年配の女性でした。
何の手術だったかは覚えていないのですが、お腹をあける手術で、
当然のことですが、術前には非常に不安そうになさっていました。
無事に手術が終わって、麻酔から醒まそうとしている時です。
少し醒めてくると、うわごとのようなことを言ったり、手足を動かしたりすることがありますが、
その患者さんも、「終わったんですか」とうわごとのように言いながら、
どこか握るところを探しているかのように、手をさまよわせていました。
近寄って「終わりましたよ」と耳元に言いながら、しばらく手を握っていました。
しかし、学生が患者さんの脇にいたら、邪魔になります。
麻酔科の先生や看護師さんたちが、
慌ただしく血圧を測ったり、麻酔の醒め具合を確かめたりしています。
手を放してその場を離れようとしたら、
その様子をご覧になっていた麻酔科の先生が、言いました。
「手を握るのも立派な医療行為だ。しっかり握って差し上げなさい」
あれから10余年たちますが、この時の麻酔科の先生の言葉は
今でも医療を考える際の、基礎になっています。
もうひとつは、内科を回っていた時のことです。
朝から教授回診がある日、遅刻ぎりぎりで病院に到着しました。
ロッカーに吊るしてある聴診器をひったくって、白衣に袖を通しながら、内科病棟に走ります。
真冬の廊下は寒く、息が白く吐き出されます。
病棟に駆け込むと、回診は既に始まっていました。
こっそり末尾に着くと、ちょうど受け持ち患者・Mさんの順番です。
「担当の学生さんは誰だったかな。あ、ななさんですか。
ではななさん、肺の音を聞いて下さい。」
慌てて、握った聴診器を耳にあてました。
しかし、真冬の空気に晒されていた聴診器は冷たく、
ちょっと患者さんに当てられる状態ではありません。
「あの、先生・・・」
軽く20人近くいる白衣の集団の目が、一気に私に注がれます。
「ん? どうしましたか」
「その、聴診器が、まだ冷たいので・・・」
どっと笑い声が起きました。
その後、どうしたかは覚えていません。
午後、その患者さんMさんのところに行きました。
Mさんからかけて頂いた言葉です。
「私は”冷たい聴診器は当てられない”というあの言葉に、感動しましたよ。
どうか、いいお医者さんになって下さいね」
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目上の先生や年配の患者さんに、温かく育てて頂いた自分は、
とても幸せだったと思います。
そんなご恩をお返しするには、今、目の前にいる若い医療人たちを温かく育てることだと思うのですが、
一体、自分にそれが、どれだけできているのか。
ふと立ち止まって、考えています。
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コメント
コメント一覧
尊敬できる人がいる職場って、いいですよね。
昔、私も新人だった頃、とあるトラブル対応で、
上司が、うろたえている私を見て、
「うそをついたら、あかんよ(ダメだよ)」と、
言われました。
きっと、その場を取り繕うとしていたのを、
見破られたのかも(汗)
でも、最近はそういう大人の教育をしてくれる上司が、
いなくてちょっと淋しいです。
なな先生の周囲にいらした先生方や患者さん達も素晴らしいですが、
そうした人達に恵まれたのは、なな先生のお人柄があってのことだと思います。
最近は医療についてネガティヴな印象の記事が多いですが、
先生のこの記事を読んだら、医師を目指す若い人達が前向きな気持ちになれると思います。
日曜の朝からとても良い記事を読ませていただきました。
ありがとうございます。
とても大切なことですが、医療現場でこういうことを教える上司はあまりいませんね。本来は教えられなくてもわかりきったことですが。経験年数だけはあっても、こういう心がけができていない医師がいることも事実です。
学生の頃から患者さんに思いやりを持って接していたなな先生、さすがですね。医師の鑑です。
こういう風に教えてくださった先生たちがいたこともすばらしいですし、先生がちゃんとその麻酔科の先生がおっしゃったことも覚えていたことが、温かいですよね。
冷たい聴診器を当てないとか、お腹を拭くときは温かいタオルでとか、ちょっとした心遣いは看護師教育ではかなりたたき込まれました。でもついつい忘れちゃうんですよね。ちゃんと思い出さなきゃ!と思いました。
暖かさの再生産、、という事を考えました。暖かく育てられた人は、下のものに対しても、暖かく接して育てることができる、のだと思いました。
アメリカの国家試験ではstep2CS、日本の医学部でもOSCEと言って患者さんを診察する姿勢を教官がみて審査することになったのは患者さんにとって良いことですし、医者にとっても教科書だけからは学べない得がたいものです。
後達の方が我々よりもいい医学教育を受けているのかもしれませんね。
> 一体、自分にそれが、どれだけできているのか。
>ふと立ち止まって、考えています。
こんな風に考えてくれる先生ですから、充分できていると思いますよ。
お忙しいとは思いますが、心に余裕を持って接してあげて下さいね。
最近レスが多いようなので、
それぞれにコメントされるなな先生はお疲れになってるのではないかと思いましたが、
すぐにこんな暖かい話がだせる先生にほっとするやら、引き出しの多さに感心するやら。
でも、本当にこのblogを読むと、先生を育てた環境の素晴らしさに羨ましくも思います。
そして、自分がどれだけ後輩達に良い影響を与えられるかと考えると冷や汗ものですね…。
ふんどし締め直して!ってかんじで自戒します。
どの仕事でも、新人の頃って一番感受性豊かで、
吸収しやすいし、傷もつきやすいのだと思います。
そんな時に、見てくれている上司がいるのは、ありがたいですね。
> でも、最近はそういう大人の教育をしてくれる上司が、
いなくてちょっと淋しいです。
これは私も何となく感じることですが・・・
でも、そういう上司が減ったのではなくて、
さまようSEさんも私も、教育する方の立場に近寄っているから
そう感じるのかも知れませんよ(笑)
心温まるメッセージをありがとうございます。
産婦人科医になって10余年、
ひと通り修羅場も、醜い現実も見てきたと思っています。
医療を取り巻く現状、厳しい将来を見据えて、
こんな時だからこそ、言いたかったものがありました。
気持ちを汲んで下さって、ありがとうございます。
記事にこめた2つのメッセージを、さらりと
「本来は教えられなくてもわかりきったこと」
とおっしゃっている先生もまた、
こんな医療を、きっと当たり前のようにこなしていらっしゃるのでしょう(笑)
記事にしたような気遣いは、看護師さんの方が長けていますね。
でも、患者さんに対する思いやりは、医者にも不可欠です。
忙しい中に身を置いているとつい忘れそうになるのは、
私もおんなじです。
共に頑張りましょう(笑)
>暖かさの再生産
素敵な言葉です!
心の中にあった気持ちを、しっかりと意味づけして下さいました。
智恵を授けて下さって、ありがとうございます。
アメリカのこと、日本の最近の医学部教育、
どれも新しく知ったお話でした。
> 後達の方が我々よりもいい医学教育を受けているのかもしれませんね。
こんな風に思えるのって、素敵なことですね。
朝から爽やかな気持ちになりました。
ありがとうございます。
> 心に余裕を持って接してあげて下さいね。
そうそう、これが結構、難しいんですよ〜
平素は大丈夫なのですが、産婦人科医療の現場って
一瞬で修羅場と化すことがありますので、その時が危険です。
心がけます(笑)
ずっと前からこのブログをお読み下さっているthux a lotさんにお褒め頂くと
また違う嬉しさがあります。
いえいえ、私もおんなじ、冷や汗ものなんです(笑)
「新人とちゃんと接している?」とはっと立ち止まる時、
私を教育して下さった先生方は、何と気が長かったことだろう、と思い、
穴の中に隠れたくなることも(笑)
非常に重要な医療行為だと思っています。
今でも、自分の担当した患者さんはすべて、
麻酔前に手を握ることにしています。
先生のような方が、大学病院の外科でリーダーシップを担っていらっしゃることを思うと、
まだまだ日本の医療はいける! という気持ちになれます。
温かいひと言を、ありがとうございます。
>「手を握るのも立派な医療行為だ。しっかり握って差し上げなさい」
私も母が辛い処置をされている時には、毎回、手を握ったり、足をさすったりして、少しでも辛さを和らげてあげたい一心でやっていました。
私がやっていたことは母の為になっていたんだなって、改めて思いました。なな先生ありがとうございます。
最近、尊敬する先輩医師から聞いた言葉です。
その先生は植物状態の患者さんに接するような仕事をしています。
「我々医療スタッフが手を握るのと、ご家族が握るのでは、
全く違うメッセージが伝わります」
全く反応しない患者さんでも、ご家族が手を握ると流涙されることもあるのだそうです。
私の母は、まさにICUで1か月人工呼吸器をつけて、生死の境を彷徨っていました。
痰が肺に溜まるたびに、痰を取るための処置をするのですが、薬で眠らされていても、とても辛い処置のようで、顔をゆがめるし、体を動かすしと、そばにいた私は、思わず、毎回手を握ったり、足をさすったりして居ました。
いよいよ、命が危なくなり、数%の確率にかけて、ステロイドを行ったところ、見事に抜管して、一般病棟に下りることができました。
医療スタッフの皆さんのお力もありますが、母の生命力に加えて、私の力も微力ながら、貢献できていたのであれば、とてもうれしい事だと、解りました。
今でも、母のあの苦しそうな光景が目に浮かんで来ます。
なな先生、ためになるお話を本当にありがとうございました。
もし、私が病気や手術をすることになったら、夫に握ってもらうようにしますね(*^_^*)
きっと微力ではなく、強力な貢献だったと思います。
先日コメントに書いた先生のお話ですが、
医療スタッフの働きかけでは完全に無反応な患者さんが、
ご家族が話しかけると涙を流す、ということが
本当にあるのだそうです。
「病気になったらこの人に手を握ってもらおう」という人がいるのは
素敵なことですね(笑)
実家の母が胆のうを摘出した後、入院中のことです。
「手当」は、手を当てるのが基本と思い、母の背中を撫でていました。同室の患者さん(同じく胆のう摘出後、母より数日早かった)が、心配そうに「痛いの?」と聞くと、母は「ううん、甘えているの」と幸せそうに言いました。私も「甘えさせているの」と言って、病室の中が、ほんわかと暖かい空気になったのを思い出しました。
私のお気に入りの本に「祖父の恵み」(レイチェル・ナオミ・リーメン 中央公論新社)があります。なな先生は、レイチェルに似ていると思いますよ。どこがって「寄り添う感じ」としか、言えませんが。
>「ううん、甘えているの」
素敵っ!
お母様は、なんてかわいらしい女性でしょう。
いいなあ、年齢を重ねたら、そんな女性になりたいですね。
ご紹介頂いた本は、読んだことがありませんでした。
>「寄り添う感じ」
なんだかとても、興味が湧きます(笑)
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