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私の所属する医局の教授は、非常に立派な方です。
大学医学部教授というと、イメージされる独特の姿があるかも知れません。
例えば数年前、作家・山崎豊子氏の名作「白い巨塔」がテレビドラマ化されていました。
その中で、教授・財前五郎の自宅には、
黒塗りの車が運転手つきでお迎えに来ていました。
当科の教授は、国産の大衆車をご自分で運転していらっしゃいます(笑)。
同じく「白い巨塔」では、例の大名行列さながらの教授回診の風景が描写されていました。
あのような回診をやっている大学病院は、今となっては少数派ですが
実はうちの大学、まだやっています。
週1回、教授を先頭に、医局員たちが行列について回って
粗相のないことだけに血道を上げながら、
患者さんのベッドサイドで、病状と治療状況を教授にプレゼンテーションします。
「白い巨塔」では、医局員が必死で、レントゲンフィルムを掲げて、専門用語でまくしたて、
教授はそれを鷹揚に聞きながら、返事をしたり指示を出したりします。
患者さんはそっちのけです。
しかし、我が尊敬する教授はちがいます。
医局員の必死のプレゼンテーションは同じですが、
教授は必ず患者さんの横に回って、患者さんの肩に手を置き、抱くようにしながら
医局員のプレゼンをお聞きになっています。
そしてプレゼンが終わると、必ず患者さんに
「治療は、おつらいですか。どうかお大事になさって下さい」
「もう少しで手術ですね。夜はお休みになれていますか」
などと、お声をおかけになります。
教授らしい、ちょっと天上人のような雰囲気のある先生ですが、
患者さんたちも、教授の回診は楽しみにしていらっしゃるようです。
言うまでもありませんが、非常に優秀な方です。
近年、いわゆる高齢妊娠の体外授精による双胎妊娠が増加しています。
高齢妊娠では、陣痛が長引き難産になるリスクが高いと言われています。
一方、双胎妊娠ではお腹が張りやすく、切迫早産になりやすいことが知られています。
この両者を合わせ、教授は
「では、高齢妊娠の場合は、双胎はむしろ難産のリスクを軽減させるファクターと考えられますか」
と、非常に斬新な視点から、研修医に向けた課題を下さったことがありました。
十数年前、研修医として胸ときめかせて医局に入った時、
教授が下さったお言葉集があります。
転勤と引越しを重ねた今でも、その一枚の紙は
自宅の壁に貼ってあります。
・ 医学はサイエンスでありアートであり、根底にはヒューマニズムが流れている
・ 一人の患者さんに出会ったら、その分成長できる医師であれ
・ 日々、小さなことを着実に継続する(=偉大な凡人)
・ 失敗より学べば、失敗は成功より意味がある
・ 知識なき経験は、経験なき知識に優る
教授を、心から尊敬しています。
幸せなことです。
教授のお言葉の、続きです。
・ 常に疑問を抱く姿勢を維持せよ
・ 知識の集積は専ら新しいものの創出のためである
・ 他人の短所、弱点をみたら自己を点検せよ
・ 一時的な感情でもって永遠の方向を見失ってはならない
・ 自分を無能だと思わない限り人は皆有能である
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コメント
コメント一覧
素晴らしい教授がいらっしゃるんですね。
心から感動しました。
教授のお言葉
「医学」を「人生」に
「患者」を「人」
に置き換えてみたら、すべての人に通じますね。
生きる希望がわいてきます。
私も今日から自称・
私は、この世に。この教授や、そしてなな先生のような
素晴らしい方がおられるのだから、
「それでも、やっぱり、神様はいる」
って思いたいです。
上の投稿、最後から5行目
「私も今日から自称・教授のかくれ弟子」
です。
ごめんなさい。
また、母の話になりますが、そこは大学病院ではありませんでしたが、週に1回、部長回診がありまして、外科医師全員がぞろぞろと回ってきていました。私と母はいつもお昼寝の時間だったので、いつ来るのかと待ち構えていなくて、いやな時間でした。
それに、そんな優しい言葉なんてかけられることもなく、医師同士でごちゃごちゃと意見交換をして、いつも出て行きます。でも、ある日の回診で、母には決して耳に入れないようにと、主治医と2人で一生懸命に隠していたことを、ぽろっと母にも聞こえるように言った医師がいたので、私は主治医にすぐに抗議をして、部長回診から外してもらいました。
今思い出しても、母にはかわいそうなことをしたと思っています。私が母と同じ立場だったら、とても悲しかったと思います。
人生や人に置き換える。
素晴らしい発想です。
このくらいしなやかな発想を持っていろんなものを見たら
人生、より豊かになりそうですね。
> 「それでも、やっぱり、神様はいる」
ブログを始めた当初から「神様はいない」と表明し続けている私ですが、
最近、ここに皆様が下さるコメントの数々を読んで
そう言い切れる自信が揺らいで来ました。
聞けば聞くほど、お母様は大変でしたね。
回診の時は、患者さんに伝わらないように、専門用語で話すのですが
「そっちのけ」型の回診は、患者さんに申し訳ないといつも思っていました。
ベッドサイドに来る時間がわからないと、患者さんは落ち着きませんよね。
こういうところから、患者さんと医者との気持ちにずれが生じてしまうのかも知れません。
貴重なお話を、ありがとうございました。
おっしゃる通りで、教授を尊敬していることは私のパワーの源になっています。
幸せなことです。
在学中は尊敬しても 社会経験を重ねる内に 批判的に見がちです。
優秀な医学生だったんでしょう。 文章からも十分に窺い知る事ができます。
この教授のもとだから、なな先生のような素敵な産婦人科医が育ったんですんかね(^^)
僕も大切にしているものがあります。
前教授の執筆された画像診断の教科書に書いていただいた言葉・・・
「あせらず、着実に」
何気ない言葉ですが、
この教科書を見るたびに初心を思い出します(^^)
ありがとうございます。
学生の頃ですか?
当時の私を知っている人が聞いたら、笑い出しそうです(笑)。
>「あせらず、着実に」
素敵な言葉ですね。
それに、何だかメタボ先生らしくて(笑)。
こういう素晴らしい教授を見て育った先生も私も
やはり幸せだと、改めて思いました。
特に、最後の「知識なき経験は、経験なき知識に優る」ということばは、多くの修羅場を潜り抜けた経験の重さの上に語られる言葉だと思います。
たくさんありますが、ベスト1は
「外科医には何かができる」
でしょうか?
何か・・・ということばの響きが重厚で好きです。
あんまり、尊敬に値しない、とある教授の言葉ベスト1は
「悪い土壌からは、悪い作物しか育たない」
です・・・ちなみに・・
私も、この最後の一文が一番好きです。
でも、修羅場をくぐってきた、という視点から見ることはできていませんでした。
そう思うと、益々意味のある言葉ですね。
ありがとうございます。
10か条くらいあるので、自宅に戻ったら
こっそり少し追加する予定ですので、是非ご覧になって下さい。
「外科医には何かができる」
そうですね、「何か」に、非常に含みを感じます。
そして、個々の外科医がそれぞれ自分にできることを
大切にしていけばよいのだ、という広く温かい心遣いを感じました。
後半、「良い土壌からは、良い作物が育つ」にしたら
素敵な言葉になるのに。
もったいないですね。
「辛くない」という言葉の裏腹に顔色は悪かったです。態度は立派なものでした。
ネフローゼの子供にステロイドをしているのですが、なかなかよくならない。でも、「ここは動くべきではない」とか。アルブミンが低すぎて、補充するのに躊躇ったり。
最終的にパルスして、寛解した。親御さん、パルスは最後まで嫌がっていた。
「私の中で治療方針がゆるがないこと。ご家族の不安で医者の気持ちが揺るがないこと。」
孤独で不安な医者の精神を支えるのは,若く華奢な彼女に似合わぬおっさんくさい言葉。それは、多分師匠からの口伝。
「○○君が元気になったら,私はそれで,えへへ。」
私にも子供ができたら、家族の立場に立った治療が出来るのかな、と語る彼女は29歳。
中断、確かに若いドクターにはちょっと似つかわしくないかも知れませんね。
29歳では、最短で5年目の小児科医ですから。
最後の一文、確かに同じような立場になると気持ちはわかりやすいでしょう。
個人的には、要は同じ立場に立って考えようという姿勢が大切なのだと思っています。
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