日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | |
7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 |
14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 |
28 | 29 | 30 |
数年前、地方の中核病院に勤務していた時のお話です。
確か、日曜日の夜でした。
当直をしている3年目の先生から、電話がかかって来ました。
「A市の救急隊から、腹痛の女性の受け入れ要請が来たんですけれど」
病棟の状況を聞くと、分娩進行中の産婦さんが1人、
他に人手の必要な患者さんは、重症の癌患者さんが1人いました。
A市は、同じ県内ですが50km近く離れたところにあります。
よほど受け入れ先に難渋しているのだろうから、いいでしょう、うちで受けましょう、とお返事をすると、
「あ、あの、救急隊の話では、どうやら妊娠している人らしいんですけれど」
病院に行くと、救急車で来たのは、本当に妊婦さんでした。
どこの病院にもかかっていない上、最終月経もわからないため、診断に悩みますが、
赤ちゃんの推定体重は2000gくらいです。
腹痛は、切迫早産によるものらしく、
モニターを取るとお腹が張っており、子宮口も少し開いています。
そして、逆子です。
入院してもらうしかありません。
安静の上、お腹の張り止めの点滴をしながら、
赤ちゃんの成長を待つことになりました。
余談ですが、当時、病棟内に「ななの部屋」を持っていました(笑)。
物置きだった狭い部屋を整頓して、寝具と身の回りのものを運び込んで、
よく、その部屋に泊まっていました。
不法占拠ですが、ほとんど院内に私がいるので(当時、副部長職でした)、
むしろみんなが歓迎し、頼りにしてくれました。
その日も、「ななの部屋」に泊まりました。
翌朝、まだ8時前でしたが、院内PHSが鳴りました。
「すぐに病棟に来て下さい!」
とだけ言うと、切れてしまいましたが、
ただ事ではないだろうと、病室の方に走って行くと、
昨日救急車で来た妊婦さんが、廊下にうずくまっています。
急いでその場で内診すると、赤ちゃんのお尻が、すぐそこに。
そう、お産です!
何とか分娩室に運びましたが、分娩台の上に乗ると同時に、お産になりました。
幸いなことに、小児科の先生が朝早くからいらっしゃっていて、
すぐに駆けつけて下さいました。
しかし未熟児で、しかも妊婦健診にかかっていなかった赤ちゃんですので、
この後の集中治療に非常に手がかかったのは、言うまでもありません。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
様々な偶然が重なって、何とか無事(?)だった、エピソードです。
まず、若いドクター1人で、あの病棟の状況では本来受けられないところを、
何とか頑張って受けようとした、3年目ドクターの前向きな姿勢がありました。
「ななの部屋」があったために、逆子の未熟児のお産に、すぐ駆けつけることができました。
士気の高い病棟で、スタッフたちが使命感を持って協力してくれる雰囲気がありました。
小児科の先生が、たまたま朝早くからご出勤されていました。
もし、どれかひとつ、欠けていたら・・・
一番怖い思いをされたであろう、当事者の産婦さんの明るい笑顔に救われましたが、
その笑顔の、紙一重の向こうにあった危険に、身震いのする思いでした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そのしばらく後、この病院は、分娩取り扱いを中止しました。
今も日本のあちこちに、当時の私たちと同じような状況で、
ぎりぎりのところで、なんとか頑張っている病院が、存在します。
固定リンク | コメント (8) | トラックバック (1)
コメント
コメント一覧
今まで現場のがんばりにどれだけ産科医療が支えられてきたか・・・。このブログを読んだら、絶対に産科医を非難する事なんてできないはず。
先生の所では,未受診の妊婦さんが分娩にきたらどのように対応されていますか?
現在勤めているところではめったになくなりましたが,以前の勤務地では年に2,3回はあったと記憶しています。
介助者の血液感染を防ぐため完全防備でした。ゴーグルまでつけていました。
そんな格好の人が救急隊を玄関前でまっているのですから,異様な光景です。でも,おそらく,何もないとはいえ,怖い職場にいるなぁとかんじていました。(また,私,よくあたるんです)
今,かかりつけ医をもたない妊婦さんのことがニュースでもとりあげられていますが,妊婦さんのリスクはもちろんのこと,病院側のリスクも報道して欲しいのが正直な感想です。
私達も命をかけて仕事をしています。
妊娠は病気じゃないかもしれないけど、人の命がかかった大事です。
先生たちも必死でついていてくれるから、みんな無事でいられるってことを忘れないようにしないといけないですよね。
お疲れ様です。
連休中もきっとお仕事なんでしょうね。
かかりつけ医のない妊婦さんが、救急車で搬送されても
受入先がない問題ですけどね ...。
今の世の中、人の善意に甘えている人が多いような気がします。
いや、甘えるというか、その甘える行為自体を当然と思う人が、
これまた多いですね。
産科の医療スタッフが頑張れば頑張る程、その頑張りを
“当たり前”と感じるのが昨今の悪しき風潮です。
この現象は、別に医療現場だけではありません。
どの分野・領域でも、
供給者側の最大限の努力 = 需要者側の当然の権利
そんな理不尽な算式が成り立っているようです。
一体、この国の道徳・徳目は、どこに逝ってしまったんでしょうか?
あ、昨今のマスゴミの糞記事中でも、多少なりとも読める記事です。
『妊婦搬送拒否 多い「かかりつけ医」なし』
→ http://mytown.asahi.com/chiba/news.php?k_id=12000000709150004
世論も少しずつ、前向きに変わって欲しいものですね。
「たらい回し」。
私もこの言葉は、受け入れられません。
患者さんにも失礼ではないかと思うのです。
救急車の話題で医療バッシングをしているマスコミの人たちは、
病院が救急車を断る時、実際に中でどんなことがなされているのか、
想像したことがあるのかと、考えてしまいます。
いえ、想像じゃ、いけませんね。
受け入れを断ったその時の、病棟の状態を実際目で見てもらわないと。
未受診の妊婦さんの分娩は、やはり同じです。
感染症扱いで、分娩室の床にもシートが張られます。
マスコミに、医療従事者の危険を報道することを期待しても、無理ではないかと思います。
でも、未受診妊婦さんの分娩の実際なら
報道しようとするかも知れませんね。
「妊娠は病気じゃない」、この言葉、今でも妊婦さんにお話することがある言葉です。
でも、使い方を考え直すべき時期に来ているのかも知れませんね。
妊娠・分娩は、2つの生命の危険と、いつも隣り合わせなのですから。
やさしいメッセージをありがとうございます。
>どの分野・領域でも、
供給者側の最大限の努力 = 需要者側の当然の権利
そんな理不尽な算式が成り立っているようです。
悲しいことですが、おっしゃる通りではないかと思います。
崩壊しているのは、実は医療ではない、医療だけではない、
人の心ではないか。
最近、そんなことを思います。
でも先生、大部分の患者さんは、良識を持ち礼節を知った
善良な人たちです。
私たちも、そんな患者さんの温かい姿勢を「当然のもの」と思わずに、
大切にしないとなりませんね。
コメントを書く