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< 不妊治療にまつわる心の悩み | メイン | 分娩同意書 >
2007.07.29 18:53 |  診療  |  なな  | 推薦数 : 11

「あなたが一番」

何年か前の、盛夏の話です。

 

良乃さん(仮名)は、ホスピス病棟にご入院中の患者さんです。

70歳を越えた、笑顔の素敵な女性で、

毎日、男女2人ずつのお子さんご夫婦と、多くのお孫さんたちが

入れ替わりお見舞いにいらっしゃっていました。

広めのお部屋は、お花や果物、小さなお孫さんが描いた絵やお手紙で

いつもいっぱいでした。

 

誰に対しても、とてもたおやかに接していらっしゃいました。

ナースたちにも「あんなかわいらしいおばあちゃまになりたい!」と評判でしたし

他の患者さんたちにも人気で、若い患者さんが、良乃さんのお部屋で

泣きながら悩みをお話しているのを見たことがあります。

 

私にも、大変丁寧に接して下さいました。

ご自分の病状を把握し、運命を受け入れていらっしゃる良乃さんに

「生涯最後の出会いがなな先生で、ほんとに嬉しい」と言って頂いたことは

私の人生の宝ものです。

 

その日は、町の花火大会でした。

ホスピス病棟は病院の高層階にあるのですが、

良乃さんのお部屋からも、打ち上げ花火の音が聞こえるだけで、

花火は見えません。

その町で生まれ育った良乃さんは、毎年欠かさず花火大会を見ていたそうです。

「今日は、子供たちも花火を見に行っていますから」

珍しく、お見舞いの方が来ておらず、良乃さんは少し寂しそうでした。

ふと医局の机に、花火セットの残りがあるのを思い出しました。

何故そんなものを、しかも医局に持っていたのか覚えていませんが、

とにかく数本あったはず。

「良乃さん、花火、しましょう」

驚く良乃さんを車椅子で連れ出そうとしていると、

丁度そこへ息子さんが一人でいらっしゃいました。

かくして、病院の庭で、小さな花火大会!

 

良乃さんのお好きな線香花火に、火をつけて手にお渡しすると、

良乃さんは少女のように笑っていらっしゃいました。

息子さん(50代後半)は、5本くらい束にして一度に火をつけて、

大きな玉をつくって、得意そうにお母さんにお見せしています。

打ち上げ花火の大きな音を耳にし、小さな線香花火に見入りながら、

多分、来年の花火大会を見ることはできないことをご存知の良乃さんが

あの時、何をお思いだったかは、わかりません。

 

夏が終わる頃、良乃さんは亡くなりました。

 

ご家族が集まり、諸々の手配を話し合っている時のことです。

「おふくろは、俺が連れて帰る」

「兄さんは遠いし、お母さん、私のこと一番かわいがってくれてたから、私が」

「いや、うちの子供たちが一等なついてたし」

ご家族が、一瞬顔を見合わせて、そして笑い出しました。

良乃さんのお子さんたちは、みんな「自分が一番かわいがられている」と思っていたのです。

なんて素敵な子育てでしょう!

 

良乃さんを見送って、病室を掃除していると、

ティッシュに包まれた線香花火の切れ端が、数本見つかったそうです。

「生涯最後の出会いがなな先生で、ほんとに嬉しい」。

素直に喜んだ私ですが、良乃さんは、他の出会いにも

きっと同じように感謝されていたのでしょうね。

でも、私も良乃さん以外の患者さんも同じように大切ですから、

おあいこです。

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コメント

コメント一覧

いいお話ですねー。
亡くなる患者さんにとっては、主治医が人生最後の友達なんだと、研修医の頃に指導医から教わったことがあります。
良乃さんのような患者さんに会うたびに、自分はあんなかわいいおじいちゃんになれるだろうかと、40年先の心配をしてしまう私です。
written by rinzaru / 2007.07.29 21:26
なな先生
涙がこぼれました。

なんて素敵な人生なんでしょうか。
私も良乃さんのように生きたいです。
けれど最後の苦しみの中で
穏やかに優しく時間を過ごせるのか
わかりません…

でも強くなりたいですね。
まだまだ修行が足りません。
written by ジェイク / 2007.07.29 23:10
こんばんは
なな先生

自分の人生の終末に、穏やかな気持ちでいられることは、自分も理想とする所ですね...すばらしい話です。
written by いなか小児科医 / 2007.07.29 23:48
 自分のうれしい感情を言葉にして周りの人に伝える・・・素敵なことですよね。
きっと、良乃さんはそれをずっとずっと続けて来た方なのでしょうね。

感謝の気持ち・・・もっているだけでも良いのですがそれを言葉にして伝える事をしてみる。
きっと、生活に爽やかな風が吹きそう。言われるとうれしいですよね。
written by ぴょん / 2007.07.30 12:33
いいお話でした。
やさしい ななさんに 抱かれて、、、
穏やかな表情で逝かれたのでしょうね。
written by 犬と猿 / 2007.07.30 17:49
rinzaru先生、こんにちは。

人生最後の友達、ですか。
そう思うと、ますます真摯に接しないとなりませんね。
素敵な指導医先生です。

良乃さんはきっと、ずっとかわいい人だったのだと思います。
かわいい女の子、かわいいお姉ちゃま、かわいい奥様。
きっとみんな、今のまま歳をとるのでしょうね。
written by なな / 2007.07.30 19:24
ジェイクさん、こんにちは。

素敵な人生ですよね。
良乃さんのやさしさは、お子さんたちがしっかりと受け継いでいらっしゃいました。
何しろ、みんな「自分が一番」と思っていながら、
あの時まで、口に出していなかったのですから。

良乃さんは、70歳を越えた女性です。
ジェイクさんも私も、
お修業は、まだまだこれからです(笑)
written by なな / 2007.07.30 19:31
いなか小児科医先生、こんにちは。

穏やかな、お見事な、逝き様でした。
written by なな / 2007.07.30 19:32
ぴょん先生、こんにちは。

感謝の気持ちを、言葉にして伝える。
とっても大事なことですね。
そして、口に出すことを続けていると、
不思議と何かに感謝する回数が、増えてくるような気がします。

「すみません」という言葉を、全て「ありがとう」に変えてみると、
ちょっと素敵じゃない?と、思っています。
written by なな / 2007.07.30 19:36
犬と猿先生、こんにちは。

良乃さんは、眠るように逝かれました。
今より忙しかったけれど、
今より豊かな臨床ができた頃のお話です。
written by なな / 2007.07.30 19:37
私は今は生命のはじまりに携わる立場ではあるけれど,始まりは終わりにつながるのですよね。

最近,終わりということも考えるようになりました。
自分の終わりはどうありたいか。終わりに向かうためにどう生きていけばよいのか。メメント・モリですね。

>今より豊かな臨床ができた頃のお話です。
人との交わりが失われないようなかかわりを私達は全力で護らなければいけない時期にさしかかっているのですね。
written by 助産師のなな / 2007.07.30 22:38
この話を読んでいて、母親の入院の時のことを思い出しました。花火大会は、母も毎年見に行っていましたが、その日は緊急手術になってしまい、私は母が眠っている部屋で、花火の音だけを聞いていました。

廊下を隔てた部屋や屋上では、花火を見ることができるので、他の患者さんが花火を楽しんでいる様子が聞こえて来て、とても悲しかったことを思い出しました。

今でも、花火を見ると、母を思い出してしまいます。母も良乃さんのように、最後まで素敵な人生を送ったと私は信じています。

私も、そのようになりたいと思っているのですが、果たしてできるかどうか? 私もまだまだ修行が足りないです。
written by バリ島 / 2007.07.30 23:46
助産師のななさん、こんにちは。

ご存知のように、医療全体が壊れ始めました。
「萎縮医療・防衛医療」と言われるように
訴訟沙汰にならないような医療が、優先されるようになってきました。
それは、医療の豊かさと引き換えになってしまいました。

誰かが言っていました。
「医者が病気ではなく、法律を恐れるようになったらおしまいだ」。
そう、ならなければ、いいのですが。
written by なな / 2007.07.31 07:31
バリ島さん、こんにちは。

四季の移り変わりの豊かな日本では、
その季節ごとに、思い出すものがあります。
特に大切な人との、季節が背景となる記憶は
日本人特有の情緒ではないでしょうか。

> 母も良乃さんのように、最後まで素敵な人生を送ったと私は信じています。

こう思えるバリ島さんと、バリ島さんのお母様は、本当に素晴らしいと思います。
私も、まずはその域まで修行しなくては、です。
written by なな / 2007.07.31 07:39
お久しぶりです、なな先生。

すっかりPCから遠ざかってリアルな人間になってました(^^;

ホスピスでのご闘病の患者さんのお話は、正直辛すぎて普段ならあえて読まずに白やぎさんになってしまう私です。

でも、皆に愛されて臨終を迎えた良乃さんは、本当に人間として素敵な方だったんでしょうね。
群馬の出張先で線香花火をしていた私も、偶然この記事を拝読して、思わずコメしてしまいました。
written by 来夢 / 2007.07.31 18:40
来夢さん、お久しぶりです。
ご無事で、しかも現実の世界の人をやっていた(笑)とお聞きして
安心しました。

ホスピスのお話だと白やぎさん、なんだかわかる気がします。
ホスピスのお話も、新生児のお話も、
書けずにいるものが、いくつかあります。

ところで、気がついたらこのブログも1歳になっていましたよ(笑)
written by なな / 2007.08.01 06:54
なな先生、こんにちは。
とてもいいお話ですね。
今日も暑い一日でしたが、心の中に涼風がとおっていきました。
私も良乃さんのような可愛らしいおばあちゃんになるのが目標です。
まだまだ修行の日々が続きます(^_^;)
written by mizuho / 2007.08.01 17:53
なな先生、今晩は。
先生のエントリーを見て、うちの病院群を思いました。
このエントリーとは余り関係ないかもしれませんが、まぁ、余興の一つとして。

うちで新規採用したナースさんに、異動(配属先)希望調査をすると
決まって1位は「こども専門病院」、最下位が「がん専門病院」のようです。
でもね、定着率はその逆になります。
1位が「がん専門病院」で最下位が「こども専門病院」です。
個人的には以外な感じがしますが、「がん専門病院」を希望するナースさんは、
“その覚悟(看取り?)”を持って配属を願うようです。
緩和ケア棟も当然、例外ではありません。
逆に、「こども専門病院」は、ここに入院する子供さんが、余りに可哀想といいましょうか、
彼らを見続ける、耐えるのを嫌気するそうです。
この病院の技術水準は自慢ではありませんが、自慢しても良い水準だそうですが、
この病院に入院して、笑顔で退院する子供の割合は ...。
又聞きなので、正確かどうかは分かりませんが、ふと、その話を思い浮かべました。
なな先生、くれぐれも御自愛の上で御活躍くださいね。
written by 通行人A (その6) / 2007.08.01 23:04
mizuhoさん、こんにちは。
最近普通の時間(?)にコメント下さいますね(笑)
かわいらしいおばあちゃまでしょう。
産婦人科医をやっていると、
素敵な女性の先輩に、何人もお会いしますよ。
written by なな / 2007.08.02 18:52
通行人A(その6)先生、こんにちは。

興味深いお話ですね。
胎児や新生児の悲しい結末も耐え難いものですが、
小児病棟は・・・
そうですよね。
それでも、必要なのですから、尊い仕事と思います。

やさしいメッセージをありがとうございます。
written by なな / 2007.08.02 18:56
うーん相変わらず心が洗われる素敵なエピソードです。
悪性腫瘍の患者さんとの関わりあいはとても難しいと思います。
先生と話をすると元気になる気がする・・・・そんな言葉で頑張ってしまう単純な僕です(^^)
written by メタボ / 2007.08.03 00:14
メタボ先生、こんにちは。

心身医学会雑誌にあった言葉です。
「医師自身が、全ての薬や治療法に優る効果を持つ医療ツールでありたい(Doctor as s medicine)。
先生のようなドクターのことですね、きっと。
written by なな / 2007.08.03 17:53
久々の更新、待っていました。本当に素敵なエピソードですね。お子さんたちも素敵ですね。いい家族ですね。もう、読みながらうるうるしてしまいました。メタボ先生のおっしゃるとおり、先生が、一番の緩和医療なんだと思います。すばらしいです。
written by green leaves / 2007.08.03 22:27
green lesves先生、こんにちは。

素敵なご家族でしょう?
本文には書きませんでしたが、
吉乃さんは、先立たれたご主人のことを
さんざんのろけて下さっていました(笑)

緩和ケアは、本当に難しいものです。
もう少し年季を経てからでないと無理かな、と思っています。
written by なな / 2007.08.04 06:02
マイアミに住んでいた時、一番残念だったのは四季の移り変わりを感じることが出来なかったことです。マイアミの姉妹都市には四季があるはずですが、、、、
春の桜、夏の花火、秋の紅葉、冬の雪。今住んでいる町は冬は大変ですが四季があるから気に入っています。
日本人ですから死ぬ間際は四季を感じて最後を迎えたい。自分も最期は畳の上で四季を感じたいと思います。
written by Tai-chan / 2007.08.11 03:53
Tai-chan、こんにちは。
先生らしい趣のあるコメントに、微笑んでいます。
死ぬ間際には四季。
そうですね、共感しますが、
私自身は、一瞬で最後を迎える方が、いいかな。
written by なな / 2007.08.11 13:12

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