民主党の小沢一郎代表の三選が決まった。八日告示の代表選には小沢氏以外の立候補者はなく、無投票となった。党内論戦を欠いて代表が選ばれたのは残念なことだ。
間近に迫る次期衆院選は政権選択の選挙といわれる。民主党が多数を占めれば小沢氏が首相になる可能性は高い。自身も「民主党が衆院選で日本の政治を負託されれば、当然職責を全うしなければならない」と述べる。政権交代すれば、首相就任を目指す考えであろう。だからこそ、代表選は小沢氏と他の候補者が堂々と政権構想を論じ合ってほしかった。政策に磨きがかかるはずだった。
自民党総裁選は、多数の候補者で争われる公算が大きい。論戦が活気づきそうなだけに、無投票となった民主党代表選には一層の寂しさを感じる。有権者に民主党の政策を訴え、理解を深めてもらう貴重な機会を失ったのではなかろうか。
小沢氏に付きまとうのは「強権的」「説明不足」との批判である。さらに、福田康夫首相との間で持ち上がった大連立構想が党役員会で反対された時には辞任騒動に発展し、短気さも印象付けた。
昨夏の参院選では指導力を発揮して与野党逆転を実現させ、選挙に強い小沢神話を定着させた。剛腕の実力者であり、政権奪取は小沢氏のリーダーシップが欠かせないとの党内世論が広がった。代表選で小沢氏に対抗する候補者擁立の動きはあったものの、結局実現しなかった。党内結束を優先したのだろうが、代表選に名乗りの上がらない人材不足が露呈したといえなくもない。
代表選が実施されなくなったことで、党員・サポーターは投票権を行使できない。代表選びで票を投じられることを期待して党費を納めている人は多いはずだ。党員・サポーターは不満を募らせないだろうか。
共同通信社が福田首相退陣表明を受け、三日にまとめた全国緊急電話世論調査結果では、政権の枠組みで「自民党中心」への支持が「民主党中心」を上回った。今年三月調査以来、約半年ぶりの逆転だ。人気のなかった福田首相に代わる新たなリーダーへの期待感が高まっているのだろう。自民党総裁選で政策論争が盛り上がれば、民主党に対する関心は低下しかねない。
三選が決まった小沢氏は、年金制度改革など政権構想の骨格を発表した。次期衆院選に向け、きちんとしたマニフェスト(政権公約)に仕上げ、有権者が納得のいく政策を訴えることが重要だ。
ロシア出身の露鵬と白露山の両力士が専門の検査機関でも大麻の陽性反応を示した問題で、日本相撲協会の北の湖理事長がついに辞任した。
理事長の辞任はやむを得ないと思う人が多いのではないか。今回の件だけでなく、力士死亡事件では「警察にお任せするのが一番」と発言するなど、相次ぐ不祥事で理事長の当事者意識と危機感の薄さが目立った。後手に回る対応にファンの不信感は深まるばかりで、むしろ辞任は遅すぎた感さえある。
理事長は両力士の陽性反応発覚後から「二人は絶対にやっていないと言っているんだから、すぐに結論は出さない」と言い続けてきた。だが、専門機関による精密検査でも陽性反応が出たからには、一定のけじめをつけるのは当然といえる。
辞任を決定づけたのは、理事長が白露山の師匠だったことだ。一連の不祥事で、理事長は一貫して「師匠と弟子の問題」として自らの責任には触れずにきた。今回、逃れようのない結果に直面し、窮地に追い込まれたとしか言いようがない。
理事長は緊急理事会の冒頭で辞任を表明し、了承された。理事の間では理事長解任を求める動きもあったとされる。これ以上、混乱を拡大させないための決断だろう。
協会によると、理事長が任期途中で引責辞任するのは初めてである。理事会では後任の新理事長や両力士の解雇処分なども決まった。今回の理事長辞任を個人の資質の問題として片付けるのではすまされまい、新理事長の下で、組織を挙げて出直す覚悟が必要だ。
まず自浄能力に欠けたような角界の体質改善が急務である。内輪の力士出身者で占める理事会の在り方などを含め、抜本的な改革が求められる。
(2008年9月9日掲載)