新潟県上越市の上川谷地区は冬になれば3メートルを超す雪に閉ざされる限界集落だ。1人暮らしのミヨさん(76)は自分が食べる分の野菜を作りに、毎日畑へ出る。
要介護ではないが手足がしびれ、腰も痛い。通院の足はNPO法人の移動サービスだった。車で40分、タクシーなら1万円を超えるところを安く送迎してもらえた。なのに2年前、中止に追い込まれた。
背景はこうだ。生活のために移動サービスを利用したい高齢者は増えた。一方で地方のバス会社は規制緩和で競争が激化し、赤字路線が廃止される。NPOなどは細々とサービスを続けてきたが、運賃を取ると違法になってしまう。そこで合法化したのが06年の道路運送法改正だった。
ところがやはり規制緩和で経営難に陥ったタクシー業界が強く反発した。国はNPOの事業からミヨさんのように要介護でない人を外すなど、条件を付けた。そのため収益が悪化したNPOが撤退に追い込まれているのだ。
ミヨさんは今、1日4便の地域バスが頼りだが、それも通学に利用する子がいなくなれば、どうなるか分からない。全国移動サービスネットワークの杉本依子理事長は「外出が減れば寝たきりになるリスクは増す。病院に行けず、1日3回の薬を1回に減らす人もいる」と嘆く。
国は高齢になっても自宅で暮らせる社会づくりを進める。ならばまず、地域の足を確保すべきではないか。人が移動することは元気に生きることと直結している。
ミヨさんは息子の家に来いと言われても断っている。「東京にはむしる草もねえ」
毎日新聞 2008年9月10日 0時09分